第十幕 26 『軍議の始まり』

 レーヴェンハイムの王城に到着したその翌日。

 本日は対グラナについての軍議に出席することになっている。


 通常であれば一国の軍議に、王族とは言え他国の者が出ることなど無いのだが…




「ことグラナ戦線に関しては同盟国で足並みを揃える必要があるからな」


「そうですね。…それにしても、あなたがレーヴェラントにいらっしゃってるとは思いませんでした」


 今は会議場となる部屋に母様と向かっている所なのだが、その道すがら思いがけない人物に出会ったのだ。


 その人物は…


「イスファハン王子、カカロニアはグラナ侵攻に備えて既に部隊を派遣してるということですか?」


 そう、カカロニアの王子、イスファハン様だった。

 私達と同じく、数人の共を引き連れて議場へと向かうところバッタリと会ったので、一緒に向かうこととなった。


 彼は母様の問に答える。


「ええ。我が国はグラナとは国境を接しておりませんので…何があっても即応出来るようにレーヴェラントに支援部隊を派遣して指揮下に入ってます」


 これは盟約の十二国同士の協定に基づく措置とのこと。

 イスパルもグラナと直接国境を接していないのは同じだが、やはり即応部隊を北西地域に展開していたりする。

 そしてウィラーも国境付近の守りを厚くしていると聞く。



「どう思います?実際、侵攻はあるのでしょうか?」


「…さて、な。だが、この季節に国境の山岳地帯を越えるのは自殺行為だ。国交を持たないグラナとの間にはまともな街道も整備されていないからな。無理やり進軍するにしても大量の遭難者を出すのがオチだ。よしんば、山越えが出来たとして…その後まともに戦えるとも思えん」


 それは誰しもがそう思っている事だ。

 だが、そうすると何故態々この時期に国境付近に大軍を展開するのか…その理由が分からない。

 だから警戒を緩めることは出来ないのだ。


 それに…賢者様の予言の事もある。

 仮に今回の件が『イベント』なのであれば、遅かれ早かれ侵攻は起きるということになる。

 そして予言の内容は既に各国に共有しているので、それもあって益々国境付近の情勢からは目が離せない。




 イスファハン王子たちと話をしながら、会議場に辿り着いた。


 かなり広い部屋で、まるで国際会議でも開かれるかのようである。

 …いや、実際私達イスパルとカカロニアの人間も参加するのだからその通りなのであろう。


 既に多くの国家重鎮たちが着座している。

 議長である国王陛下ハンネス様を中心に、アルノルト様、アルフォンス様、そしてテオが並ぶ。


 私達は彼らの隣に設けられた席に着席した。



 そして、軍議が始まる。


















「静粛に。…皆揃っておるな。では、これより軍議を始める」


 時間になり、ハンネス様が会議の開催を宣言する。


「本題に入る前に…本日はイスパル、カカロニア両国の方々にご参加いただいているので先ずは紹介を」


 そこで私達に視線が集まる。

 ここにいるのは国の中でも重鎮だろうから、態々紹介しなくても事情は押さえてるとは思うけど。

 まあ、儀礼的なものだろう。


「先ずは、イスパル王国からは、カーシャ王妃とカティア王女にお越しいただいている」


「イスパル王国王妃、カーシャ=イスパルです。グラナ侵攻の可能性については、各国が足並みをそろえて対処に当たらなければなりません。そうならないことを願ってはいますが……有事の際は我がイスパルも皆様と肩を並べて戦うことになります。その点において、今回の会議が実りのあるものになることを願っておりますので、どうか皆様、よろしくお願いします」


 母様に続いて私も立ち上がって挨拶をする。


「イスパル王国第一王女のカティア=イスパルです。よろしくお願いします。グラナ帝国については既に影で動いている形跡があります。私は何度かそれに直面して対処してきた経緯があります。その点を踏まえて意見を申し上げたいと考えております」


 私が挨拶すると、あちこちでヒソヒソと囁やきあう様子がうかがえた。

 ん〜…私みたいな小娘が参加するのは、やはり場違いなのかなぁ?


「知っているものもいるかもしれないが…カティア王女はこの度、我が息子テオフィルスと正式に婚約することになったことを申し添えておく」


 ハンネス様がそう補足すると、ややざわめきが強くなった。

 知らなかった人もそこそこ居たみたいだね。



「そして、カカロニアからはイスファハン王子にお越しいただいておる」


「カカロニアの第一王子、イスファハンです。対グラナに関して、我が国からは私と配下5,000名が支援部隊としてレーヴェラント王国の指揮下に入ります」


 まだ有事が起きる前の派遣部隊としては十分な戦力に思える。

 ことが起きれば更に派兵されてくるのだろう。



「うむ、両国の方々には改めて感謝する。…では、本題に入ろう」



 こうして私達の挨拶も終わって、本格的に会議が始まるのであった。



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