第七幕 47 『パーティ』
武神杯大闘技会が閉幕し、一旦王城に帰ることに。
父様母様、クラーナと一緒に馬車で凱旋だ。
それほど距離があるわけじゃないのだけど、流石にあれだけ大会で目立ったので、街中を歩いたら大変なことになりそうだ。
王族専用の大きくて豪華な馬車の中は、とても車内とは思えないくらいに広々としている。
動くリビングルーム…と言ったら言い過ぎかもしれないが、そんな雰囲気である。
「ママ!おめでとう!」
「姉さま!おめでとうございます!すごくかっこよかったです!」
ミーティアとクラーナが、目をキラキラさせて祝福の言葉をかけてくれた。
「二人ともありがとうね。あなた達が応援してくれたから、頑張れたよ」
「「えへへ〜」」
う〜ん、激戦の後だとより一層癒やされるねぇ…
「クラーナよ。俺の事も応援してくれたんだよな?」
「はいっ!クラーナは父さまも、姉さまもおうえんしてました!」
「そうかそうか!(ホッ…)」
「カティアおめでとう。もう少しでユリウスに勝てたわね。…それにしてもあなた?娘の前で良い格好しようと張り切り過ぎよ。はい、これ」
と、母様は何かしらの書類を父様に渡す。
「ん?何だこれは?」
「言ったでしょう?闘技場の修繕費の概算見積書よ。流石に仕事が早くて助かるわ」
「……合計で金貨100枚。内訳は、舞台床の石材入替え…観客席壁面の補修…選手控室の清掃、補修…洗面所の補修…なあ、これ俺が試合で破壊したやつ以外も入ってないか?」
「気のせいよ」
「…」
父様がガックリと項垂れる。
母様が強いね。
力関係が伺えるよ。
そんな他愛もない(?)話をしていると、直ぐに馬車は王城の正門を潜っていった。
夕刻には武神杯の本戦出場者を招待してのパーティが催される。
初戦で対戦したシフィルさんとかも来るのかな?
彼女とはもう少し話をしてみたいと思っていたので、彼女も来てくれたら嬉しいな。
パーティの支度を整えるため自室に向かうと、マリーシャが迎えてくれた。
「カティア様、この度は武神杯の優勝…まことにおめでとうございます」
「ありがとう、マリーシャ。本戦は見ててくれたんだよね?」
「はい。王妃様の側付きとしてご一緒させて頂きました」
「マリーシャお姉ちゃん、いっしょに見てたよ!」
「ああ、それならゆっくり見れたんだね」
「はい。それにしても、カティア様がお強いのは存じておりましたが…陛下と引き分けになるほどとは思ってなかったので、大変驚きました」
「あはは…
予選から強敵との闘いが続いたからね。
かなりの経験値となったはずだ。
…久しぶりにステータスをチェックしたいところだね。
「とにかく。上には上がいるだろうし、慢心はしてられないよ」
「あれだけの強さを身につけて、なお向上心を忘れないとは…感服致します」
「そ、そんなに褒められると照れるんだけど…でも、異界の魂とか異形を相手にするなら、力はあるに越したことはないからね。それが私の王族としての責務だと思うし」
「カティア様…ご立派です。わが国の民は幸せ者ですね」
「そ、そうかな…まだ王女らしいことなんてやってないけど。あ、ほら、パーティの支度しちゃいましょう?ミーティアもね」
何だか無性に気恥ずかしくなって、早々に話題を変えることにした。
まだ時間はあるからそんなに急がなくても大丈夫なんだけど。
「は〜い!」
「はい、畏まりました」
ドレスに着替えて時間まで部屋で過ごし、パーティ会場へと向かう。
今回の主役は武神杯参加選手たちと言う事で、あまり格式ばらず控え目にしている。
まあ、私も参加選手で優勝者なんだけど。
控えの間で父様母様と合流してからパーティ会場入りすると、既に多くの参加者が談笑したり、立食で食事を楽しんでいた。
