第四幕 24 『神稽古2』


ーー カイト ーー


「カティア!」


 ディザール様の一撃によって倒れるカティアに思わず駆け寄って腕の中に抱き上げる。


「気を失っただけだ、心配はない。すぐに目を覚ます」


 息一つ乱すことなくディザール様は言う。


 確かにカティアの一撃が入った、と思ったのだが…

 外野で見ていたにも関わらず何が起きたのか全く分からなかった。


 これが、武神。


 …これは、いい稽古になりそうだ。


「…ふふ、なかなかの面構えだ。よし、次はお前の相手をしてやろう」


「はい、お願いします。…エメリール様、カティアを見ててもらえますか?」


「ええ。頑張ってね」


 気を失ったカティアをエメリール様にお願いして、武器を選んでからディザール様と相対する。


 はっきり言って実力差は天と地ほどもあるが、これほどの機会は滅多に無いこと。

 できるだけ食らいついて糧にするんだ…!



ーーーーーーーー




「…はっ!?」


「あら、気が付いたわね。大丈夫?」


「え?…リル姉さん?…あれ?私は…どうして?」


 いつの間にか気を失って、気が付いたらリル姉さんに介抱されていた。


「あなた、ディザールの一撃を貰って気を失ったのよ」


「あ…そっか…」


 一撃を入れた、と思ったら逆に貰ったのか…

 一体あの体勢からどうやって反撃を…?


 いや〜、あれで駄目ならもうお手上げだよね。


 それにしても、『よし、もらった!』とかフラグ以外の何ものでも無かったよ。

 私も父さんの娘という事か…


「う〜、でも悔しいな…一撃も入れられないなんて」


「まあ、ディザールは私達の中でも一対一では最強だから。一瞬でも本気にさせたんだから大したものよ」


「…そうかなぁ?」


「そうよ。それより、ほら。彼頑張ってるわよ。応援してあげたら?」


 と言ってリル姉さんが指差した先では…


 私に代わってカイトがディザール様と戦っていた。


 私と手合わせしたときは防御を主体としていたカイトは、今は果敢に攻撃を繰り出している。



 凄い…

 縦横無尽に繰り出す斬撃は息をもつかせぬ程で、普段の戦闘スタイルとのあまりの違いに驚く。


 そして、ディザール様も私と戦ったときとは異なり、積極的に攻撃を行っていた。

 あの、視認できない斬撃ではないけど、カイトを上回る速度の連続攻撃を繰り出している。


 しかし、カイトは自身も攻撃しながらそれを尽く捌いていて、流石の鉄壁ぶりを見せている。


 剣と剣がぶつかり合う衝撃音が連続で鳴り響き、その衝撃波は離れて見ている私達のところまで届いて髪を揺らす程だ。



「う〜ん…カイトが強いことは知ってるつもりだったけど、ここまでとはなぁ…」


「カティアもそうだけど、ディザール相手にあそこまで戦える人間はそうはいないわよ。…でも、あなたのお父さんとか、あなたの周りにも同じくらいの実力者が結構いるのよね…どうなってるのかしら…」


「ははは…まあ、ウチは特殊なので…。でも、あれでもディザール様は本気じゃないよね」


「そりゃあね…本気を出したディザールとまともに戦えるのは、姉さんくらいじゃないかしら…」


「へぇ、リリア姉さんが…リル姉さんは?」


「え?わ、私?…え〜と…」


「あははは、リルお姉ちゃんに武器を持たせたら大変なことになるわよ!」


 と、突然会話に入ってきたこの声は…


「リナ姉さん!」


「やほ〜、カティアちゃん!元気してた?」


「うん。リナ姉さんはどうしてここに?」


「リルお姉ちゃんのところに遊びに行ったらいなかったんで、神気を探ってみたら何か面白そうなことしてるみたいだったから見に来たのよ」


「そっか〜。ところで、さっきのはどういう事?リル姉さんに武器を持たしたら…って」

 

「ああ、リルお姉ちゃんはね…運動はからきしなので、武器なんか持たせたら自分の足を斬るのがオチよ」


「…そんな事はないと思うけど」


 そ、そこまで酷いの…?

