第八幕 19 『合格』

 あの後…ミーティアを保護した私たちは、一部の調査人員を残して帰城した。


 その日は、激しい戦闘の疲れもあるだろうと言う事で早めに解散…私は、まだ目を覚ましていなかったミーティアと共にゆっくり休むことにした。

 戦いだけでなく、試験の疲れもあったので…


 ミーティアは結局その日は目を覚まさず…かなり心配したのだが、翌朝には目が覚めて一先ずは安心した。

 目が覚めてすぐは、「ママ、ママ!」と、私にぴったりくっついて甘えていたが、暫くしたらすっかりいつも通りの元気なミーティアに戻っていた。



 ミーティアの事情については皆にも話をした。

 『異界の魂』が私の魂を喰らって…のくだりも含めてだ。

 リル姉さんから、ミーティアはもうこの世界の魂として定着してるから問題ないと言われていることもだ。


 それでミーティアのことは、思ったよりもあっさり納得してもらえたんだけど…

 今度は私の事を心配された。

 【俺】の話は流石に言い難かったので、リル姉さんに助けてもらったと誤魔化しておいた。

 まあ、嘘は言ってない。






 そして、後日。

 今回の事件に関しての報告の場が設けられた。

 もちろん、それまでにもあらかた報告はしていたのだが、あの地下神殿らしき場所の調査も行われたので、その結果も含めてということだ。 


 その調査によると…私達が戦った場所から更に数百メートル程進んだ所に祭壇が設けられた礼拝堂のようなものがあったらしい。

 そして通路は更に延々と……王都郊外の森の中にある洞穴まで続いていたとのこと。

 更には居住スペースも見つかって、複数の人間が暮らしていた痕跡があったと言う。


 これらの事から、アクサレナにおける『黒神教』の活動拠点であったと断定された。


 そして、地下神殿への入口が隠されていた倉庫の所有者であるアグレアス侯爵が一連の事件に深く関与している事も確実になり、彼を捕縛するべく騎士団が早急に動いたのだが…





「殺されていた……?」


「…ああ。先に暗部の者が潜入して確保しようとしたらしいのだがな。今一歩遅かったようだ」


「口封じ…ですか」


「だろうな。全く、口惜しいことよ…」


 父様が悔しそうに言う。

 長年仕えてきた臣下が内通していたと言うこと、貴重な情報源を失ったと言うこと、その双方について心中穏やかではないだろう。



「だが、アクサレナでの活動拠点を潰すことができたのは大きいな。あいつらも、まさか我々がこんなに早く拠点を掴むとは思ってなかっただろうな」


「ミーティアを攫ったりなんかするからですよ。とにかく、あの子を無事救い出せて良かった…」


 ミーティアに手を出しさえしなければ、今頃はまだこのアクサレナで暗躍していたことだろう。

 そういう意味でも、結果としては良かったとも言える。



「あの、シェラって人から詳しい話を聞きたかったですね」


「やっぱり足取りは分からない?」


 ケイトリンなら何か情報を掴んでいないかと、少し期待して聞いてみる。


「どうやら直前にギルドで転出手続きをしていたらしく……ただ、次の転入先が分かれば、ある程度の居場所は押さえられるとは思います」


「そう…でも、無理に追いかけることは止めたほうが良いかもしれないね……取り敢えずは、大体の居場所を確認しておくだけにしておいて」


「分かりました」



 彼女は私達の敵ではないとは言っていたけど…隔絶した力を持つ魔族である事に違いはないし、あまり機嫌を損ねるようなことはしない方が良いと思うのだ。


 まあ、初めて会った時に感じた怜悧な印象とは違って、随分と穏やかな気性の人みたいではあるけど。

 また会えるようなことを匂わせていたし、その時に話を聞ければ良いだろう。



 だけどあの人…改めて思い出すと、どこかで会ったことがあるような気もするんだよなぁ?

 あるいはメリエルちゃんの時みたいに、誰かに似てる気がする…と言うような感覚か。

 結局のところ、いくら考えても答えは出なかったので単なる気のせいかも知れないが…




 それから、今回の事件についても各国には情報共有することと、今後の捜査の方針についての協議を行って報告会議は終了となった。












 そして、さらに数日後。

 その報せはマリーシャからもたらされた。


「カティア様、学園より封書が届いております。恐らくは試験結果の通知ではないかと」


「ありがとう。ついに来たね…ドキドキするよ…」


 試験は自信があったし大丈夫だと思ってはいても、やはりこういうのは緊張するものだ。


 それにしても…随分分厚い封筒だ。

 もし合格しているのなら、入学手続き諸々の書類等も送られてきてる…と言う事なのかも。




 そして封を開けると…

 いくつかの書類と、立派な装飾と仰々しく文字が書かれた厚手の紙。


「…え〜と、『カティア=カリーネ=イスパル殿。本通知を以て、貴殿を当アクサレナ高等学園の主席合格者である事を認める』…おおっ、やった!合格だよっ!」


「おめでとうございます、カティア様」


「ママ!おめでとうなの!」


「ありがとう!二人とも!」


 二人が祝福してくれたので、お礼を言う。

 うん、とても嬉しいね!


「それにしても主席合格とは…素晴らしいですね」


「…私もびっくり。結構自信あるとは思ってたけど。これもマリーシャのおかげだね!」


「いえ、私は少しアドバイスさせていただいたくらいで…カティア様がしっかり努力された結果ですよ」


「そんなことないよ!そのアドバイスが的確だったから」


「ふふ、ありがとうございます。そう言って頂けると……そうそう、主席合格と言う事は…入学式でスピーチがありますね」


「……はい?」


「例年、その年の主席合格者が新入生代表の挨拶をすることになってるのですよ。多分、そちらの書類の中にその案内もあると思います」


「…え〜と、これかな?『入学式における新入生代表挨拶のお願い……』ホントだ……」


 うう、代表挨拶とか…やだなぁ…


 と、私が顔をしかめていると、マリーシャが不思議そうに言う。


「カティア様は舞台に慣れていらっしゃいますし…そんなに苦になる事も無いと思うのですが…?」


「ん〜…まぁ、そうかもしれないけど。でも、やっぱり緊張するよ」


 大勢の前に立つと言う点では一緒だけど…舞台に立つときは、いわば『歌姫モード』みたいに、別の自分になりきってる感じ。

 あとは『王女様モード』とかね。

 そう考えると、実は私ってば演技の才能あるんじゃない?

 これは良いことに気がついたかも?


 まあ、同じような感覚で臨めば問題ないかな。

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