第十幕 43 『決戦の始まり』

 開戦直後の先制攻撃によって相当数の魔物を倒したが…まだまだ多くの魔物が健在であり、峡谷より次から次へと押し寄せてくる。


 レーヴェラント軍はそれを押し止めるために平野部に陣を敷いて迎え撃つ体勢を整えている。



 魔法を撃ち終えた姉さんたち魔導士隊やミーティア(ゼアルさん)、その護衛として付き添っていたお義母さまが本陣に引き上げてきた。



「皆さん、お疲れ様でした」


「これで〜、後はお任せになっちゃうわね〜」


「十分に役割を果たしたんだもの。後は任せて。ミーティアとゼアルさんも……凄かったよ」


「ミーティアはなにもしてないの。おじちゃんががんばったの」


『はぁ…もういいか…。取りあえずは今出来る最大の攻撃を叩き込んできたぜ』


「ありがとうございます。あれでかなり削れたと思います。まさか、あそこまで強力なブレスが撃てるとは思いませんでした」


『溜め込んだ力を使い果たしたから、もう暫くは撃てねぇがな』


 なるほど。

 流石にあれ程の威力の攻撃は、早々撃てるものではないのか。



「……一撃で十分すぎる戦果を出してるけどね。まあ、あとは私達はここで大人しくしてるよ。……敵を目前にして下がるのは不本意ではあるけど」


「お義母さま……私達の護衛、お願いしますね」


 何だか前線で戦いたそうにしてるお義母さまに釘を刺すのも兼ねて、改めてお願いする。


「そうだね。しっかり護っているから、後は頼んだよ」



「頃合いだな。カティア姫、そろそろ支援の準備を頼む」


「はい!」



 私は両軍が激突するタイミングを見計らって、[絶唱]を発動させる準備をする。


 ここからが長丁場だ。

 途中で歌を止めても直ぐに効果が切れるわけではないのだが…一旦止めてしまうと再度支援効果を付加するためには、完全に先の効果が切れてからでなければ重ねがけが出来ない。


 そのため、前回同様に歌い続ける必要があるのだ。



 私が[絶唱]発動のために神経を集中させていると、テオが私の近くに来て……


「ふぇっ!?」


 何と、後ろから抱きすくめるようにしてきたではないか!


「て、テオ!?……み、皆が見てるよ?」


 い、嫌じゃない……むしろ嬉しいのだけど、皆が見ている中でこの態勢は恥ずかしいよ!?


「この非常時にイチャつくとは……我が息子ながら恐ろしいね」


「カティアちゃん〜、顔がニヤけてるわよ〜」


 そ、そんな事は!?




 だが、周りの浮ついた空気とは裏腹に、テオ自身に甘い空気は感じられない。

 それに気付いた私は、戸惑いながらテオに声をかける。


「テオ…?」


 どうやら彼は目を閉じて集中しているようだ。

 そして…


「我が血の中に眠る古の力よ…今こそ目覚めて顕現せよ。そして、彼の者の束縛を解き放て」


 囁くように紡がれた言葉に呼応して、淡い光が私とテオを包み込む…!


「これは……これがテオのシギル…解放の力?」


「そうだ。まだ慣れてないから…こうして至近で対象に触れなければならないのが難点だな。……すまない、いきなりで」


「う、ううん!それに…(難点じゃないかな〜)」


「?どうした?」


「な、何でもないよ!」 



「顔が緩んでるわよ〜」


「なるほどね~…こうやってカティアちゃんを

誑しこんできたのかい…」


 ええい!うるさい、外野!





「と、とにかく![絶唱]始めます!!」



 お気楽気分は駄目だよ!

 切り替えないと!






















 戦場に歌声が鳴り響く。

 かつて、ブレゼア平原での戦いのときと同じ歌だ。


 だが、あの時よりも更にその効果は高まっている。

 テオのシギルの力によって私の潜在能力が引き出され、それに応じて[絶唱]の効果も高まっているのが何となく分かる。

 更にリリア姉さんの加護が加わる。


 以前でも十分過ぎる支援効果を発揮していたが、今回はそれ以上なのだ。

 これで数的不利を覆せれば良いが……



「うむ、確かに力が漲るのを感じるぞ。これが全軍に行き渡るのか……噂に違わぬ凄まじき力だな」


「本当だね。ますます前線で戦えないのが残念だよ」


 お義母さま、どれだけ暴れたいんですか…

 本当、この世界の女性は武闘派が多いよ。





 そして、全軍に向ってハンネス様が檄を飛ばす!


「皆の者!!『星光の歌姫ディーヴァ・アストライア』の歌声が戦場に響く限り、我々の勝利は揺るぎない!!」


 はう!?

 ゆ、油断してた…危うく変な声が出るところだった。



「全軍進撃せよ!!魔軍を迎え撃て!!」



 おおーーーっっ!!!



 ハンネス様の鼓舞に応えて、戦場に戦士たちの雄叫びが轟いた!!






 こうして、ついに決戦の火蓋が切られたのだった。

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