第十幕 1 『レーヴェラントへ』

 学園が冬休みに入った。

 エーデルワイス歌劇団の公演も一区切りついている。


 これを機に予定通りレーヴェラントへと向かう事になる。

 出発は明後日だ。


 帰ってくるのはおよそ一月後…学園の長期休暇が明ける少し前くらいだが、グラナの件の状況によってはそれ以上かかるかもしれない。

 学園にはその可能性を伝えているが、多少であれば試験の成績でカバー出来るとのこと。

 出来るだけ休みの間に済ませたいところではあるが、配慮してもらえるのは有り難かった。










「え?姉さんたちもレーヴェラントに行くの?」


 出立の準備のため、エーデルワイスの邸に立ち寄った際に、姉さんからそんな話を聞いた。



「そうよ〜、ティダと私、リィナもね〜。カーシャが気を利かせてくれて、カティアちゃんの一行に同道させてもらえることになってるのよ〜」


 それは初耳だ。

 ただ、姉さんがレーヴェラント出身で、家出同然に飛び出してきた事や、いつか里帰りするかも知れないという話は聞いていた。

 以前、武神祭のときにお兄さんであるイースレイさんが来て、色々話をした結果だと。



「でも、姉さん達が一緒に来てくれるのは嬉しいのだけど。私達って大所帯だから、時間かかるかもよ?」


「まあ、そこはしょうがないのだけど〜、『気を利かせてくれた』って言ったでしょ〜?兄さんの話を聞く限り特に心配はしてないのだけど〜、強行で連れ戻される可能性も無くもないから、って〜」


「え〜と…ああ、私と親密な関係だってアピールすれば強行策も取れないってこと?」


「そういうこと〜。ごめんね〜利用するみたいで〜」


「ううん、むしろ姉さんの力になれるなら嬉しいよ」


「ありがとう〜、カティアちゃん」


 私だって無理やり姉さんが連れ戻されるのは容認できないしね。

 その心配は殆ど無いみたいだけど。

 あとは、お父さんと仲直り出来るのが一番だね。





「ところで〜、今回はダードさんも行くのよね〜?」


「うん。本当だったら父様が同行するはずだったんだけど…キナ臭い話があるからね。国を留守にするわけにはいかないって。母様は一緒に行くけど。で、父さんは父様の代わりに父親として…ややこしいね、コレ」


 そんなわけで、父さんも私達一行に加わってレーヴェラントに向かう事になっている。

 劇団の事もあるから用事が終わったら一足先に帰るみたいだけど。



「そっか〜……いよいよなのね〜カティアちゃん。嬉しい〜?」


「え、う、うん…嬉しいよ、もちろん」


「うふふふ〜、良かったわね〜」


 …照れる。


















 そして出発当日。


 レーヴェラントへ向かう一行は早朝より王城門前に集結し、出発の時を待っている。


 私は、ドレス…とまではいかないが、貴人の旅装といった出で立ちで、王族専用の大型馬車に乗り込む。

 同乗するのは母様だけ。


 父さんやティダ兄の一家はエーデルワイス所有の馬車の方だ。

 ちょっと寂しい気がするけど…まあ、これは仕方ないか…



「ではカーシャにカティア、道中気をつけてな」


「行ってくるわね、ユリウス。留守はお願いね」


「では父様、行ってきます」



 出発した私達は早朝の街を進んでいく。

 総勢で100名近い大集団だ。

 大名行列と言うのは言い得て妙だったのかもしれない。


 街路には既に仕事に向かう大勢の人がいる。

 彼らは私達が通りがかると端に避けて見送ってくれる。



「カティアさま!ご婚約おめでとうございます!」


「お気をつけて行ってらっしゃいませ!」


 そんなふうに祝福の声もかけてくれた。


 一般にも大々的に告知されただけあって、この行列の目的を知っている者も多くいるみたい。










 混雑する街中を抜け、一行は大東門までやって来た。

 ここから先…東に向って伸び、アスティカントを経由してレーヴェラント王都レーヴェンハイムに至る街道は、西の『黄金街道』、北の『巡礼街道』と並び『学問街道』と呼ばれている。

 アクサレナの『学園』、アスティカントの『学院』、そしてレーヴェラントの『王立職業高等専門学校』…通称『高専』を結ぶ事から名付けられた。



 大東門には街路以上に多くの人が詰めかけていたが…どうも私を見送りに来てくれたらしい。

 歓声が私達一行を送り出してくれる。


「カティア、声援に応えてあげなさい」


「はい、母様」


 母様に促されて、私は馬車の窓を開けて少し身を乗り出し、笑顔で手を振る。

 すると、歓声はますます大きなものとなって大東門前広場に響き渡った。



 こんなに大勢の人に祝福されるなんて…私は凄く幸せ者だと思う。



 では……行ってきます!

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