第十幕 37 『聖杖リヴェラ』

 エメリール神殿を後にした私とテオは、その足でリヴェティアラ神殿総本山へと向う。

 それほど離れていないので護衛や従者の人たちに断ってから徒歩で。





 やってきたリヴェティアラ神殿総本山は、今まで見てきた他の総本山と同じくらいの規模で、様式も似ていた。


 階段を登って中に入ると、慌ただしい気配がした。

 多くの聖職者が行き交う中を進んでいくと、立派な法衣を纏った高位聖職者らしき人たちが数人、私達を出迎えるかのように立っていた。


 そのうちの一人、年配の女性が声をかけてくる。


「テオフィルス様、カティア様でいらっしゃいますね?」


「はい。あなたは…」


「巫女頭のジュネと申します。こちらは当神殿の責任者である、大司教猊下…イヴァン様です」


 彼女が紹介してくれたのは、この神殿のトップである大司教猊下だった。

 とりわけ豪華な法衣に身を包み、豊かな白い髭をたくわえた佇まいは、正しくその地位に相応しい威厳を感じさせた。



「ようこそ当神殿へとお越しくださいました。さて、お二人の御用については承知しておりますぞ」


「では、既にリヴェティアラ様より……」


「ええ。神託を頂いております」


 神界から戻ってすぐにここまでやってきたんだけど、こうして上層部の人たちが勢ぞろいで迎えてくれるとは思わなかった。

 彼らにとっては当たり前の事なのかもしれないが、それだけ神託というのは絶対的なものなのだろう。



「こちらが、リヴェティアラ様が地上を去る際に遺され、当神殿が護り受け継いできた至宝でございます」


 後ろに控えていた司祭様が恭しく差し出してきたのは、金の縁取りで装飾された銀色の箱。

 フルートとか、楽器を入れるケースみたいだ。

 箱を開き、赤い羅紗の内張りに収まるのは、柔らかな白い布で包まれた棒状のもの。

 未だ中身は見えないが…もう既に、神聖な力が発せられているのをひしひしと感じる…


 そして包を解くと、中から現れたのは虹色の輝きを放つシンプルな形状の杖。

 その表面にはびっしりと精緻で複雑な文様が刻まれており、神秘的な雰囲気を醸し出している。



「これが……」


 思わずゴクリと生唾を飲み込む。


「聖杖リヴェラ。リヴェティアラ様の神託に従い、カティア様にお渡しいたします。……ですが」


 あ、やっぱり…そうすんなりとは渡せないのかな?


「この杖を扱えるのは選ばれたもののみ。未だかつて使いこなせたものはいないと聞きます。カティア様にお渡しする条件としまして、これを正しく使えるということを示していただきたいのです」


 ああ、そういうことか。

 それなら問題ないはずだ。

 リヴェティアラ様から、この杖の能力と使い方は既に聞いている。

 使いこなすための条件も満たしている。



「分かりました。では、お借りしますね」


 私はそう断ってから箱の中から杖を取り出した。

 使いこなせることの証明とは、つまりこの杖の能力を見せてあげれば良いという事だろう。


 手にした杖を構えて、僅かに魔力を込めながら頭の中でイメージする。


 すると、即座に杖は反応を見せ、淡く虹色の光を放ち……


「「おおっ!?」」


 杖が見せた変化にその場にいた皆が驚きの声を上げた。


 私の手の中の杖は大きく形を変え、長さ二メートル程にも伸びて、先端には反りのある刀身を持った薙刀へと姿を変えていた。



「どうでしょうか?」



「これは……まさに伝承の通り。カティア様は聖杖に選ばれし者に間違いないようですな。試すような真似をして申し訳ありませんでした。これより聖杖はあなた様に委ねます」




 これこそが『聖杖リヴェラ』の能力。


 使用者の思い描く通り、あらゆる武器の形に変化させる事が出来るのだ。

 定まった形という『束縛』から解放された、まさにリヴェティアラ様に相応しい変幻自在の武器だ。

 更に、本来の形である杖…魔法触媒としても破格の性能を持っているとのことだ。


 リヴェティアラ様も言っていたが、様々な武器と魔法を駆使して戦う私にとって、これほど頼りになる武器はないだろう。


 この聖杖を十全に扱うためには、実は[変転流転]の魔法を使えることが条件だったりする。

 杖に選ばれし者のみが使える…とは、つまりはそう言う事なのだった。


 [変転流転]は本来、莫大な魔力を消費するので実戦で使えるような魔法ではない。

 しかし、この杖の变化に関してはごく僅かな魔力を流すだけで済む。

 なので、戦闘中に瞬時に武器を変える事が出来たりするので戦術の幅がかなり広がるだろう。



「ありがとうございます、大司教猊下。聖杖リヴェラ、確かにお預かりしました。昨今の不穏な情勢が解決しましたらお返しいたします。それまでは大切に使わせて頂きますね」



 私はそう御礼を言って、いつの日か神殿に返却することを約束するのだった。



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