第十一幕 12 『ガエル対スレイン』

 ガエル君スレイン先生の試合である。



「寸止めなんて考えなくて良いぞ。全力でかかってこい」


「…はい」


 …何さ、私達には散々釘を刺したクセに。

 でも、それだけ実力差があると言うことなのだろう。

 だけど…ガエル君はプライドを刺激されたんじゃないかな?

 感情の揺れがあまり無い人だから分かりにくいけど、内に秘めた闘志は相当なものだろう。





 ガエル君の武器はいつも通りの大剣。

 学園で用意されているものの中では最大級のものだ。


 一方のスレイン先生が手にするのは、オーソドックスな長剣。

 先生はあらゆる武器を使いこなし、かつては『武芸百般』の二つ名を持つ冒険者だったらしいが…一番得意なのは長剣だと聞いたことがある。




 さて、試合開始の合図の後は静かな立ち上がりだ。


 スレイン先生はどっしりと構えて相手の出方を待ち、ガエル君は少しづつ前に出ながら間合いを測っている様子。



 そして、あと一歩で攻撃が届く…というところで、ガエル君が動く!



 一気に間合いを詰めたガエル君が、上段に大きく振りかぶった大剣を渾身の力で振り下ろす!!


 ぶんっ!!


 猛烈な勢いのその攻撃を、スレイン先生はすっ…と紙一重で事もなげに回避する。


 だが、ガエル君の攻撃はまだ続く。

 勢い余って地面を抉ると思われた振り下ろしを、圧倒的な膂力で無理やり止めて、剣を翻して横薙ぎの斬撃を繰り出す!!


 先生は、今度は差し出した長剣で刃を滑らせながら力の方向を変えて、斬撃を上方にいなしてしまう。



 ここでガラ空きになったガエル君の胴に斬り込めば、その時点で試合終了だったろう。

 だが、これはガエル君にアドバイスするための手合わせなので、直ぐに終了させるはずもなく、そのまま続行だ。






 その後も、ガエル君が攻撃して先生が受ける…というやり取りが繰り返される。


 学園一とも噂されるパワーから繰り出される怒涛の攻撃は正に圧巻とも言えるものだが……それを全く危なげなく捌く先生の技量が凄まじい。

 必要最小限の動きで一切の攻撃を受け付けない。

 テオやお義母さまの鉄壁の防御に近いものがあるね。


 やはり先生は只者ではなかった。

 引退したとは言っても、かつてのAランク冒険者としての実力は衰えていないのだろう。




 そして、私には彼の弱点……と言うか、彼が目指していると言う父さんとの違いがはっきりと分かってきた。

 先生が分かりやすいように立ち回ってくれてるのだ。

 多分、先生も分かってるんだろうね。





「どうだ、カティア?分かったか?」


「え?あ、はい」


「流石だな。では、そろそろこちらからも攻撃するぞ!」


「…!」



 宣言してから遂に先生が攻勢に回る。

 ふらりとした、一見何でも無い足取り。

 およそ戦闘中とは思えないほどの全く気負いのないそれは…その実、相手の意識を巧みにすり抜ける高度な歩法だ。


 そして、軽く振るわれる長剣の一撃は、緩やかに見えて視認しにくい軌道でガエル君に襲いかかった。


 ガッ!!


 彼は大剣の大きさを活かして盾のように先生の攻撃を防いだ。

 目で見て、と言うよりは直感に従って自然に身体が動いたという感じだ。



「ほう、よく防いだな。だが、まだまだだ」


 防がれた長剣は直ぐに引き戻して、再びあの歩法でスルリとガエル君の背後に回り込み…


 ピタリと首筋に剣を当てた。

 ガエル君はまるで狐につままれたような表情だ。



「そ、そこまで!!」


 そして、私は戦いの終わりを宣告したのだった。

















「どうだ?」


 手合わせが終わって、先生が私に問いかける。

 答え合わせ…ということなのだろう。



「あ、はい。ガエル君がウチの父さんを目標にしてるとのことなので、両者の違い…ガエル君に足りないものが何なのか、という観点で試合を見させてもらいました」


 私達のやり取りに注目が集まる。



「で、結論としましては…一つは『技』ですかね」


 先生の方をチラッと見ると…続けろ、と目で促された。


「え〜と、大剣の使い方としては今のガエル君みたいにパワーを最大限活かす戦い方に問題は無いと思うんですけど……目指すのが父さんレベルというのであれば、そこに『技』…相手の意表を突いたり、正確に狙った場所に斬り込むと言った技術面の底上げが必要ですね」


「ふむ……で、一つは…ということはまだ有るんだろう?」


 先生が更に先を促す。


「はい。あとは、『視野の広さ』ですかね。ウチの父さんって、見た目も言動も粗野だし脳筋っぽい感じがするんですけど」


「……ダードおじさんの評価がヒドイよ、カティア」


 レティが何か呟いたけど、取りあえずスルー。



「そう見えて、戦いのときの視野は凄く広くて色々考えてるんです。部隊指揮も取ったりするから。で、さっきの手合わせでは……あれはわざとだと思いますけど、先生は結構隙を見せてたんです。でも、ガエル君、気付いてなかったでしょう?最初は誘いを警戒してたのかな?とも思ったけど……」


「……そうなのか」


「ふむ。その通りだな。概ね俺の見立てと同じだ。後はそうだな……お前は感情的にならず冷静に状況を見つめることができる長所がある。だが、それを活かしきっていない。今カティアが言ったように、視野を広げてもっと考えて戦えば一皮向ける…かも知れん」


 そこは断定してあげましょーよ。

 でも、まぁそう言うことだね。


 パワーで押し切る戦闘スタイルは大剣使いとしては当然なんだけど、それだけだとやがて限界が訪れる。

 今行き詰まりを感じてるのなら、もう既にガエル君はそこまでのレベルに達している、ということなのだろう。

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