第八幕 8 『急転』

 三日間に渡って行われた入学試験もすべて終了した。

 …何故か最後は試験官をさせられたが。


 ともかく、出来は上々だと思う。

 合格は問題ないだろうと自信をもって言える。




 さて帰ろうか、と校門までやってきたが…

 何だか騒がしいような?



「あ!!カティア様っ!!」


 と、ケイトリンが慌てた様子で声をかけてきた。

 彼女がこんなに慌てているのは珍しい…一体何があったんだ?

 何だかイヤな予感がする…


「どうしたの?そんなに慌てて…」


「大変ですっ!!ミーティアちゃんが…!」


「!?ミーティアがどうしたのっ!!?」


 ミーティアの身に何かあったの!?


「それが…行方が分からないとの連絡が…!」


「行方がわからない…?どういう事!?今日は王城だよねっ!?」


 朝に見送りしてくれて…そのまま王城で過ごして…私の帰りを待っていたはずだ!


「はい、今日はカティア様のお部屋で過ごされて、特に外に出る予定もありませんでした」


 オズマが私の言葉を肯定する。

 どういう事かと思わず詰め寄りそうになるのをぐっと堪える。


 落ち着け!


 彼らは報告を持ってきてくれただけだ。

 ここで感情に任せて喚き散らしたところで、何も解決なんかしない!

 

 落ち着いて話を聞くんだ。

 それから情報を整理するのが先決だ。



「ふ〜っ……ごめん。詳しい話を聞かせて…」


「はい。ですが、我々もここでカティア様をお待ちしてましたので、詳しい話はこちらの者に…すまないが、先程の話をカティア様にも」


「はっ!」


 と、今更に気付いたが、ここまで連絡をしに来てくれたらしき騎士がいたみたい。

 ここに居てもしょうがないので、詳しい話は王城に戻る道すがら聞くことにした。


「先程オズマ殿が言った通り、本日ミーティア様は特に外出されることもなくお部屋で過ごしていたはずでした。ですが、側付きのメイドが昼食の用意をしようと部屋を出て…戻ったときにはミーティア様は部屋に居られなかったとの事で…」


「…部屋の出入りは?」


「はい。部屋の入口には、護衛の騎士が常に立っておりましたが…その側付きのメイド以外に部屋に出入りした者はおりません」


「…それじゃあ、突然誰の目にも触れずに消えたってこと?」


「…はい。部屋の中は何者かが侵入した痕跡も無く、本当に忽然と。ですが…」


「何かあるの?」


「魔力感知の魔道具に痕跡があったと聞いております。私はいち早くカティア様にお報せしようと直ぐに王城を出てきたのですが、城に戻れば何か進展があるかもしれません」


 城内では場所によっては生活を補助する程度の魔法であれば許されてるが、基本的には魔法は使用禁止だ。

 そのため、魔法が行使されたことを感知する魔道具が要所要所に設置され、記録されている。



「分かったわ。急いで報せてくれてありがとう」


「いえ…我々も全力で捜査に当たりますので、どうかお気を確かに」


「その通りです。私もあらゆる情報網を駆使して、ミーティアちゃんを探し出します!」


「うん…ありがとう。…暗部の人も掴めてないんだよね」


 彼らが何か掴んでるのなら、こんな話にはなってないだろうが…それでも聞かずにはいられない。


「残念ながら…」


「そうだよね…あ!そうだ!エーデルワイスの方には…」


 私がそう言いかけた時…


「カティア!」


「あ、カイト!…その様子だと、聞いたんだね?」


 何時もは冷静なカイトが常になく焦っている様子にそれを察する。


「ああ…話を聞いて直ぐに、団員総出で街中の探索に向かってる」


「もしかしたらそっちに居るかもしれないと思ったけど、それも無しか…私は城に戻って詳しい状況を聞いてくるから、カイトは皆と一緒に街の捜索をお願い!」


「分かった!…だが、何の手掛かりもなしに闇雲に探しても望みが薄い。城で何か情報が得られたら教えてくれ。一時間後に一旦邸に集まることになってる」


「うん、分かった!お願いね!」



 そう言ってカイトとは別れたが、彼の言う通り手掛かりの無い状況での捜索にはあまり期待できないだろう。

 それでも、じっとしているなんてあり得ない。

 私だけじゃない…皆にとっても大切な『娘』なんだから…!













 急ぎ王城に戻って来ると、捜査本部が設置されてると言う会議室へ足早に向かう。


「来たか、カティアよ」


「父様…!リュシアンさん!ミーティアは…」


 会議室に入って挨拶する間も惜しいとばかりに、開口一番に確認する。


「まだ見つかっておらぬ。城内はほぼ探し尽くしたが…とにかく手すきの者総出で城外にも範囲を広げて捜索中だ」


「そうですか……魔法が使われた痕跡があると聞きましたが」


 その問にはリュシアンさんが答えてくれる。


「はい。急ぎ解析させたところによれば…カティア様の部屋の中で特級クラスに匹敵する魔法の使用があったとの事です」


「特級クラス?…部屋の中には侵入者の痕跡は無かったということだから、少なくとも攻撃魔法ではないはず」


「残された魔力のパターンからは、既知の魔法では無いらしいです。そうすると考えられるのは…」


「既知の魔法では無い。忽然と姿を消した状況…まさか、転移魔法?」


 それならこの状況は説明がつく。


「俺達もその結論に達した。確か、ミーティアは転移魔法を使った事があったな?」


「はい、リッフェル領の事件の時に、私を助けるために…でも、仮にそうだとしても一体なぜ…?」


 あの娘が転移魔法を使うような状況?

 …いや、そもそもリッフェル領の事件で転移魔法を使った事は、あの娘自身は覚えていなかったはず。



 そこで、ケイトリンが話に加わった。


「もし、仮に転移魔法が使われたのなら…転移先には似たような魔力パターンの痕跡が残されてはいないでしょうか?」


「…可能性はありますね。急ぎ宮廷魔導士に確認させます」


 とリュシアンさんが部下に指示を出す。


「仮に何らかの痕跡が残っていたとしても…いずれは時間経過でそれも検知出来なくなりますので、急がないとですね…」


 特級クラスの魔法ならある程度痕跡が残っているかもしれないけど、リュシアンさんの言う通りだ。

 時間経過だけじゃなく、別の魔法を使用されたりしても検知が困難になるかもしれない。


「魔力の痕跡なら[探知]でも分かるはず……私も捜索に行きます!オズマ、カティア様の護衛は頼んだよ!」


「ケイトリン、お願い!」



 とにかく今は、どんな些細な情報でも欲しいところだ…


 ミーティア…どうか無事でいて!

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