第九幕 転生歌姫の学園生活
第九幕 プロローグ 『入学式』
入学式の会場となる学園の大ホールには、多くの学園生と教師陣が詰めかけている。
始業式も兼ねてるとのことで、新入生以外に全在校生が集められてるらしい。
一学年あたりおよそ300人、それが三学年あるのと、教員や保護者などの関係者も合わせて大体1,000人近くいる事になる。
壁際には新入生の保護者らしき人たちがちらほらと。
父様母様も来られるはずだけど、流石にあそこにはいないよね。
多分、来賓ってことで席が設けられてると思う。
新入生は知り合い同士で集まって会話する者、緊張の面持ちで一人でいる者、眠そうに欠伸をする者、ただぼーっと座る者、早速女の子をナンパする者…様々だ。
あ、ナンパヤローは私のところにもやって来たので、闘気と魔力を込めながら無言でニッコリ笑いかけてやったら、青褪めてすごすごと退散していった。
な〜にが、『ボクは君に出会うためにこの学園に来たんだ…』だ。
お前それ全員に言ってんじゃねーか。
丸聞こえなんだよ!
…おっと、言葉遣いが崩れてしまいましたわ、オホホホ…
あとは…朝の登校時と同じように、こちらをチラチラと伺いながら噂話に興じる人たちもいる。
もう慣れた。
それにしても…
国内外から優秀な者が多く集まる伝統校…と言う割には堅苦しさは全く感じないね。
世界が、時代が変われども、学生の雰囲気と言うのはこういうものなのかも知れない。
『大ホールにお集まりの皆様、まもなく式典の開始時間となりますので静粛に願います』
案内放送が入ると、あれほど騒がしかった場内は一転して、しーん…と水を打ったように静まり返った。
お〜、その辺は流石だねぇ…しっかり場を弁えていると言うか。
まあ、貴族子弟も多いだろうし、ちゃんと躾が行き届いてるんだろうね。
暫くすると、静かになった会場に教員らしき人たちが数人入って来た。
その中でも特に存在感を放っているのは…白髪に豊かな髭をたくわえたご老人。
身形も立派で、一目でお偉いさんだと分かる風体だ。
多分、この方が学園長なのだろう。
名前は確か…
『それでは皆様…只今よりアクサレナ高等学園、入学式を執り行います。まず初めに学園長のレオナルドよりご挨拶申し上げます。ご清聴お願いいたします』
そうそう、レオナルド学園長だ。
結構なご高齢だと思うのだけど、背筋はピンと伸び、壇上に向かう足取りもしっかりされて、見た目よりは若々しい印象を受ける。
壇上に上がった学園長は、ゆっくりと顔を巡らせて新入生を見渡してから、低音だがよく通る声で話し始めた。
「新入生の諸君、ようこそわが学園へ。諸君らの入学を心より歓迎する。…さて、本校は広く国内外より優秀な人材が集まり、お互いに切磋琢磨してさらなる高みを目指す…そのための環境が整っていると自負している。しかし、その環境を活かせるかどうかは諸君らの心構え次第だ。今はまだ、自分が将来どうありたいか見えておらぬものもいるだろうが、この学園を卒業するまでにはその答えを見つけられることを切に願っている。その為に、我ら学園の教師陣は真剣に諸君らと向き合い、支援を惜しまないことをここに約束しよう……」
自分の将来…か。
父様母様は、将来的には私が王位を継ぐことを期待しているみたいだけど…
その覚悟ができてるか?と、問われると…まだ自信を持って答えることができないのが正直なところだ。
今はただ、目の前のことを頑張るだけで精一杯だ。
でも、いつかは…
と、物思いに耽ってるうちに学園長のお話は終わったみたい。
簡潔でそれ程長話ではなかったのが好印象だ。
どうも前世の記憶から、偉い人の挨拶は長い印象があるのだけど、父様もそんなに長く喋らないし、この世界ではそれが当たり前なのかもね。
そして、その後も滞りなく式典は進み、いよいよ新入生代表挨拶…私の出番がやって来る。
『続きまして…新入生代表の挨拶を、今年度の主席合格者カティア=カリーネ=イスパルさんにお願いいたします』
ふむ、呼び出しはフルネームか。
身分に関わらず学園生は平等…と言っても別に家名を名乗ってはいけないなんてことも無いからね。
レティが『建前』なんて言ってるのはそのあたりが理由なんだろう。
…自分自身は身分なんて全然気にしてないのにね。
と、冷静を装っているが……やっぱり緊張するなぁ。
人数的には舞台に立つ時とそれ程変わらないが、慣れの問題だね。
代表挨拶があるからということで、私の席は最前列なのだが…立ち上がって壇上に向かう時にざわめきが起きる。
な、何なのっ!?
え?私、何かヘン!?
と、内心プチパニックになりながらも、それはおくびにも出さずに平静を取り繕って壇上に上がる。
呼吸を整えながら会場を見渡すとちょっと落ち着いてきた。
少し間をおいてから話し始める。
カンペは無いよ。
「新たな門出となるこの良き日に、新入生の皆様を代表してご挨拶申し上げる大役を任されたこと、まことに嬉しく思います。私達は今日、この栄えあるアクサレナ高等学園の生徒として一歩を踏み出します。それは、私達自身の努力のみならず、保護者の皆様のお力添えがあったからこそであり、その感謝の念を忘れてはなりません」
ここで一息つく。
まあ、ここまでは定型文みたいなものだ。
「さて、これからの学園での生活にあたっては勉学に励むのはもとより、新たな出会いを通じて様々な人間関係が築かれることでしょう。私は、かつて母よりこう言われました。『学生時代に築いた人脈というのは特別なもの』だと。この学園で出会った友人は、何にも代え難い一生の宝であると。この学園においては身分の別に依らず、皆等しくただ一人の学園生に過ぎません。願わくはそれを建前で終わらせることなく、対等な立場で交流をはかり、かけがえのない友人と出会えるよう切に願います」
大切な想いを込めて、言葉を紡ぐ。
それは私自身が入学を目指した理由であるが、皆にとってもそうあって欲しいとの願いを込めて挨拶の言葉に入れさせてもらった。
「最後に、三年間と言うのは長いようであり短くもあります。その輝かしい日々の一つ一つを大切にし、皆が笑顔で学園を羽ばたいて行けることを心より願って、挨拶の言葉とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました」
私が挨拶を終えて壇上で一礼すると、大きな拍手が巻き起こった。
……ちゃんと出来たかな?
緊張したけど、悪くはなかったと思う。
一先ず大役を無事果たせた安堵に胸を撫で下ろしながら、自分の席に戻った。
その間、拍手が鳴り止むことはなかった。
その後は、一年生を担当することになる教員の紹介となったのだが……そこでサプライズがあった。
「一年生の魔法学を担当するリーゼと申します。教師としては新米ではありますが、皆さんが正しく魔法の造詣を深めることが出来るよう、精一杯頑張りますので、よろしくお願いいたします」
…まさか、リーゼさんが学園の教師になるとは。
アクサレナを出発するときになったら連絡をしてくれるって約束してたんだけど、いつの間にそんな話になっていたのやら…
私が驚きの表情でリーゼさんを見つめていると、それに気が付いた彼女は、いたずらが成功したかのような茶目っ気のある顔でウィンクをした。
ふふ…これはしてやられたね。
思いがけないサプライズもあったが、入学式は滞りなく無事に終了した。
さあ、これで今日から私も学園生だ。
新しい生活、新しい出会い…何かが起こりそうな予感にワクワクするのだった。
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