第六幕 26 『追跡』
今後の方針が決まり、早速行動に移る。
先ずは私の暗殺が成功したように偽装するところからだ。
偽装用アイテムの一つとして、髪を一房切ってオズマさんに渡そうとしたのだが…ケイトリンに止められた。
「変な事に使われますよ」
「…変な事って?」
「呪い…とか」
怖っ!?
「え…?呪いって本当にあるの?」
「まぁ、殆どは迷信の類ですけどね。昔は魔法…禁呪と言って、まさに呪いのような術式があったらしいですよ?」
「へぇ…それは知らなかったな…」
確かに魔法がある世界なんだから、呪いだってあっても不思議じゃないか。
というか、話を聞く限りは魔法の一種なんだろうね。
身体の一部を魔法触媒にする、みたいな。
「と言うわけで…ごめんなさい、オズマさん。何とか誤魔化してください」
「いえ、大丈夫ですよ。もともと考えてなかったことですから」
しかし…改めて考えると『証拠として身体の一部を切り取って来い!』とか言われてなくて良かったよ。
逆に言うと、どうも連中はその辺の詰めが甘い気がする。
あとは、事故に見せかけるために落盤を起こす訳だが…
「それは…?」
「[爆裂]の魔法を発動させる魔道具です。それほど威力があるものではありませんが…ポイントを選べば意図的に落盤を起こすことも出来るはずです」
ようするに爆弾だね。
この世界にも火薬らしきものはあるみたいだけど…魔法で代用できるのであまり使われていないし、それを応用した銃火器の類は存在していない…私が知る限り、ではあるが。
「で?どこで使うの、それ」
「探索途中でいくつか目星を付けている。あまり大規模に崩しても危険だからな…最終的には慎重に決めなきゃならん」
自分が生き埋めになっては洒落にならないもんね。
そんなわけで、予め目星を付けていたというポイントに爆裂の魔道具をセットして、安全な距離まで離れて待つことしばし。
ドゴォッ!!ズズーーンッッ!!!
「うきゃあ!?」
爆発と崩落の音が坑道内に響き渡り、ミーティアが驚愕の声をあげる。
威力はそれほどではないと言っていたが、狭い坑道内での爆発であるためか、結構な衝撃が伝わってきて天井からはパラパラと小石が落ちてくる。
…ホントにここ大丈夫?
ちょっと恐ろしくなったが、すぐにそれも収まったようだ。
「さて…これから俺は外に出て、監視してるヤツと接触します。確認のためソイツを連れてまた中に来ますんで、分岐のところで隠れていて下さい」
「分かりました」
坑道が分岐する地点、落盤を起こした坑道とは別の道に入るところに潜んで二人が戻ってくるのを待つ。
やがて、話し声が聞こえて来てオズマさんともう一人がやって来た。
「こっちだ」
「…確実に殺してんだろうな?」
「…ああ。間違いない。完全に油断してるところを突いて致命傷を与え…崩落にも巻き込んでるんだ、万が一にも生き延びられないだろう」
「そうか。そいつぁご苦労だったな」
「労いの言葉などいらん。早く妹を開放しろ」
「へっ…分かってるよ。ちゃんと役目を果たしたのなら、約束は守るさ。…多分な。だから、それまでは大人しくしてるこった」
「…」
もう一人の人物はフードを被っていて顔が見えないが、声は男のものだ。
身のこなしや雰囲気からは手練という感じはなく、おそらくは単なる使い走りだろう。
彼らは奥に進んで行き…崩落現場を確認したのであろう、それほど間を置かずに戻ってきた。
「確かに、あれなら助からねぇな。良くやったぜ」
「…」
「へっ、後悔してんのかぁ?今更もう後戻りはできねぇぜ?おめえも俺たちと同じ側ってことだ。…それにしても、あんな極上の女を
ピキッ…!
ブッコロスッ!!
(だぁ〜!?カティア様落ち着いて…!)
(離して!ケイトリン!アイツは絶対に許さん!!)
(作戦が台無しになっちゃいますよ!)
(ママ、しぃ〜っ!なの!)
