第十一幕 26 『VSヒュドラー』

 浄化の風が優しく吹き流れる部屋の中、ヒュドラーとの戦いはいよいよ激しさを増す。


 最も厄介な攻撃である毒霧のブレスは封じることができたが、まだ難儀な能力がヤツにはある。


 それは……



「せぇーーーいっ!!!」


 裂帛の気合から振るわれるルシェーラの槍戦斧ハルバードの一撃が、ヒュドラーの首の一つを切り落とす!


 しかし…!



 切り落とされた首はたちまち再生していき、再びニョキっと頭が生えてきてしまった。

 そして直ぐに攻撃を再開して来る。



 そう、この再生力の高さこそがヒュドラーのもう一つの能力なのだ。



「分かってはいましたが、中々厄介ですわね…!」


「だが、完全に元通りと言う訳ではない。さっきよりも首が短くなっている」


 カイトの言う通り、ルシェーラが切り落として再生した首は、切り落とす前よりもかなり短くなっていた。



「ですわね。でしたら再生が追い付かなくなるまで攻撃あるのみ!」


 ルシェーラの言う通り、それもヒュドラーの攻略方法の一つ。


 他には、全ての首を同時に切り落とすなり潰すなりする方法。

 若しくは…跡形もなく消し飛ばしてしまうような攻撃を当てるか。


 前者は、タイミングが非常にシビアだ。

 後者は、この閉ざされた空間であの巨体を消し飛ばす程の攻撃は、こちらにも危険が及んでしまうだろう。


 となると、ルシェーラが言った方法が一番現実的だろう。

 再生の限界となるまで攻撃し続けて…隙があれば首の同時撃破も狙う。



 毒霧が無効化された今ならば、魔法火力はミーティアとリーゼさんに任せて、私も前衛に加わった方が良さそうだ。



 そう考えた私は、リヴェラを薙刀形態に変化させて前に出る。

 合わせてケイトリンも両手剣クレイモアを手に前衛に加わった。



 フォーメーションチェンジ後は…


 カイト、ルシェーラが壁役タンク兼アタッカー。

 ターゲットを取りつつ攻撃を行う。


 私とケイトリンは遊撃アタッカー。

 足でかき混ぜて手数で勝負。


 ロウエンさんは引き続き弓で牽制しながら、ケイトリンに代わって後衛の護衛。


 ミーティアは魔法攻撃を継続。

 リーゼさんも一通り支援魔法バフをかけてから魔法攻撃。



 一方、最大の攻撃手段である毒霧のブレスを封じられたヒュドラーは、5本の首による直接攻撃主体に切り替えてきた。


 単純な物理攻撃ではあるのだけど、三位一体ならぬ五位一体の連携攻撃を繰り出してくる。

 単発でも重く鋭い攻撃はかなり厄介なのだが、それが巧みに連携してくるので、一瞬たりとも気が抜けない。


 流石はAランク…いや、準Sランクと言っても良い程の強さがあるだろう。




 そんな強敵と、私達は激しい戦いを繰り広げる。

 ダメージを与えては再生し、五本の首による攻撃を掻い潜っては更にダメージを与え……そんな攻防を幾度となく繰り返す。



 そして……



「てやぁーーーっっ!!!」


 ザンッ!!



 私が振るった薙刀の渾身の斬撃が首の一つを一息に切断する!


 そして、これまでと同じように即座に再生し……いや、再生が遅い!


 ボコボコと首の切断面の肉が盛り上がって行くのは同じだが、そのスピードが格段に落ちている。



「再生速度が落ち始めた!みんな!もう少しだよっ!!」


 あと一息という所まで来たことを確認して、私は皆を鼓舞する。


 ここが勝機だと、一斉に畳み掛けるべく私達は攻勢を強めようとする。



『フシャーーーッ!!』


 しかし、追い詰められたヒュドラーも、これ以上はさせてなるかとばかりに激しく暴れ始める。

 連携も何もないなりふり構わない攻撃だが、今まで以上の苛烈さで前衛に襲い来った。


 その勢いは私達の攻撃の勢いを削ぎかねないものだったが…



「[絶凍気流]!!」


 そこに、ミーティアの上級冷凍魔法が炸裂した!


 極低温の猛烈な冷気がヒュドラーにダメージを与えるとともに動きを鈍くさせる。


 そのチャンスを逃さず、私達は一斉にそれぞれの最大の攻撃を叩き込む!



「はぁーーっ!!」


「でりゃぁーーーっっ!!」


「せいぁーーーっっ!!」


 三種の神聖武器と両手剣クレイモアによる斬撃が、急所を的確に穿つ矢が、炎と雷の魔法が、一斉にヒュドラーに襲いかかり……!



『くぉぉぉ……ん!!』



 そして、再生の限界を超えた攻撃を受けたヒュドラーは……断末魔の叫びを上げて、遂に地に倒れ伏したのであった。


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