選手以外の参加者は、大会運営に尽力してくれたスタッフや後援者などで、貴族もいるけど人数はそれほど多くはない。
なので、比較的カジュアルな雰囲気で、私としても気楽に参加できるのが有り難かった。
私達が入場すると一斉に注目が集まり、会場のざわめきは少しトーンが落ちる。
普段からこのようなパーティに慣れていないのか、やや戸惑っているような感じた。
それを察した父様が一声かける。
「ああ、すまんな。そのまま続けていて構わないぞ」
その言葉で幾分かは緊張も和らいだようだけど、私達が近くを通ると頭を下げて一礼して見送ってくれた。
会場奥の一段高くなったところに設けられた私達の席までやってくると、父様は会場を見渡してから話を始める。
「あ〜、歓談中のところすまん。先ずは皆忙しい中、武神杯の成功を祝う宴に参加してくれたことを嬉しく思う」
父様が話を始めると、流石に会話や食事の手は止めてこちらに注目する。
「さて、今年の武神杯の盛況ぶりは皆も知っての通りだ。閉会の言葉でも述べたが、今年はいつにも増して強者が集い大いに盛り上がりを見せた。ディザール様もさぞお喜びの事であろう」
と、ちらっと私の方を見る。
はいはい、後日聞いておきますよ。
「この宴は皆の尽力に感謝し、その労を労うものだ。無礼講…とまでは言わぬが、格式ばった物ではないので細かな作法など気にせずに楽しんでいってもらいたい」
そこで父様の挨拶は終わり。
あとは皆思い思いに交流したり美味しい料理を楽しんだり。
私も…
「では父様、私も皆さんと交流を深めて参ります」
「ああ、それが良かろう」
最初に向かったのは…
「こんばんは、シフィルさん!」
「え?…あら、カティア様、ごきげんよう」
会場入りする時にシフィルさんがいるのを確認していたので、早速彼女と話をしようと思ったのだ。
パーティドレスに身を包んだ彼女は、とてもあんな豪快な戦い方をする戦士に見えず、女性らしい美しさで周りの注目を浴びていた。
「もっとお話したいと思っていたので、お会いできて嬉しいです」
「ふふ、それは私もね。改めて自己紹介を。私は、アダレット王国エルジュ公爵家の長女、シフィル=エルジュと申します。よろしくお願いいたします」
そう、優雅な礼をしながら自己紹介してくれた。
アダレットの…公爵家令嬢!?
確かに見目は貴族令嬢と言われても全く違和感は無いのだけど…
と言うか、私が出会う貴族令嬢は何で、こう…戦闘民族ばかりなんだろうか。
…人のことは言えないって?
私は15年間平民として過ごしたから…
「アダレットと言う事は、もしかしてステラの…」
「ええ。彼女は従妹に当たるわ。ステラの学友兼護衛ってことで最近イスパルに来たのよ」
「あ、シフィルさんも『学園』に入学されるんですか?」
「ええ。…でも、本当はあまり乗り気じゃ無かったのよね。ほら、私ってこんなでしょ?」
と、髪をかき上げて、エルフ特有の長い耳を見せながら言う。
「あ〜、確かにエルフの方はこの国じゃ珍しいし、目立つかもしれませんね…私も学園ではかなり注目を浴びそうですし、少し気持ち分かります」
「あら?あなたも学園に?」
「はい。…と言っても試験はこれからなんですけど。一応、勉強を見てくれる人からは合格点をもらってるので、多分大丈夫だとは思いますが」
「そう…だったら、その堅苦しい話し方は止めない?これから学友になるんだし」
「…そだね。そうするよ。よろしくね、シフィル」
「ええ、こちらこそ。あなたがいるなら楽しみだわ。再戦も出来そうだしね」
と、彼女はウィンクしながら言った。
それは私も望むところなんだけど…やっぱり色気が無い話だよなぁ、なんて思ったりした。
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