第十幕 54 『終結』

 皆が一斉に攻撃を加えて、ラミアクイーンが完全に再生するのを阻んでくれている。



 私はこの戦いに完全な決着をつけるための準備を開始した。


 聖杖リヴェラを杖から薙刀に变化させる。


 目を閉じ、意識を集中して……

 青と金銀の光が私を包み、薙刀に集まって滅魔の刃となる。






「ここで終わらせるよ」


 そう宣言して、私はラミアクイーンに向かってゆっくりと歩を進める。


 みんなは私の最後の攻撃を察して、敵をその場に縫い止めるように動いてくれる。


 そして……



「せえぃーーーーやぁっっ!!!」


 一足飛びでラミアクイーンとの距離を一気に詰めて、渾身の斬撃を振るう!!


 ザシュッ!!


 薙刀は彗星のような光の軌跡を残し、魔将を袈裟懸けに斬り裂いた!!



「ぐぐ……おのれ…人間どもめ……口…惜しや……」


 美しい顔を歪め怨嗟の声を発するラミアクイーン。

 斬撃痕から罅割れ、ボロボロと崩れていく。


 やがて黒い塵となって寒風に吹き散らされて……猛威を振るった魔軍の将は、遂に滅び去るのであった。
















 将を失った魔物の軍勢は、まるで洗脳が解けたかのように散り散りになって逃げ出し始めた。


 そしてこの時をもって、レーヴェラント軍は掃討戦へと移行する。



「深追いはしなくていいが、なるべく数は減らすんだ!!」


 ハンネス様の指示が飛ぶ。


 ここで逃した魔物は、そのまま魔境に戻ってくれれば良いが…人の生活圏に住み着いてしまえば被害が出るので、ここで極力間引いておきたい。



「まあでも……これで決着だね」


「ああ。今回も大活躍だったな」


「力は尽くしたよ。……流石に今回は全くの犠牲なし、とはならなかったのが残念だけど」


「仕方ない…とは割り切れないか」


「うん。でも……俯かないよ」


 自分にできる精一杯の事はやった。

 例え力及ばず救えなかった人がいたのだとしても……俯き嘆くのではなく、それを前に進む力にしなければならない。


 だけど…犠牲者がいたことは忘れない。

 彼らの無念の思いを背負って行く。


 それが、人の上に立つ者の定めだろう。

 


 せめて…勇敢に戦った者たちが安らかに逝けるようにと、私は鎮魂歌レクイエムを口ずさむ。

 それは[拡声]も使っていないのに、まだ戦いの混乱が続く中でもやけに響き渡るような気がした。





















「さて。魔力も回復してきたし……私は負傷者の手当に行ってくるよ」


「カティアちゃん、まだ働くのかい?」


「ええ。回復魔法の使い手は貴重だと思いますし…母様も姉さんも頑張ってると思いますので、少しでも手伝わないと」


「……ホント、テオには勿体ないねぇ」


「そ、そんな事は…!」


 なお、テオはロコちゃんを駆って掃討戦に加わっている。

 彼だってずっとシギルを発動してたから相当疲れがあると思う。



 とにかく、もうひと踏ん張りだ。

 もうすぐ王都に戻れるのだから、頑張らないとね。



「じゃあ行ってきます!!」


「まだあちこちに魔物が居るから、気を付けるんだよ!!」


「はい!!」


















「母様、手伝いに来ました」


 負傷者が収容されている天幕までやってきた。

 ちょうど母様を見つけたので声をかける。



「あらカティア、疲れてるんじゃないの?」


「大丈夫です。魔力もあるので手伝わせてください」


「そう?…じゃあ、こっちは私が診るから、あなたはあちらの方をお願い。命に関わるような人はアネッサと手分けして大体治療したと思うけど……」


「はい、分かりました」


 既に戦闘は終結に向かいつつあるので、負傷者の搬入は落ち着いてきているみたい。

 だが、直ぐに命の危険が無いような人は後回しにされていたみたいで、まだかなりの人が治療を待っている。


 私は天幕の奥の方から患者を診ていくことにした。


 ……片隅で白い布を被されて横たわっているのは、懸命の治療にも関わらず助からなかった人だろう。

 母様は特に変わった様子は無かったけど…多分、いろいろ辛い思いをしたに違いない。


 通り過ぎる前に私は足を止めて、冥福を祈った。









 そうして、魔力が許す限り治療を続けていると……ハンネス様の通達の声が天幕の中にまで聞こえてきた。


『全軍に通達。只今をもって掃討戦及び全戦闘行為は終了とする。各部隊速やかに撤収準備に入れ』







 こうして、遂に戦いの終結が告げられたのであった。

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