 確かに武器を持って戦うようなタイプには見えないけど。


「でも、こと一対一で最強はリルお姉ちゃんだと思うよ?」


「え!?どういうこと?…あ、魔法が凄い?」


「そうじゃなくてね。リルお姉ちゃんって『魂の守護者』…魂を司る者だからね。魂魄に対する直接攻撃なんかされたらどうにもならないでしょ?」


 まさかの即死攻撃!?


「…そんな事しないわよ」


 『できない』、じゃなくて『しない』なんだね…

 怖っ…!


「それより、あれが噂のカティアちゃんのカレシね!うんうん、頑張ってるじゃない」


 あ!いけない!

 カイトの戦いをちゃんと見なくちゃ!



 私達が話をしたいる間も激しい攻防は続いていたが、その膠着状態を打破するべく遂にカイトが動く。


 体ごとぶつけるようにして剣を振るい、鍔迫り合いに持ち込む。

 そして、その勢いのまま更に体を無理やり押し込んで相手を突き放し、離れたところで突きを放つ!


 体勢を崩したところへの渾身の一撃。

 さあ、さっきの私の時と同じような状況だが、果たして…!?


 すると、ディザール様を捉えたかと思われた突きの一撃は虚しく空を切り、いつの間にかカイトの背後に現れたディザール様が剣を振るって…


「ぐはっ!?」


「カイト!!」


 地面に倒れ伏したのはカイトの方だった。

 だが、直ぐに立ち上がったので、取りあえずはホッとした。



「今のは…」


「転移とかじゃ無いわよ。純粋なスピードによるものね」


「ええ〜…もはや技量がどうこうのレベルじゃ無いよ…」


「まあまあ、それだけ追い詰めたってことだよ」





 カイトの手合わせはこれで一旦終了だ。

 こちらに戻ってくるカイトの表情は少し悔しそうだ。


「…参った。まるで相手にならなかったよ」


「そんなこと無いよ!凄かった!…私なんか気絶させられちゃったし」


「お疲れ〜!そして、初めまして!」


「…え?あなたは…」


 あ、リナ姉さんが来てたことには気が付いてなかったか。

 そりゃあ、あれだけ激しい戦いをしてたらね。


「私はエメリナよ!あなたはカティアちゃんの想い人のカイトくんよね」


「は、はい、初めまして。お会いできて光栄です」


「うんうん!なかなかの好青年ね!カティアちゃんも見る目があるわね!」


「へへ〜、そうでしょう?」


「いや〜、恋愛相談に乗った甲斐があるわ〜」


「わーー!?それは言わないでよっ!」


 もう!

 そう言うことは暴露しちゃ駄目でしょ!


「いいじゃない、上手くいったんでしょ?」


「う、うん…まだ付き合ってるわけじゃないけど…」


「…はあ?どゆこと?どう見てもあなた達の雰囲気は恋人同士じゃない」



 ということで、リナ姉さんに経緯を説明する。

 すると、呆れた様子でリナ姉さんは言う。


「はぁ…何というか…真面目なのねぇ…私にはよく分からないけど」


「まあ良いじゃないのリナ。当人たちの気持ちの問題でしょう、そう言うのは。きちんと問題を解決してけじめを付けてから。私はそういうの好感がもてるわ」


「まあ、そうだけど。でも、今だって甘々のラブラブな空気なのに、正式に付き合ったらどうなるの?モザイクいるんじゃない?」


「なんで!?」







「エメリナ、久しぶりだな」


「あ、ディザールさん、お邪魔してまーす。どうでした、カイトくんは?」


「うむ。カティアもカイトも筋が良いな。今でもかなりの研鑽を積んでると思うが、まだまだ伸び代があるはずだ」


 全く歯が立たなかったと思うけど、なかなかの高評価を頂けたね…

 嬉しいんだけど、やはり結果には納得いかないかな。

 それはカイトも同じだろう。


「二人の実力は分かったからな、もう少し手合わせしながら指導してやろう。肉体的に鍛えられるわけではないが、技術的、精神的な経験は積めるはずだ。…これから厄介な相手と戦う事になるやもしれぬ。ここで少しでも実力を伸ばして行くと良い」


「「はいっ!お願いします!」」


「おお〜、息ぴったりね!」





 こうして私達は、ディザール様にたっぷりと指導をしてもらうのだった。

 それこそ、精魂尽き果てるまで…

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