幕間

幕間15 『その頃の彼女たち』

 時はカティア達がレーヴェラントに向けて出発した日まで遡る。


 学園が冬の長期休暇に入り、学生の多くは実家に帰ったり、休みを利用して旅行にでかけたりする中、郷里が遠く卒業するまで帰郷予定のないルシェーラ、ステラ、シフィル、そしてメリエルは休みの間にある計画を実行しようとしていた。






 人気のない学園の教室に集まった彼女たちは、『計画』についての話を始める。


「レティはやっぱり来れないの?」


 メリエルがそう問いかけると、レティシアとは通話の魔道具で度々話をしているルシェーラが答える。


「ええ。プロジェクトの方が忙しいということですわ」


「プロジェクトって…確か『鉄道』とか言う?」


 シフィルが更に確認する。

 レティシアのライフワークとも言うべき鉄道建設については彼女からよく聞かされている。



「そうですわ。来年の開通を目指して追い込みの時期なんですって。何でも、カティアさんが戻ってきたら式典もやりたいとかで、その準備も…」


「……それじゃ仕方がないわね」


 ステラが残念そうに呟いた。


「レティが一緒じゃないのは残念だけど、このメンバーだけでもバランスは取れてるんじゃないの?」


「そうねぇ…前衛のルシェーラ、遊撃で遠近魔法が熟せるシフィル、支援と指揮、いざとなればシギルも発動出来るステラ、魔法火力のメリエル……確かにいい感じね」



 そう、『計画』とは、この冬休みを利用して冒険者活動を行うというもの。

 既に学園にも活動計画を届け出ている。


 それぞれクラブ活動もあるのだが、その合間に集まって…という事だ。



「ま、ともかく。予定通り活動するって事で…今から冒険者登録をしにギルドに行きましょう!」


「ルシェーラちゃんは、もう登録してるんだよね?」


「はい。でも、私もお付き合いしますわ」


「登録したら早速依頼も受けてみたいし、お願いするわ」


「え?今日依頼受けるの?」


 ステラは驚いて声を上げる。

 今日は登録したら、どんな依頼があるのかを確認したり、そこから自分たちが受けられそうなものを吟味したり…実際の活動は日を改めて、と思っていたのだ。


「もちろん!目指すは冬休み中にCランクまで昇格よ!」


「…今現在Dランクのルシェーラさんはともかく、登録したての私達がそこまで昇格するのは無理じゃないかしら…」


 シフィルの無茶とも言える目標に、冷静にツッコミを入れるステラ。

 だが、シフィルはこともなげに言う。


「そんなことないわよ。私達の力なら…本当だったらBランクでも良いくらいだけど、流石にそれは時間がないから」


「……そんなに簡単なものじゃないと思うけど」


「まあまあ、目標を高く掲げるのは悪いことではありませんわ。でもシフィルさん、無理は禁物ですわよ。いくら実力があっても、思いもよらない事で大怪我することだってあるのですから」


「もちろん分かってるわ!何事にも油断しないのが一流ってものよ。さあ、ここで話していても始まらないわ。ギルドに行きましょう」


「お〜!」


「…メリエルさんは、ちゃんと手を繋いで行きましょうね」

















 そして、彼女たちは大西門近くにある冒険者ギルドへとやって来た。

 今は朝のピークの時間帯も過ぎているため、比較的人は少なくなっている。

 それでもイスパル王国内のギルドを統括する本部ということもあって、ある程度の賑わいは見せている。



「お〜、ここがギルドか〜」


「へえ〜……結構綺麗で明るい雰囲気なのね。荒くれが集まるところだから、もっと…こう…」


「言いたいことは分かりますけど、普通に依頼人の人も来るんですのよ。あまり威圧感出していたら誰も寄り付かなくなってしまいますわ」


「それはそうよね」


 わいわいと賑やかにお喋りしながら彼女たちは中に入ってカウンターに向かう。


 当然かなり目立つわけで…



「おいおい嬢ちゃんたち。ここは子どもの遊び場じゃねぇぞ?帰ってママのおっぱいでも飲んでるんだな」


「「ぎゃははーーっ!!」」


 ガラの悪い冒険者の男たちが声をかけてきた。

 カティアかレティシアがいれば『テンプレか!』とツッコミを入れていたことだろう。


 しかもこの連中……以前カティアに絡んだ面々である。

 まったく懲りていない。



「あん?何よアンタたち。私達、これから登録で忙しいんだから放っといてよ」


 シフィルのその言葉を聞いて、男たちの目が嫌らしい笑みの形に歪められる。


「そうか、まだこれから登録ってことか。そしたら俺たちが冒険者の事を手取り足取り教えてやるよ」


「え?本当に?親切なんだ〜」


「バカ、メリエル。そんなわけ無いでしょう。イヤらしいこと考えてるのに決まってんじゃないの。…失せなさい。痛い目に遭いたくないならね」


「ふん、威勢の良いネェちゃんだな。まあ、そう言わずに…」


 そう言って男は肩を抱き寄せようと手を伸ばしてきた。

 しかしシフィルか大人しくしてるはずもなく。



「なにするのよっ!!」


 バチィンッ!!


「オブぇッ!!??」


 首がもげたかと錯覚するような猛烈なビンタが炸裂した!!

 男は数メートルほども吹き飛んで沈黙。

 ピクピクと痙攣すらしていた。


「て、てめぇ!!何しやがる!!」


「やっちまえっ!!」


 バチィンッ!!


 ビシッ!!


 ビタァンッ!!


 …

 ……

 ………





「はぁ…何なの、全く……」


「あの……大丈夫ですか?」


 シフィルに話かけてきたのは、ギルドの受付嬢だった。


「全く問題ないけど……ギルド員ボコッちゃったけど、お咎めは…」


「あ〜、それは大丈夫ですよ。ほら、見てください」


「え?」


 受付嬢が指さす方、倒れた男たちを見ると…

 何やら気味の悪い笑み、というか恍惚の表情で身悶えしていた。


「……キモっ!?な、何なの、一体…?」


「…どうも、以前絡んだ女性冒険者に軽くあしらわれて以降、変な性癖に目覚めたみたいで……強そうな女冒険者がやってくると、わざと絡んでああやって…」


「キモ」


「キモい」


「気持ち悪い…」


「……」



「?あれ、ルシェーラちゃん、その反応……もしかして知ってたんじゃあ…」


「何がですの?何かありました?早く登録を済ませてしまいましょう」


 心底何事もなかったかのように答えるルシェーラ。

 その目には全く男たちを映していないかのようだ。



「…実害がないのでギルドとしても如何ともし難かったのですが。ルシェーラさんのように全く存在そのものをまるっと無視するのが一番かと」


「ああ…もう既に洗礼を受けてたんだね」





 彼女たちの前途は、多難であった……



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