第二幕 エピローグ 『娘』
ガザック武具店を出た私達は、今度は北地区の住宅街にあるプルシア魔道具店に向かっていた。
「あ、ママ〜。おねえちゃんち!」
「そうだね〜。大きいお家だね〜」
「うん!おねえちゃんはおひめさまなの?」
「う〜ん?似たようなものかな…」
まあ、高位貴族のご令嬢はお姫様と言えばそうだろう。
例え
「ママもおひめさまみたいだよね」
「ん?そ、そお…?ありがとうね。ミーティアもお姫様みたいに可愛いよ」
「えへへ〜」
そんなほっこりする会話をしながら、北地区のメインストリートを進んでいき、やがて北門近くのプルシア魔道具店に到着した。
カランカラン…
ドアベルの音を響かせて店内に入る。
「は〜い、いらっしゃいませ〜」
と、店の奥から店主のプルシアさんが顔を出す。
「こんにちは〜」
「あら、あなたたち!…あらやだ、もうそんなに大きな子供ができたの?」
「そんなわけ無いでしょう!?」
もう!毎回毎回!
「…この子は親戚の子です。私の事を母の様に慕ってくれてます」
「あ、そうなんだ、残念」
…何で残念なのさ。
「それで、今日は何か入り用で?」
「はい。新商品があると聞きまして。『代行の魔符』と言うのを見に来ました」
「ああ、あれね。もしかして、リーゼって子に聞いたのかしら?カティアちゃんがこの店を紹介してくれたんでしょう?」
「あ、そうです。リーゼさんが使ってるところを見て、凄く便利そうだと思いまして」
「うんうん、あれは自信作なのよね〜。それにしても、あの子おもしろいよね〜。すっかり話し込んじゃって、いろいろインスピレーションが湧いたわ」
確かに二人とも気が合いそうな感じがする。
…誰かストッパーがいないと延々と議論してそう。
なお、ミーティアはアレ何?コレ何?と好奇心の赴くままカイトさんを質問攻めにしているところだ。
「でも、ちょうどよいタイミングだったわね。なかなかの人気ぶりでね、もう在庫が一つだけなのよ。まあ、もともとそんなに大量生産できるものでもないしね」
「おお、やっぱり人気商品なんですね!…それで、お値段は如何程で…?」
「金貨3枚…と言いたいところだけど、お店の宣伝してくれたみたいだし、2枚でいいわよ」
「え、いいんですか?」
「いいのいいの。カティアちゃんが使ってくれればいい宣伝にもなりそうだしね」
パチッとウィンクしながらそう言ってくれる。
ここは有り難くお言葉に甘えさせてもらいますか。
「じゃあ、購入させてもらいます!…と、一応リーゼさんには聞きましたが、たしか継続型の魔法の代行をしてくれるんですよね」
念の為、詳しい説明は聞いたほうが良いだろう。
「その通りよ。一応、攻撃魔法とかの単発のものにも使えない訳じゃないんだけど…単純な繰り返しになるだけで、狙いもつけにくいし使い勝手がイマイチなのよね。だから、結界とか支援魔法の効果維持が主な用途かしらね。使い方次第では他にも応用できるかもだけど」
へえ、攻撃魔法とかでも使えることは使えるんだ。
同じ場所に向かって繰り返し攻撃するようなシチュエーションがあれば使えるってことか。
「使い方は、予め『反唱』のキーワードで起動させておいてから、この魔符を持ちながら魔法を使用するだけね。後は、内在する魔力を使い切るか、『停止』のキーワードで終了ね。使用中も周囲の魔素を取り込むので、使用魔法にもよるけど結構な時間もつと思うわ」
うん。
そのへんは大体リーゼさんに聞いたとおりだね。
と、一通り説明も聞いたので、予定通り購入しました。
「お買い上げありがとうございま〜す」
金貨2枚はそこそこ高額だが、前回の依頼の実入りが結構あったのと、ダンジョン
「あ、そうだ。プルシアさんに見てもらいたいものがあるんです」
「見てもらいたいもの?私にって事は魔道具かしら?」
「多分、そうだと思うのですが…」
そう言って、ミーティアが元々着ていた服を取り出してプルシアさんに見せる。
「あ、わたしのおようふくだ〜」
「あら、ちびちゃんの服なの?…確かに魔力を帯びているわね。どれどれ…」
そう言いながらプルシアさんは
「あ、これ?これはね、魔力の流れを見たり魔道具に刻まれた魔術陣を見たりできるのよ。ウチって発掘品の魔道具の鑑定依頼も受けたりするんでね。…ふむふむ、ここの織りに魔術的な意味をもたせてるわね…糸も普通の物では無さそう…蜘蛛系の魔物の糸かしら?ははあ、これはこうなってるのか…う〜ん?そうすると、効果は…」
…私達への説明もそこそこに調査に没頭し始める。
「…リーゼと気が合うわけだな」
「ママ〜、おねえちゃんどうしたの?」
「ちょっとね、一生懸命調べてくれてるのよ。少しの間静かにして邪魔しないようにしましょうね」
「うん、し〜っ!だね」
う〜ん、何ていい子なんだろう。
ナデナデ。
しかし、これはいつまで続くのだろうか?
