第十幕 38 『式典』


「凄いな……流石は神器と言うところか」


 神殿から王城に戻る馬車の中、隣に座ったテオが私の手元を見ながら言う。

 そこに輝くのは虹色に輝く腕輪ブレスレット

 リヴェティアラ神殿より預かった聖杖リヴェラの形状を変えてこのように身に着けておく事にしたのだ。


 これなら何かあっても即座に武器に変化させて対処出来る。

 左手の薬指には収納倉庫ストレージ機能を持つ婚約指輪、右手には神器の腕輪ブレスレット


 実用面もさることながら、なんと言ってもとてもオシャレである。

 まさに死角無し!

 思わずニヤニヤ眺めてしまうのはしょうがないね。













 さて。

 午後からは私達の婚約に関する調印式が執り行われる予定だ。


 一旦部屋に戻って式典向けのドレスに着替えることになる。


 マリーシャに手伝ってもらいながら身支度を整える。



「あれ?そう言えば…ミーティアはどうしたの?」


 ふと気が付いて聞いてみる。

 私がテオと出かける時には部屋に残ったはずだけど。

 この城の中では、彼女が自由に行ける場所は限られる。



「フェレーネ様のところです。随分と赤ちゃんのことが気になった様子で……フェレーネ様も部屋に籠もって退屈だからといって招いてくれたのです」

 

「ああ、そうなんだ……あまりお身体に負担にならなければ良いけど…」


 まあ、ミーティアなら無理を言わないし、大丈夫かな?










 そうして支度を整えて待っていると、使用人の人が式典会場まで案内するためにやって来た。


 向かった先は城内で様々な儀式を執り行うための聖堂。

 謂わば小さな神殿とも言えるその場所は、王城の最も奥まったところに作られており、そこに至る通路も何処か厳かで、そんなところも神殿と呼ぶに相応しい神聖な雰囲気を醸し出していた。



「カティア」


「テオ、お待たせ」


 聖堂の前では、既にテオが私を待っていてくれた。



 重厚な扉を開いて中に入ると、薄暗い室内には燭台の明かりが灯されて、厳かな空気に身が引き締まる思いがする。


 私はテオが差し出した手を取って、扉から続く道をゆっくりと歩き出す。

 両側の列席者は、国家重鎮や有力貴族だろう。

 最前列には母様や…父さんが肩身狭そうにしていた。

 アルノルト様やアルフォンス様もおられる。


 本来であればお義母さまも出席するはずだったのだろうけど…流石に出産の直後では、そう無理も出来ないだろう。

 彼女自身は強行しようとしたのを、周りが止めたであろうことは想像に難くないが。

 今頃は生まれたばかりの赤ちゃんと、ミーティアと一緒に過ごしている事だろう。



 部屋の最奥…祭壇らしき前には立派な身形の聖職者……って、午前にお会いした大司教イヴァン様だ。


 彼の前まで私達は進み出て、そこで止まる。



 そして、暫く間を取ってから、大司教猊下が式典の開始を告げた。





「大いなる12神……リヴェティアラ様の御子、テオフィルスと、ディザール様…そしてエメリール様の御子であるカティア」


 エメリールの…と言うくだりで少しざわめくような気配が伝わってきた。

 どうやらその事実を知らなかった人もいたらしい。



「此度は二人が婚約を取り交わす事を神前に報告し、許しを得るための儀式を執り行うものである」



 …まあ、リル姉さんとリヴェティアラ様にはさっき話してきたけども。



 そうして始まった式典は…まあ、簡略的な結婚式のようなものだった。


 もちろん、結婚式ともなればもっと盛大に行うのだと思うのだけど、婚約するだけでもこんな大仰な式典を行うのだから、王族って大変だね。

 なんて他人事みたいに思いながら大司教猊下のお話を聞いていた。




 そして、指輪の交換……ではなく、婚姻の誓約書に二人で調印する。

 これで、晴れて私達は正式に婚約者ということになる。

 公的、法的に認められ、このあと大々的に各国、民衆に喧伝される。



 とうとうここまで来たんだ……と、感慨深い思いが込み上げてくる。


 結婚はまだ先になるけど、私は生涯をこの人と共に過ごす……そう考えると幸せな気持ちで満たされるのだった。

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