「ん?なんだぁ?何かいるのか?」
「あ、ああ、ここは魔物の巣窟だったからな。まだ駆除しきれていない魔物がいるかもしれん」
「な!?…は、早く脱出しようぜ!」
(オズマ、ナイス機転!)
(ムガムガ…!)
怒りに震える私がケイトリンに羽交い締めにされ、ミーティアに口を塞がれている間に、オズマさんと監視の男は外に出ていった。
「ぷはぁっ!もういいでしょ…追いかけるよっ!」
「はぁ…カティア様、バレないように追跡ですからね。その点忘れないでくださいよ?」
「分かってる!根城を押さえたら真っ先にボコボコにしてやるっ!」
鉱山を出た私達は、相手に気づかれないように一定の距離を保ちつつ後を追う。
念の為ケイトリンが用意したフード付きのマントで3人とも顔を隠している。
…ハッキリ言って私達のほうが怪しい。
鉱山を出る前にルシェーラ経由でリュシアンさんにも出発したことを伝えてある。
このあとも適宜連絡は行う。
今頃は騎士団の精鋭がいくつかの候補地を取り囲んでいるはずだ。
特にトラブルもなく数時間で王都まで戻ってきた。
ここなら人も多く気付かれるリスクも少ないので、見失わないようにもう少し距離を詰めて尾行する。
第一城壁の大北門を抜け、どんどんと街を進んでいく。
「さて、どこに向かうのか…ケイトリンはある程度予測してるんでしょ?」
「ええ。アグレアス侯爵が怪しいとなれば…おそらくは東地区、第二城壁内の三番街にある侯爵家所有の倉庫ではないかと」
「三番街…確かにそっちに向ってるね」
王都の第二城壁内は王城を中心に時計回りに一番街から十二番街まであり、北を上とした場合の時計の数字の位置と一致している。
三番街は真東と言うことだ。
そして、ケイトリンの予測の通りオズマさんと監視の男は三番街にある倉庫の前までやって来た。
赤いレンガ造りのそれはかなりの大きさで、入り口も建物の大きさに見合った両開きの大きな鉄扉だ。
だが、二人はそこには入らずに裏手にまわるようだ。
おそらくはそちらに通用口があるのだろう。
「…どうする?」
「すんなりオズマの妹ちゃんを返してくれれば良いのですけど、纏めて口封じなんて可能性もありますからね…何とか中に入りたいところです。リュシアン様が何とかするって言ってたんだけど…ん?」
ケイトリンが何かに気づき顔を向けた方を見ると…誰かが建物の影から手招きしているのが見えた。
「あの人は…?」
「騎士団の者です。行ってみましょう」
「よう、ケイトリン。ご苦労さんだったな。…カティア様、お初にお目にかかります。私は第一騎士団所属のスレイと申します」
「あ、初めまして、カティアです」
手招きしていたのは、冒険者風の装いをした年配の男だった。
どうやら騎士団員らしいが、目立たないようにこのような格好をしているらしい。
「スレイさん、状況は?」
「あまり時間がねぇから手短に言うぞ。この倉庫の周りは一個小隊で取り囲んでいる。ターゲットが確認できたから他の場所を見張ってる隊も直にこっちに来るはずだ。内部には数名が潜入している。侵入経路は確保してあるから俺たちも行くぞ」
「ひゅ〜ぅ!流石ですね」
「誰かさんに刺激されて、まるで暗部みてぇなこともこなせるようになっちまってなぁ…あ、カティア様は外でお待ちください。すぐそこにも団員が待機してますから護衛に付けて…」
「私も行きます」
「え?い、いや、しかし…」
「この手でボコボコにしなければならないやつがいるんです!」
「は、はぁ…」
「だいじょ〜ぶですよ、スレイさん。カティア様は多分この場の誰よりも強いですよ。なんせリュシアン様と引き分けるくらいなんですから」
「…分かりました。血は争えぬという事ですかね…。ですがご無理はなさらぬよう」
「ありがとうございます!」
そうして私達は敵が潜んでいるであろう根城へと潜入するのであった。
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