第九幕 30 『古神』
「ふぅ……どうにか倒せたね」
メリエルちゃんの強烈な雷撃魔法によって、地底湖の主は地に伏した。
「メリエルちゃん、助かったよ。それにフリードとガエル君も良くメリエルちゃんを守ってくれたね…二人とも、やるじゃない」
「カティアとケイトリンさんが引き付けてくれたからだよ!」
「へへっ、まあ、これくらいやらないと、男として情けないっすからね!」
「…なかなかいい経験になった」
そうだね。
思いがけず戦闘になってしまったけど、貴重な経験にはなっただろうね。
「それじゃあ、結構時間もかかっちゃったし、残った皆も心配してるだろうから早く戻り…」
「カティア様っ!!」
私が外に戻ろうとみんなに声をかけようたしたその時、ケイトリンの焦った声が上がる。
「な、なにっ!?どうしたの!?」
「あ、あれっ!!」
と、彼女が指差す先には倒したはずの魔物の巨体が…輝いて…?
って、再生する!?
「ちっ!!あれでまだ終わってないの!?」
「も、もう一回詠唱を…!」
再び戦闘態勢を取ろうとする私達。
だが、その時どこからともなく重々しい声が聞こえてきた。
『待て。もうこれ以上争う気は無い』
「え?なんすか、この声?一体どこから…?」
「まさか…」
「この魔物が喋ってるの?」
そうしてる間にも、魔物はすっかり再生して、再び私達の前に立ち塞がるが…襲いかかってくる様子はない。
…やっぱり、さっきの言葉はこの魔物が?
『そうだ。我が名はウパルパ。この地域一体の地脈を守護する者だ』
呆気にとられていると名前を名乗ってくれたので、こちらもそれに応えてそれぞれ名乗る。
……しかし、名前が某メキシコサラマンダーみたいだね。
確かに姿形は似てるけど。
いや、そんな事より…
「地脈を……守護?」
『そうだ。地脈の乱れは星の安定を脅かしかねない。故に、我はその兆候が無いかを監視し、もし乱れが生じるのならばその影響を最小限に抑える役目を担っている。ここはこの地域一帯の地脈が集まる場所なのだ』
「…聞いたことがある。古来より霊的、魔術的に重要な場所には守護者がいる…と。たしか、それは『古神』と言った」
ガエル君、戦闘狂の割には博識だね。
それは私も本で読んだことがある。
もしかして、ここの山岳信仰もそれが由来ってことなのかな…?
『そうだ。お前たち人間の守護者たる十二神よりも遥か古来よりこの地を支配した力あるものたち。我もその一柱だ』
「力ある者たち…それってまさか?かつて人間たちと神々が協力して倒したと言う古代の魔物たち…?」
『それは少し違うな。確かに神々は人間たちを庇護するために魔境を切り拓き多くの魔物を打倒したが…必ずしもその全てが敵対していたわけではない』
「…確かに、ゼアルさんはそうだったね」
『ゼアル。懐かしい名だ。あの若造も地脈の守護者だな』
なるほど、それが『本体』の本来の役割だったのか。
それにしても『若造』って…
『我やゼアルのような地脈の守護者は、その役割故に十二神と当時の人間たちとはむしろ協力関係にあった……いや、確かゼアルの阿呆はディザールたちに挑んで返り討ちにあっていたな』
…言葉遣いが崩れてますよ?
それに、それを言うなら…
「そういうあなたも、なぜ私達を襲ったのです?」
『…いや、それは済まなかったと思う。なにせ、ここに人間たちが訪れなくなって久しくてな。我の本来の精神は眠りについていたのだ。この魔獣の姿は仮初のものなのだがな、我の精神が眠りについていたことで本能のみで動いてしまったようだ』
ああ、うっかりさんなのか……
「でも、そんなことで地脈の管理なんてできるんですか?」
ついついトゲトゲしくなってしまうが、こっちは大変だったんだから…これくらいは勘弁してくださいな。
『うむ。力ある者がその場にいることが重要なのでな。我自身が行うことはそれほど多くはない。異常事態があれば目覚めるであろうしな』
「引き篭もりじゃねーか」
フリードが思わずツッコむ。
ある意味、究極だよね。
実は要石でも置いとけばいいんじゃないの?
「まあ、事情は分かりました。ところで、地脈が乱れると、具体的にはどうなるんです?」
『そうだな…乱れが大きくなれば地震や火山の噴火などの天変地異が起きる可能性もあるが、そうならないように我らがいる。他には…今がまさにそうなのだが…』
「えっ!?今現在…ですか?」
大事じゃないの?
『およそ300年周期で訪れる星の巡りによって引き起こされるこの星の【歪み】。それが地脈にも影響を及ぼし、【界】の境が僅かに揺らぎ曖昧になることがある』
!!!
それはっ!!?
「『異界の魂』っ!!?」
『ほう、それを知っているのか。そうだ。そやつらが300年周期で現れるのは、それが要因の一つだと考えられる』
「じゃあ、根本的な解決と言うのは難しいって事ですね…」
ケイトリンの言う通りだ。
星の巡りなんて人間の力でどうこうできるものじゃない。
結局、その時代時代の人達で対処するしか無いのか…
『…そうとは言い切れないかもしれぬぞ?』
「え?」
『異界の魂が300年周期で現れる。それは間違いないのだが…そもそもそのような状態になったのは、せいぜいここ数千年のこと。それ以前にも星の巡りによる地脈の乱れはあったが、異界の魂などという者たちが現れたことは…我が知る限りにおいては無いな』
数千年が『せいぜい』と言えるのかは置いといて…
そうか…だからさっきは『要因の一つ』って言ってたのか。
つまり、地脈の乱れは根本原因ではない、と。
『何が引き金になったのか…それは分からぬが、根本解決の望みはまだ可能性があるという事だ』
もし、それが出来るのであれば…
後世のためにも、解決したいところだ。
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