第十幕 2 『馬車に揺られて』
「……母様」
王都を出発してから数時間。
道中の暇つぶしにと王城の図書室から何冊か借りてきた本の一冊を早々に読み終わってしまった。
このペースだと途中でやることがなくなると思い、次に手を伸ばすのを止めて母様に話しかける。
「なあに?カティア」
母様は先程までは私と同じように暇つぶしとしてレースを編んでいたが、今は手紙を書いていた。
さっき事務方の一人から手紙を受け取っていたので、その返事だろう。
「あ、特に用事があるわけじゃないですけど…暇なのでお話しようかと」
「あら?それは構わないけど…本はもう読み終わったの?」
「ええ、一冊読んじゃいました。このペースだと何冊あっても足りませんね」
「ふふ…でも、あなたの方が旅慣れてるでしょう?普段はどうしてるの?」
「一座で旅してるときは徒歩が多かったから…暇に感じる事はあまり無かったですね。景色を眺めながら、のんびりと」
「それなら…別に、外を歩いても構わないのよ?」
「まだ王都を出たばかりなので…今からそれだと…。それに、何だか私ってお転婆と思われてるフシがありますからね。少しは大人しくしておこうかな〜…なんて思ったり」
「今更ねぇ…それとも、婚約を前にして乙女心が刺激されたのかしらね?」
「べ、別に、そういうわけでは…」
図星。
いや、私に関する噂なんか既に聞いてるだろうけど…
武勇伝ばかり轟いてるのは、乙女としてど〜よ、って思ったり。
え?男心はどうしたんだって?
…もはや風前の灯火のような。
「まあ、後でアネッサ達も呼びましょうか。ミーティアちゃんもあっちなのよね」
「はい、リィナと一緒が良かったみたいで。…ママよりお友達の方を選びました。クスン」
「はいはい、やさぐれないの。同年代のお友達がいるならそっちの方を選ぶのが普通でしょう」
そうだけど。
ミーティアも色んな人と交流するようになったし、喜ばしいことなんだけど。
ママは少し寂しい。
「おじゃまします〜」
「あわわ…し、失礼します」
「ママ〜!」
暫くしてから、姉さんとリィナ、ミーティアが私達の馬車に来てくれた。
馬車の中は十分な広さがあるので、3人が来ても全く窮屈にはならない。
「よく来たわね、遠慮なく座って頂戴」
「さすが王族専用よね〜、ウチのオンボロと違って快適だわ〜」
私と母様は隣り合って座り、その対面に姉さんとリィナが座る。
ミーティアは私の膝の上だ。
リィナは何だかガチガチになってる…
この子は年齢より大人びてるし、子供特有の無遠慮さが無いんだけど…それはつまり、礼儀とかを既に弁えてるってことなので、王妃サマを前に緊張してるんだろうね。
「リィナ、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ?」
「そうよ〜、カーシャは王妃様だけど〜私の友人なんだから〜。ね〜?」
「ええ、私のことは親戚のお姉さんくらいに思って頂戴?」
「何気に『お姉さん』を強調したわね〜」
そこはスルーしてあげようよ。
見た目的にはまだ『お姉さん』でも違和感ないんだしさ。
「ね〜、ママ〜…お菓子は無いの?」
「…無いよ」
「…ぶ〜」
あからさまに不満を表す。
この子はちょっと遠慮が無さすぎだね……
見た目相応ではあるんだけど…私の養子ってことだし、そろそろ礼儀作法の教育もするべきなのだろうか…
「ところで…アネッサたちはレーヴェラントでは実家で過ごすのよね?」
「その予定よ〜」
「…良かったわね、と言うべきかしら?」
「まだ完全に蟠りが無くなったわけじゃないけど〜、お父様が心変わりしてるなら〜私もそこまで意固地になる必要はないしね〜」
姉さんと実家…と言うか父親との確執については私も聞いている。
かつては娘を政治の駒としか見ていないような人だったのだが、姉さんがいなくなったことで大切な一人娘である事に改めて気がついて後悔したらしい…とのことだ。
その事に姉さんは凄く驚いていたみたいなんだけど、やはり肉親の情というのはそうそう断ち切れるものではないのだろう。
私もその話を聞いたときは自分のことのように嬉しく思った。
「リィナはおじいちゃん達に会えるのは楽しみかな?」
「う〜ん…楽しみといえばそうなんだけど、ちょっと怖い、とも思う…」
まあ話を聞く限りは気難しそうなイメージがあるよね。
そう思っても仕方ないか。
でも、やっぱり孫は可愛いんじゃないかな?
凄くデレデレになったりして。
何れにせよ。
全てが丸く収まるといいね。
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