第七幕 8 『緊急会談』

 結局…パーティーは中止となり、避難した人たちに対しては事の経緯と脅威が排除されたことを説明してからお引き取り頂いた。



 そして、各国の来賓の方々に対しては…


「…と言う訳で、此度の件はこれまでの経緯も踏まえれば…シギルの継承者が狙われたと考えて間違いないと考えている」


 王城内の比較的広めの談話室サロンのような部屋で、父様が説明を行っている。


 集まっているのは、レーヴェラントのアルノルト王太子夫妻とテオフィルス王子。

 アダレットのステラ王女。

 ウィラー王国のメリエナ王女。

 カカロニア王国のイスファハン王子。

 そして、十二王家以外からも、アスティカント共和国のトップであるグレイル評議長。

 近隣国の王族や代表者が一堂に会している。


 パーティー中に交流できなかった人達とは、この部屋に来て直ぐに挨拶させてもらった。


 イスパル王国側は、父様母様と私、宰相閣下、モーリス公爵家とブレーゼン侯爵家の面々だ。

 もちろん部屋の周囲には、騎士団の人達が厳戒態勢で配置についている。





 そして、父様の説明を聞き終わったアルノルト殿下が思案するかのような表情で呟くように応える。


「…そうですか。テオ、そうすると…もしや?」


「はい、兄上。私に対する暗殺未遂も繋がっていたのでは、と推測しています」


「今回、お前は急遽参加を決めたからターゲットにされなかった…と言う事か」


「おそらくは」


 そっか…確かに名簿には載ってなかったね。

 私も驚いたくらいだし。

 流石に事前連絡して許可は取り付けてると思うけど、邪神教団がそれを把握することは出来なかった…と。

 でも、ステラを標的にしたということは少なくとも彼女がパーティーに参加することは事前に押さえていたと言う事になる。


 つまり…


「王城内に内通者がいる可能性がありますよね…」


 私のその言葉に、しばし沈黙が落ちる。


「…そうだな。もしそうであれば我々の失態だ。何とかあぶり出したいが…」


「参加者名簿を事前に確認できる者。しかし、急な変更は把握できていない…そのセンから絞り込めないでしょうか?」


「そうですな…ある程度は可能かもしれません。早速指示しておきましょう」


 私の提案に宰相閣下が同意してくれる。

 でも、これだけじゃ候補者はまだ多いよね…



「その…シギル持ちが狙われた、という事ですが…私は狙われませんでした」


 そう遠慮がちに言うのはメリエナ王女だ。

 彼女もシギル持ちなんだ…

 と言う事は、リナ姉さんの眷族と言う事になるね。


「確かウィラーは基本的にシギルの継承者が誰であるかは公にはしてなかっただろう?」


「はい。各国上層部には共有されてるとは存じますが」


「それは俺も同じだな。我がカカロニアに受け継がれしシギルは今は俺が継承している。そしてそれは一般には知らされていない」


 イスファハン王子もシギルの継承者なのか…

 そうすると、今回招待したレーヴェラント、アダレット、ウィラー、カカロニア、そしてイスパル…それぞれのシギル継承者がこの場に揃っているんだね。


「…私はお披露目の時にシギル持ちと言う事も合わせて公表されました」


 ステラ王女はシギル持ちである事を知られている、と。

 そして私は…


「私の場合は特に公表はしてなかったはずですが…リッフェル領の事件の時のアイツが生きていたとすれば、邪神教団には知られてると言う事になりますね」


 そうすると、つまりは…


「メリエナ王女とイスファハン王子が狙われなかった理由が、シギル持ちである事が一般には知られていないからだったすると…仮に内通者がいたとしても、それは上層部の者ではないかもしれない、と言うことになるな」


