第九幕 48 『下山』


「ふぅ…いいお湯だね。疲れが吹き飛ぶよ」


「えへへ〜、こんな山の上でお風呂に入れるなんで、温泉みたいだね!」


 山小屋についてから食料調達や宿泊の準備を終えて、食事もとって…今はこうして寛ぎタイムである。


 二人ずつ入る事になったのだが、お湯を用意した私とメリエルちゃんが一番風呂を頂くことに。

 ちょっと手狭に見えたけど、メリエルちゃんは小柄だから割と余裕がある。



 そして恒例の胸部装甲チェック。


 ……ぐぬぬ、背負っていたときに分かってはいたが。

 一縷の望みも潰えたよ。


「どうしたの?難しい顔をして?」


「ん〜?何でもないよ…ちょっと人生の理不尽さについて考えてたの」


「?」









「明日はもう帰るのか〜…ちょっと寂しい感じがするね」


 しんみりとメリエルちゃんは呟く。

 その気持ちは分かるよ。

 旅行の終わりが近づくとそう感じるよね〜。

 トラブルも多かったけど、それも含めて楽しい思い出がたくさん出来たということだろう。


「帰るまでが遠足だからね。最後までしっかり…む?」


「どうしたの?」


「いや、外に誰かの気配が……まあ、お約束かな」


 お風呂場には外に面した窓があるのだけど、ガラス窓ではないので木製の小さな扉が付いている。

 だが僅かに隙間があるので、そこから覗こうと思えば可能だと思われる。


 今まさにそこに近づこうとする気配を感じたのだ。



「ふっ…甘いね。[雷壁](コソッ)」


 ただの通りすがりの可能性もあるので、条件発動型の魔法で窓に罠を仕掛けることにした。

 そこに触れれば…




 バチバチバチィッ!!


「うぎゃあーーーっ!!??」


「な、なにっ!?」


「引っかかったね!」



 私はタオルで身を隠してから、窓の扉を開けて外を覗き込む。


「む?逃げられたか…ちょっと威力が弱すぎたかな?」


 電撃を受けてもすぐさま撤退するとは、敵ながら中々やるね。



「…覗き?」


「うん。この後ステラたちも入るから、またトラップを仕掛けておきましょう。…もう少し威力上げとこ」
















「ふ〜、いいお湯だったよ」


 ちょっと長風呂になってしまった。


 因みにお湯は交代ごとに張り直してる。

 変態フリードが、「美少女たちの残り湯…ぐへへ…」とかキモい事呟いていたのが聞こえたから。

 それほど魔力消費しないし、みんなにも奇麗なお湯で入ってもらえる。



「あれ?フリードは?」


「…散歩すると言って出ていきましたよ(…さっきの悲鳴、何があったかは何となく察したが。これは分かってて聞いてるな)」


「そう…夜に一人で外を歩くのは危険だよね。いきなり雷が落ちることもあるしね」


「…そうですね」




「ただいま〜!いや〜、夜の散歩も風情があるっすね!」


 コイツ、しれっと帰ってきやがった。

 この強メンタルこそが勇者へんたいたる所以か…おそろしい。

 だが、髪の毛があちこち跳ねて乱れており、コイツが犯人なのは間違いないだろう。

 それを追求しても誤魔化すだろうけど。


「おかえり。一人で夜外を彷徨くのは感心しないよ?」


「ああ、まあ、小屋の周りからそれほど離れてないし…」


「そう、なら良いのだけど……小屋の周りでも危険が無いとは言い切れないからね」


「わ、分かったっす」


 普通の会話っぽいが、私は終始笑顔を貼付けながらも、『次やったらこの程度じゃ済まないぞ』と言う気持ちを込めて殺気を飛ばしていたので、それを敏感に察知したフリードはダラダラと冷や汗を流している。


 まあ、これだけ脅しておけば大丈夫かな?

 暫くしたら懲りずにやらかす気もするが…








 みんなお風呂に入ったあとはもう寝るだけだ。

 明日は王都に帰るが、まだまだ道中は長いので今朝と同じように早起きする必要がある。


 夜の見回りは先生と冒険者たちが行うからと、山小屋に宿泊する私達は夜の見張り番を免除された。

 それもご褒美ってことらしい。

 ちょっと寝不足気味だったので有り難かった。






 そうして、翌日も順調に行程を消化し、みんな無事に下山。

 いったん合流地点に集合してから学園生全員揃って王都への帰路につくのだった。

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