第七幕 9 『婚約(仮)』


「だが、一つ腑に落ちないのは…なんで態々シギル持ちに限定して狙うんだろうな?」


 と、イスファハン王子が疑問を投げかける。


「と言うと?」


「いや、俺みたいにシギル持ちである事を公表してない場合もあるんだ。狙いがシギルというなら、無差別に王族が狙われたっておかしくないんじゃないか?それこそ根絶やしにしてしまえばいいって考えてもおかしくないだろう。だが、現状はキッチリ当事者だけを狙ってるんだろ?」


 それは…言われてみれば確かにそうかもしれない。


「それは多分…神々の直接的な干渉を恐れてるんじゃないですか?」


 と、メリエナ王女が疑問に答える。


「三百年前にアルマ王国が滅亡したとき…グラナはエメリール様の怒りを買い天罰が下ったと言われています。魔王を失い求心力が低下したことで撤退したと言われてますが…それも理由の一つだったと」


「…それは初めて聞きました」


 確かに、自らの子孫とも言えるアルマ王家を根絶やしにされたとなれば、いくら温厚なリル姉さんだって怒ると思うけど…天罰というのが想像がつかない。


「天罰というのはどういったものなんですか?」


「…詳しくは分かっていないのですが、当時のエメリナ神殿の巫女が受けた神託によれば…『お姉ちゃんマジでヤバい!お姉ちゃんを怒らすとか…あり得ないでしょ!』とのお言葉が伝わってます」


 軽っ!?

 言動が軽いよ、リナ姉さん!


「…凄ぇ気になる」


 ですよね。

 今度リル姉さんに会ったら教えてくれるかな…?







「それでテオ、カティア様とは正式にお付き合い…王族ともなればそれは婚約と言う事になるのだけど、そう考えて良いのかな?」


 と、アルノルト様が確認する。

 いまの会話の流れだと、当然そういう話になるよね…


 ちょっとソワソワしながらテオを見ると、バッチリ目があった。

 私に優しく微笑みかけてからアルノルト殿下に向き直って彼は答える。


「将来的にはそのつもりです。カティアにも私に付き纏う種々の問題を解決してから正式に申し込むと約束してました」


 そう、はっきり言ってくれた。

 ちょっと顔がにやけてしまうのが自分でも分かった。


(…見てくださいまし、レティシアさん。あの蕩けきった顔)


(ほんとだねぇ…何だろね、この甘々な雰囲気は。リア充爆発しろ!って言うとこなのかな?)


 …聞こえてるよ。

 そっか、私はリア充なのか…えへへ。


「…コホン!だが、実際問題あの邪神教団の問題は一朝一夕で解決できるようなものでもあるまい。…どのみち各王家が協力して事に当たる必要があるんだ。家同士の結び付きという意味もあるし、この際だからもう婚約してしまっても良いのではないか?」


 と、父様が言う。


「…そうですね。もちろん父王の了承が必要ですが、その方向で調整しても良いと思います。…っと、私達が勝手に進めてもいけませんね。テオ、どうします?」


「それは…」


 元々他の人を巻き込みたくないと考えていたんだから、それは悩むところだよね。

 でも…


「テオ、私は…私達の結び付きが国同士の結束を高めることになるなら、私はそれでも良いと思う。それに、『力を貸す』って約束したしね。ま、まぁ私も狙われる立場になっちゃったんだけど…」


「…そうだった。お前を一番近くで護るのは俺の役目…そう決めたんだった。ならば、何時でも近くにいられる方がいい」


「う、うん…」


「正式にはまだ調整が必要だが……カティア、俺の婚約者になってくれるか?」


「は、はいっ!」







「ふむ、一先ずはおめでとう、ですかね。しかし、我が弟ながらなかなかやりますね」


「カティア、良かったわね。姉さんもきっと喜んでいるわ」


「父親としては少し寂しくもあるが…テオフィルスどの娘を頼んだぞ」


「カティアさん、おめでとうございます。友人として祝福いたしますわ(ようやくですわね…)」


「おめでと〜、結婚式は何時にするの?」


 皆が口々に祝福してくれる。

 だけどレティ、結婚はまだ早いと思うよ…


 正式な手続きではないけど、こうして私とテオは婚約者となるのだった。










「ほっほっほ…しかし、若い方たちは羨ましいものですなぁ…」


 と、目を細めて微笑ましそうに言うのはアスティカントのグレイル評議長。

 実質的なアスティカントのトップだ。

 これまで王族の婚儀に関わる話だったので静かに話を聞いていたみたいだが、それが一旦落ち着いたので会話に加わるようだ。


 如何にも好々爺といった雰囲気のお爺ちゃんで、彼は学院の学長でもあるとのこと。

 と言うよりも、慣例として学長が評議長を兼任する事になってるらしい。

 アスティカントは学院が中心の都市国家だからそういう事になってるみたい。



「あら、学長はまだまだお元気なんじゃないですか?私が学生の頃はそれはもう元気が有り余っていたようですし」


「ほっほっほ…その話はここでは…」


 母様の言葉に冷や汗を流しながら言葉を濁す。


「アネッサも元気にしておりますよ。…ああ、そう言えば学長は確か…」


「オホンッ!あ〜、その話もここではやめんかね?……しかし、そうか。アネッサは元気にしておったか」


「ええ、カティアとは姉妹のような関係ですよ」


「何と…いやはや、人の縁とは不思議なものよな」


 母様はグレイルさんの教え子だったみたいで割と気安く話をしてる。

 と言う事は姉さんも教え子だった訳で…

 …どうも会話の端々から察するに、アネッサ姉さんに苦手意識を持っているように聞こえる。


 そう言えば、学院の関係者がもう一人知り合いにいたね。


「グレイル様は、リーゼと言う人はご存知ですか?」


「おお、リーゼ嬢ちゃんか。彼女も儂の教え子の一人ですぞ。優秀だったんじゃが…どう言うわけか冒険者になりましてな…」


「ええ。彼女とはパーティーを組んで何度か依頼も受けました。優れた魔導士だと思います」


「なるほど、そう言えばカティア様も冒険者でしたな。…そうそう、今回儂がアクサレナに滞在しているのを知ったらしくてな、近日中に会う約束をしておるのですよ」


「あ、そうなんですね。彼女もアスティカントに向かう予定のはずだったので、ここで会うことができて丁度よかったですね」


 たしかまだ出発すると言う連絡は無かったので、グレイル様とお会いしてから一緒にアスティカントに向うつもりなのかも。









 その後もいろいろな話をして、かなり親交を深めることが出来た。

 あんな大変な事件があったけど…近隣国同士の結束を強めることができたのは大きな収穫であったと思う。

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