第七幕 25 『武神杯〜本戦前夜』


ーーーー とある酒場にて ーーーー



 武神杯予選が終わって時は夕刻。

 とある酒場にて。


「ダードの大将!お久しぶりです!」


「おう、ラウルか。よく来たな。試合見てたぞ」


 ティダに誘われたラウルが、一足先に店に入って食事中のダードレイと久しぶりの再会を果たし挨拶を交わす。

 ダードレイの他にもラウルと顔見知りの古参の団員もおり、同様に挨拶を交わす。


「久しぶりッスね、ラウル。元気そうで何よりッス」


「おお!ロウエンじゃねえか、生きていたか!それにしても相変わらずチャラいな!」


「ほっとくッス。ラウルも変わってないッスね。強さはともかく」


 ロウエンとは同年代であり仲も良かったので、憎まれ口をたたきながらも嬉しそうである。



「まあ座れや。…しかし本当に久しいな。何年振りだ?」


「大将たちがアダレット戦線に向かうときに別れたっきりですから…もうかれこれ15年以上前っすかね」


 かつて、ダードレイ傭兵団が名をあげたアダレット侵攻にはラウルは参加していない。

 以降、袂を分かちそれぞれの道を歩んでいたところでの今回の再会であった。

 険悪になって別れたわけではなく、ラウルの個別の事情によるものだったのでお互いに今回の再会は純粋に喜んでいる。






「では、再会を祝して…」


「「「かんぱ〜い!!」」」


 ダードの音頭に合わせビールがなみなみと注がれたグラスを打ち鳴らした。

 そして各々が一気にあおって、早々に飲み干してしまった。



「しかし、あの若造が随分と強くなったもんじゃねぇか。ティダともいい勝負になるんじゃねえか?」


「へへ、そう言ってもらえると嬉しいっすね。でも、アニキの前にあの嬢ちゃんが…聞きましたよ、大将の義娘むすめさんですって?」


「ああ、カティアか。お前と別れたすぐ後に拾ったんだがな…お前、気付いてるか?」


「…?何がです?あの嬢ちゃんが何か……そう言えば名前が何か記憶に引っかかったんだっけ。どこで…」


 と、記憶を探るようにラウルは呟く。

 間違いなく、つい最近聞いたばかりのはず…と思いながらも事実と結びつかない。


 そこでダードレイが助け舟を出す事にした。


「この国の行方不明だった王族の娘…王女が見つかったのは知ってるよな?」


「それはもちろん。アクサレナに来る途中でさんざん噂を聞きましたから。何でも旅芸人一座の歌姫として育ったとかで、王女になっても公演にでてるとか…って…ああっ!?」


 そこで彼はようやくその事実に気が付いたらしく、驚きの声を上げる。


「やっと気が付いたのか」


「普通は考えられないッスよね。まあ、カティアちゃんは普通じゃないッスけど」


「じゃじゃ馬王女だな」


「いやいやいや…王女サマがこんな大会に出場していいんですかい?」


「陛下が許可したっつってたぞ」


「陛下って…あ〜、かの『英雄王』っすか。なるほどねぇ…あの方の娘なら納得かな」


「そうでなくても、育ての親がコレだしな」


「コレとはなんだ。カティアに色々仕込んだのはお前らだって同じだろ」


「優れた血筋であるうえに、戦いのプロフェッショナルから英才教育を施されたってことか…そりゃあ凄えことになるってもんですね」


 カティアの素性を聞いてラウルは納得の表情でしきりに頷きながら言う。


「しかし…王女サマ相手に本気で戦って問題ないっすかね?ああ、いや、手を抜くつもりなんざ無いんですけどね」


「全然問題ねえよ。そもそも、そう気を遣われるのがイヤだからあんな怪しい格好してんだろ」


「そうっすか…じゃあ遠慮はいらないっすね」


 パシンッ、と掌に拳を打ってニヤリと笑いながらラウルは言う。


「ああ。そもそも遠慮して勝てるような奴じゃねえぞ」


「二人とも盛り上がってるとこ悪いッスけど…そもそも準決勝まで勝ち上がらないと当たらないッスよ」


「ロウエンの言う通りだ。油断してると足をすくわれるぞ」


「ははっ、分かってますよ。今日嬢ちゃんにも同じこと言われましたしね」


「ふっ…流石はカティア。あいつは大胆で大雑把に見えて…その実慎重だ。その辺はダードに似たな」


「…そうか?」


「ああ。血はつながらなくとも、お前たちは間違いなく父娘だよ」


 ティダにそう言われたダードレイは無言で頬を掻く。

 どうやら照れているらしい。


「ま、でも…もちろん油断はしませんが、今日の試合を見た感じでは俺の方は問題なさそうですがね」


「そうだな。カティアの方は初戦の相手がかなり厄介そうだ」


「ありゃあ強ぇっすね。エルフってあんな脳筋な戦い方するイメージじゃねぇんですけど…」


 一般的なイメージとしては、森に集落を作って慎ましやかに過ごしている、温厚で争い事を好まない、と言ったところだろう。


「森の外で暮らすエルフってのは同族から見たら変人扱いらしいからな。俺達からすりゃあ、そう言う連中の方が付き合いやすいと思うが」


「そういうもんすか。で、どっちが勝つと思います?」


「苦戦はするかもしれねぇが…カティアが勝つだろうな」


「へぇ…身内贔屓って訳でも無さそうっすね」


「ああ。とにかくあいつは異常なほど戦い方の幅が広い。しかも小手先の誤魔化しじゃねぇ。剣も魔法も超一流の腕前だし、なんなら槍だって弓だって格闘だってそうだ。今のアイツには俺やティダだって勝てるか分からん」


「そういや今日も…魔法が有効と見るや、そっち主体に切り替えてたな。と言うか相手も本来なら本戦出場クラスだったのに、あっさりとまぁ…」


「戦闘センスだけじゃないッスよ。オイラ仕込の斥候術もあるし、知識量も半端じゃないッス」


「で、王女さまだと。天は二物三物を与えるってことっすね」


「(実際、神々から寵愛を受けているしな)…それより、ティダの方も厄介そうなのが一人いたな?」


 と、ダードレイは今度はティダに水を向ける。


「ああ、あいつか…まるで本気を出してなかったがな。一癖も二癖もありそうだ」


「俺、あいつ知ってますよ。確か『双蛇剣』って二つ名のAランク冒険者っす」


「双蛇剣…と言うことは本来は二刀流ということか」


 一刀だけでも扱いが非常に困難であるのに、それが二刀あると言う。

 ただ、それを使いこなせれば…二刀から繰り出される変幻自在の太刀筋が強力無比な攻撃手段になることは想像に難くないだろう。


「予選が消化不良で示威効果がイマイチだったからな。相手にとって不足はない」


 ティダは普段の彼からは想像できない凄絶な笑みを浮かべて、そう言うのだった。



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