「…さらに絞り込みが出来そうですな」


「ああ。その線で当たってみてくれ」


「はっ!」


 そう言って宰相閣下は出ていった。

 一先ず情報の共有と捜査の方向性が見えたところで緊急会談の目的は一応果たされた。




「しかし…誘導されるがままに避難してしまったが、そんなヤツがいたとはな。そうと知ってれば俺も残って戦ったんだが」


 そうイスファハン王子が言うが……あなたも護られる立場の人でしょ。

 どうも、高位貴族ほど自ら戦おうとするよね…私もそうなんだけど。


「わ、私は戦闘の役には立てないので……治療なら任せて頂ければとは思いますが…」


 メリエナ王女はさすがリナ姉さんのシギルを受け継ぐと言うだけあって、治癒が得意のようだ。


「テオフィルス王子には助力頂いたが…本来であれば他国の賓客にそのような事をさせるわけにはいかぬからな」


「そうはいっても、我々も無関係ではないみたいですしね。なんと言っても狙われるのは自分自身なんですから。今後のためにもどんなもんか経験を積んでおきたかったってのはありますね。ですが、まあ…今回は事なきを得て良かったですよ」


 イスファハン王子はあっさりとそう告げる。

 かなり戦闘には自信があるのが伺える。


 …ふむ、ちょっと興味はあるけど、そうそう手合わせができるものではないよね。




 さて…色々と話題は尽きないが、この話はここまで。


 あとは、パーティーが中途半端になってしまったので、少しでも皆様をおもてなしするため、ささやかな酒宴が行われることになった。


「さて…この度はとんだことになってしまったが、このような機会も早々あるまい。せめてこの場で交流を図ろうではないか」


「折角ですからね、料理や飲み物もこちらに運ばせておりますから楽しんでいって下さいね」


 父様母様がホスト役となって…前世で言うところの二次会みたいなものが始まるのだった。











「で…カティア姫とテオフィルス王子は恋仲ってことなんです?」


 と、イスファハン王子がいきなりぶっこんできた。

 彼は日に焼けた肌に赤髪、琥珀の瞳というエキゾチックな色気と野性味があり、それでいて理知的でもあるという不思議な雰囲気を持ったイケメンだ。

 歳はテオと同じくらいか。


 因みにカカロニアが継承するシギルはオキュパロス様のものだ。

 そう言われてみると…雰囲気が少し似ている気がしなくもない。


 この人、性格はどうもサバサバした感じであまり王子っぽくないんだよね。

 私としては話しやすいしそちらの方が好感が持てるんだけど。

 しかし、その質問には何て答えれば良いのやら。


「え、え〜と…」


「そうですよ〜、それはもうラブラブでして」


「ちょっ!?レティ!!」


「その通りですわ。二人は固い絆で結ばれた恋人同士なのです」


「ルシェーラまで!?」


 ちょっと!

 表向きは初対面って事になってるんだから迂闊なことは言わないでよ!


 だが、私の慌てぶりを他所に会話は進む。


「へえ…じゃあ、やっぱり今日が初対面じゃないんだな。カティア姫は確か市井で暮らしてたって事だから、その時に会ってるんだよな?」


「まあ、素敵な話じゃないですか!もっと聞かせてください!」


 と、メリエナ王女も食いついてきた!

 あ〜…この人、ルシェーラの同類だわ。

 …いや、これはリナ姉さんの気質を受け継いでいるのかも。

 そう言えば見た目も似ている。

 私とほぼ同じ色合いの髪と瞳で、顔もリナ姉さんをもう少し大人にした感じ。

 て言うか、名前もアナグラムになってるよ。

 歳は私よりも少し上かな?



 どうも、シギルの継承者はそれぞれの神に似た容姿になるみたいだね。

 シギルの正体は遺伝情報だってことなんだから当たり前の話なのかもしれないけど。



 と、そんな事を考えているうちに話は進む。


「私も表向きは病気療養と言う事になってましたが…暗殺者の脅威から逃れるために身分を隠して冒険者として活動していたのです。カティアとはその時に出会いました」


「ちょっと!テオ…いいの?」


「ああ。この場で隠す意味はないだろう」


「そう…ならいいのだけど」


「ふ〜ん、なるほどな…やっぱ、あのダンスの様子を見ててもそうとしか見えなかったしな。しかし惜しいなぁ…まだ婚約者がいないって事だから、狙ってたんだけどな」


 と、またイスファハン王子がぶち込んできたよ。

 ん〜、残念ながら好みのタイプではないねぇ…

 友達にはなれそうだけど。


 そしてその言葉を聞いて父様とテオの目が鋭いものになっている。

 母様とレティは面白そうな目で見ているし、もちろんルシェーラとメリエナ王女は目を輝かせている。



 しかし、あんな事件があったばかりだと言うのに…みんな結構豪胆だよね。

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