第八幕 9 『ミーティアの行方』
とにかく情報を集めなければ…と、もどかしく思いながらも、私は逸る気持ちを抑えて会議室で待っていた。
…ア
……ティア
「…え?いま、何か…?」
「どうした、カティア?」
「いえ、誰かに呼ばれたような…気のせい?」
……カティア
「!?気のせいじゃない!この声は…リル姉さん!?」
間違いなくリル姉さんの声だけど…私にだけ聞こえてるの?
どうにかして呼びかけようとしてくれてるらしい。
……カティア…神殿に……
「神殿?分かった、すぐ行くよ!」
「…リル姉さん、とは誰だ?」
「エメリール様です!何かご存知なのかもしれません!ちょっと神殿に行ってきます!」
「お、おい!」
「あ!リュシアンさん、オズマ以外にも連絡要員で一人連れてっても良いですか!?」
「え、ええ」
私の剣幕にたじろぎながらも隣にいた騎士の一人に目配せする。
そうして、その騎士とオズマを従えて慌ただしく会議室を飛び出すのだった。
急ぎエメリール神殿総本山へとやって来た。
神殿の中に入って祈りを捧げようとすると、聞き覚えのある声が私を呼び止める。
「カティア様!」
「ティセラさん…?」
「ああ、良かった…これから王城に向かおうと思っていたので、すれ違いになる所でした」
「…もしかして神託がありましたか?」
このタイミングでティセラさんが私に用があると言うのは、リル姉さんから何か言われたのではないかと思ったのだ。
「そうです。巫女に託宣がありました」
「申し訳ありませんが今は時間が惜しいのです。ここで聞いても良いですか?」
「はい、急ぎの状況であるのは承知しておりますので。なんでも…今、不穏な術式による結界が王都全域を覆っていて、そのせいでカティア様を神界へと招くことが出来ないとのことで……幸いにも、素養のある巫女に対しては意思を伝えることは辛うじて出来るようなので伝言をお預かりしております」
結界…?
そんなものが王都を覆っているのか…?
いや、今はそれよりも伝言の内容だ。
「お伝えします…『カティア、ミーティアの居場所は結界の影響もあって私にも把握することが出来ません。ですが、王都の何処かにいるのは間違いないと言えます。何故なら、ミーティアが扱う[神帰回廊]はそれ程の長距離を転移できるものではないからです』」
!!
そこは懸念だったので、その情報は助かるよ!
まだ話には続きがあるようだ。
「『王城から転移したのであれば…その距離は精々第二城壁内までが限界のはずです。おそらくは、何処かにミーティアを拐かした黒幕が潜む拠点があるのではないかと』」
拐かした?
誰かに攫われたということ?
…でも、転移魔法を使ったのはミーティア?
だめだ、その時の状況がよく分からない…
それに、範囲が絞られたのは有り難いけど、それでもかなりの広さだ。
もう少し…情報は無いものか?
そう思っていると、まだ続きがあるみたいだ。
「『転移魔法の痕跡を見つけられれば……大凡の位置が掴めれば……カティア、以前私がした話を思い出しなさい。
…リル姉さんの言わんとしてる事は分かった気がする。
今、皆で手分けして転移先の魔力の痕跡を捉えようとしている。
しかし、時間が経つにつれて正確に、ピンポイントで位置を特定するには至らないはずだ。
精々が一街区に絞れるかどうかと言ったところだろう。
そこまで絞って後は人海で…と言うのが取り得る作戦だったのだが、もしミーティアを攫った黒幕がいるのならば、そうしてる間に察知して逃げられてしまうかもしれない。
魂を結ぶ……つまり、最後にミーティアを見つけ出すのは私の役目と言うことだ。
でも、
そんな事が私に出来るのか…?
…いや!
出来るのか、じゃないっ!
やるんだ!
あの娘だって私のピンチを察して助けに来てくれたじゃないか!
今度は…私が見つけるんだ!!
待ってて、ミーティア…ママが必ず迎えに行くから…!
「ティセラさん、ありがとうございました」
リル姉さんの伝えたかったことは分かった。
情報を皆に共有して、あとは行動あるのみ。
ティセラさんにお礼を言って神殿を辞そうとすると…
「…カティア様、私も一緒に参ります」
「え…?」
「エメリール様の信徒として……いえ、人として、小さな女の子の危機を見過ごすことなど出来ません。それに…邪神を信奉するものが暗躍してるのでしょう?」
「…おそらくは、そう思います」
「でしたら、また『異界の魂』が絡んでくるかもしれません。私だけでなく、神殿の退魔士も準備させておきましょう。ディザール神殿の方にも連絡させます」
「はい…!ありがとうございます!」
ティセラさんの言う通り、黒幕がやつらなら『異界の魂』が現れる可能性は十分にある。
そうなった時、神殿の力は大きな助けになるだろう。
リッフェル領の事件、私やカイトの暗殺未遂…これらの影には黒神教の存在が見え隠れする。
ミーティアも一度狙われたが、それは私達と同じように
何故あの娘を攫ったのか?
『神の依代』であること?
それとも…
「…思えば、あのブレーゼン領の魔軍襲来の時も、なんとも言えない不穏なものを感じました。いえ…今はここで話をしている場合ではありませんでしたね。さあ、行きましょう!」
「ええ…!」
こうして、私達はミーティア救出に向けて動き出すのだった。
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