第十幕 25 『義母』

 レーヴェラント王家の人々との対面を終えた私はあてがわれた客室へと戻ってきた。


「カティア様、ミーティア様、お帰りなさいませ。ご対面は如何でしたか?」


「ただいま〜!」


「ただいま、マリーシャ。婚約の話は滞りなく終わったよ。中々に面白い方々だったねぇ…」


 取り繕わない素の状態を見せてくれてた気がするよ。

 それだけ身内として歓迎してくれてたのだと思う。



「それは良うございました。今後の予定については私の方にも連絡がございました。先ずは明日の夜会と明後日の婚約式典でしょうか」


「ああ、そうだね。そんな話だったよ。夜会か〜……久しぶりだねぇ」


 王女として夜会に参加するのは、私のお披露目パーティーの後も何度かあった。

 招待されたもの全てに出ているわけではないが、顔繋ぎのためにもなるべく出席するようにはしている。


 なので、それなりに場数は踏んでると思うけど…

 レーヴェラントはイスパルとそれほど習慣やマナーは変わらないけど、全く同じでもないので予めマリーシャからレクチャーされている。

 なので、今回初めて実践することになるので、やっぱり多少は緊張するのだ。


 まぁ、今回は正式にテオの婚約としての出席なので、隣に彼がいるだろうし…そんなに心配はしてないけど。

 なにより、婚約者として彼にエスコートされてパーティーに出席出来るというのがとても嬉しかった。

















 コンコン…


 しばらく部屋で寛いでいると、扉がノックされる。


「はい、どうぞ」


「失礼します、カティア様。テオフィルス様とフェレーネ妃殿下がお見えです」


「テオと…お義母かあさまが?あ、入って頂いて」


「はい、畏まりました」



 私が入室の許可を出すと、テオとその母、フェレーネ様が部屋に入ってきた。



「まだ旅の疲れがあるところすまない」


「ううん、来てくれて嬉しいよ。それに、フェレーネ様も、ようこそお越しくださいました」


「お邪魔するよ。ああ、さっきの会合でも言ったけど、私相手にそんなに畏まる必要なんて無いからね。フェレーネ様ってのも何だか他人行儀だね」


「あ、では、お義母さまと…」


 心のなかでは既にそう呼んでたけど。


「まだ固い気もするけど、まあそんなもんか。改めてよろしくね」


「はい!……ところで、二人がここに来たのは?」


「ああ…別に何か用があるわけじゃないが…母さんがカティアとゆっくり話がしたいと言ってな」


「あら何よ、私をダシにして……あんただって愛しの姫君となるべく一緒に居たい癖に。……ははぁ〜ん……さてはあんた、後で夜ば「ちょっと黙ろうか!?」


「あ、あはは……」


「まったく…相変わらず堅物ヘタレ朴念仁むっつりスケベだよ」


 …ルビが酷い。



「俺のことはいいだろ……それより、母さんがカティアと話したがったのは本当だろ」


「まあそうだね。テオから色々話は聞いてるけど、やっぱり本人と話がしたいと思ってね」


「はい、私もお義母さまとお話したかったです」





 と言うことで、夕食までの間は私の部屋で話をすることになった。

 部屋の中には応接間があるので、マリーシャにお茶の準備をお願いしてからソファに腰掛ける。



「そう言えば、ミーティアは?」


「ああ、部屋に戻ってきて暫くしたら寝ちゃった。ずっと馬車に揺られていたし、疲れたんだね。一先ずパパに会えて喜んでたよ」


「そうか。まぁ夕食まではまだ時間があるし、ゆっくり寝かせてあげよう」


「あんたたち、まだ婚約したばかりなのに、もう子育てしてて大変だねぇ…」


「ふふ…でもあの子、いい子で手がかからないからそれ程大変じゃないですよ。可愛いですし。あ、そうだ……あの、お身体の調子は如何でしょうか?」


「うん?…ああ、この子の事?頗る調子は良いよ。皆大人しくしてろって煩いのよねぇ…」


「そんな身重なのに剣持って訓練場に行こうとしたりするからだろ…」


 …そりゃ止められるだろうね。


「だって、もう半年以上も大人しくしてるんだよ?もう身体が鈍って仕方がないよ」


「お義母さまは、冒険者なんですよね?」


「いいや、冒険者だよ。大体、テオもカティアちゃんもそうなんでしょ?」


「え、ええ、そうですね。最近は中々依頼を受ける機会も殆ど無いんですけど…」


「俺たちと一緒にするなよ。歳を考えろよな。歳を」


「なんだとぉ〜!?生意気な!!」


「ぐあっ!!?首を締めるな!!」 


 目の前で親子喧嘩が始まる。


 へぇ〜…テオって普段は落ち着いていて凄く大人っぽいんだけど、こうしてみると年相応だね〜。

 こうしてじゃれ合うくらいに親子の仲が良くて、私も何だか嬉しくなる。



「ほら、カティアちゃんに笑われてるよ!」


「まったく…無茶苦茶だよ、母さんは…」


「ふふふ…仲が良くて羨ましいです」


 やっぱり、血を分けた実の親子というのは特別な関係なんだな、って思って…少しだけ寂しい気持ちになってしまった。


 でも、私だって、父さんや劇団の皆、父様母様やクラーナ…そして、テオとミーティア。

 家族には恵まれている。

 そして、これからは…いま目の前にいるフェレーネ義母さまやレーヴェラント王家の人たちとも家族になるんだ。


 きっと…私を産んでくれたカリーネ母さんも、テオと私の婚約を喜んでくれてるだろう。



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