第七幕 29 『武神杯〜本戦第一回戦第三試合』
第一回戦第二試合は実力が近い者同士の対戦となり、接戦が繰り広げられた。
特に気になる選手ではなかったのだけど、白熱した戦いには観客たちも興奮し満足がいくものだったようだ。
勝ったのは魔法と剣を組み合わせて戦う魔法戦士…エリオット選手。
彼が第二回戦第一試合でラウルさんと対戦することになるが…彼には申し訳ないが、ラウルさんの勝ちは揺るがないものと思われる。
そして、第一回戦第三試合は私の出番だ。
相手はエルフ少女(?)シフィルさん。
線が細く可憐な容姿とは裏腹に豪快な弓技(?)と風魔法を巧みに操って戦う強敵だ。
苦戦は必至と思われるが…むしろ対戦が楽しみである。
控室から舞台に向かおうとすると(なお、出口が二つあって、対戦者はそれぞれ異なる出口から舞台に上がる)、当のシフィルさんが声をかけてきた。
「ねえ、アンタ…そんな格好してるけど、女の子だよね」
「なっ!?…なぜ分かったの!?」
「…いや、何故って。予選で喋ってたから」
ガビンッ!?
「くっ…私としたことが…!」
「ま、まあ、とにかく…女子選手がこうして本戦に勝ち上がって来てるのは嬉しいわね。残念ながら第一試合は負けちゃったし、私達も初戦でぶつかるのが勿体ないけど…」
ふむ…結構好意的なんだね。
てっきり、もっとこう…ツンツンしてる人かな?って勝手にイメージしてたけど。
「だけど、勝負するからには手加減無用!真剣勝負よ!」
「ええ、もちろんです」
そう宣言すると、お互いに拳を突き合わせる。
そして、それぞれ舞台に続く扉をくぐるのだった。
『さあ!次も注目の試合です!第一回戦第三試合は…ディズリル選手対シフィル選手!』
舞台に上がった私達を大きな歓声と拍手が迎えてくれる。
まずは司会のお姉さんから選手紹介だが…私はどう言う風に紹介されるんだろ?
『先ずはディズリル選手ですが…予選では、たった一撃でディズリル選手以外の全員を戦闘不能に陥れると言う離れ業をやってのけたジリオン選手を打倒して本戦出場を果たしました』
ああ〜、あれは驚いたねぇ…
『そのジリオン選手ですが…毎年予選で優勝者に当たると言う圧倒的不運の持ち主ですが、紛れもなく本戦出場クラスの実力者であります』
今日も観戦に来ているはず。
どこかで、『ほっとけ!』とか言ってそうだね。
『ディズリル選手は剣と魔法…予選では特に強力な魔法を駆使して相手を圧倒しました!正体は分かりませんが、確かな実力を持つ強者であることは疑いの余地がありません!』
多分司会のお姉さんは正体を知ってるんだよね。
面倒をかけてスミマセン。
『一方のシフィル選手も予選で圧倒的な力を見せて勝ち抜いております!巧みな弓さばき(?)に加えて風魔法も用いた多彩な攻撃が見事でした。私はシフィル選手のことは寡聞にして存じ上げなかったのですが、その実力は間違いなく今大会でもトップクラスであると思われます!』
巧みな弓さばき…ね。
常識にとらわれない発想、畳み掛けるような攻撃はかなりの驚異となるだろう。
そのシフィルさんは、今は目を閉じて集中力を高め試合開始の合図を待っている様子。
『ダードレイさん、今回の試合はどう予想されますか?』
『ふむ…まず、カ…ディズリル選手は、とにかく戦いの幅が広い。俺ぁ正体を知ってるんだが、いわゆる天才って奴だ。だが、才能の上に胡座をかいてるような奴じゃねえし、慢心や油断とも無縁…なんだが。ちょっと抜けたところがあるからそこが狙い目っちゃあ狙い目だ。…だいたいアイツ、自分が女だってバレてるのにも気付いてねぇんじゃねえか?』
ちょっと!?
そんなに喋ったら正体バレるじゃないの!!
それに、女だってバレてるのは知ってるよ!
…シフィルさんが教えてくれたんだけどさ。
ぬ、抜けてる…かな…
『では、片やシフィル選手は如何でしょう?』
『シフィル選手はやはりその攻撃力の高さだな。爆発力があって、自分のペースに巻き込んでしまえばかなり有利に戦うことが出来るんじゃねえかな。これに対抗するには、とにかく後手に回らないこと。それは、カ…ディズリル選手も分かっているだろうから、この試合はまぁ派手になりそうだな?』
『そうですか!それは見ごたえがありそうですね。観客も大いに盛り上がることでしょう!』
さて。
選手紹介も終わったことだし…あとは試合開始の合図を待つのみだ。
審判が私達の準備ができてることを確認し…
『では、第一回戦第三試合…始めっ!!』
ついに試合開始となった!!
大方の予想を裏切り最初は静かな立ち上がり。
私もシフィルさんも相手の出方を窺っている。
『試合開始となりましたが、意外なことに静かな立ち上がりですね…?』
『そうだな。お互いに最初の攻撃が重要と考えているんだろう。今は慎重に機を見ているが…そら、動いたぞ』
先に動いたのはシフィルさん。
手にした弓に矢を番えて3連発で放ってくる。
まずは挨拶代わりってことだね。
一つは最短距離を一直線に、残りの矢は弧を描く軌道で挟み込むように襲いかかる。
私は構えた薙刀の角度を僅かに変え、キンッ!キキンッ!と甲高い音を立てて弾き飛ばした。
私は緩急をつけてジグザグにステップを踏んで、狙いを付けにくくしながらシフィルさんへと肉薄する。
間合いに入ったところで身体を低く沈ませ、足元を大きく薙ぎ払う一撃を見舞う!
びゅおんっ!!
シフィルさんはバックステップでその一撃を躱し、更に間合いを大きく外しながら攻撃直後の私の隙を突いて矢を射かけるが、私は冷静に軌道を見極めて僅かに身体をずらしてそれを躱す。
「予選の時と武器が違うのね?」
そこでシフィルさんが話しかけてきた。
まだまだ余裕があるね。
お互いに。
「ええ、昨日ちょうど調整が終ったので。こっちの方が少しだけ得意なんですよ」
「なるほど、全力で戦えるのは望むところね」
そう言って彼女は、可憐な容姿からは想像もつかないほどの凄絶な笑みを浮かべる。
まだ試合は始まったばかり。
さっきまでの攻防は、お互いほんの小手調べに過ぎない。
これからもっと激しい戦いが繰り広げられるのだ。
私はその予感に、きっと彼女と同じような笑みを浮かべてることだろう。
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