と思った矢先、プルシアさんは、がばっと顔を上げて興奮した面持ちで私達に向き直る。
「カティアちゃん!」
「は、はいっ!?」
「これ、しばらく私に預けてくれないかしら!?」
「えっ、どういう事です?」
「多分、これ
ミーティア自身が生きた
しかし、サイズの自動調整か。
納得の効果だ。
「それは構いませんが…それって、普通の服に後付で施したりは出来るんですか?」
今日買った服とかに付けられたら、成長しても着られるかな〜、と思って聞いてみる。
「いや、素材が魔力を通すものでないと無理かな。糸素材で魔力を通すものはごく限られるから、一般の服に施すことは出来ないわ」
「そっか〜。ミーティアの服に付けられたら買い替えが楽になるかな〜って思ったんですけど」
「ああ、そうしたら、試作第一号はミーティアちゃんの洋服にして、完成したら進呈するわよ」
「あ、本当ですか?」
「もちろん、それくらいは謝礼としてさせて欲しいわ」
これは嬉しいぞ。
ミラージュケープとかを見てもデザインセンスも優れてるし、きっとミーティアによく似合う服を作ってくれるに違いない。
「ありがとうございます。じゃあ、お願いしますね」
「こちらこそ、お礼を言いたいわ。新たな技術を習得する滅多にないチャンスですもの」
と言う訳で、ミーティアの着ていた服をプルシアさんに預けて、私達はお店を後にした。
「プルシアさんの洋服、楽しみね〜」
「ね〜」
「もの凄い気合の入れようだったな。とんでもない物が出来そうだ…」
2〜3週間ほどは欲しいとのことだったけど、むしろそんなに早く出来るものなんだろうか。
何か没頭しすぎて無理しなければ良いんだけど…
「じゃあ、用事も済んだし、少し散歩して帰りましょうか」
「おさんぽ?」
「ああ、だったらあっちに公園があったな」
「へえ、知りませんでした」
「遊具なんかもあったから、ミーティアも楽しめると思うぞ」
この世界にも前世にあったような滑り台とかブランコのような遊具があったりするんだよね。
ああいうものがあるなら、ミーティアも楽しめるだろうね。
そして、カイトさんに案内されて公園にやって来た。
小さな池を囲むように遊歩道が整備されていて、所々に木々が生い茂っている。
木陰にはいくつかベンチがあって、恋人らしき男女が語り合ったり、散歩中らしき老夫婦が休んだりしている。
子どもたちのはしゃぐ声が聞こえる方に目を向けると、芝生に覆われた広場があり、そこにいくつか遊具らしきものが見えた。
「ママ〜!あれ!あそこに行きたい!」
早速遊具を見つけたミーティアが興奮気味に私の手を引っ張りながら言う。
「はいはい、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
連れてこられた先には、小さな子供たちで賑わうブランコや滑り台などのほか、少し大きい子向けなのかなかなか本格的なアスレチックのような物があった。
ミーティアはと言えば、小さい子向けの遊具など目もくれず、一直線にアスレチックに向かう。
「ママ〜、これやりたい!」
「え?ちょっとミーティアには早いんじゃないかな…」
大人でもちょっと苦労しそうなのに、危ないんじゃないかなぁ…
「え〜、やりたい〜!」
「まあ、落ちないように補助してやれば大丈夫だろう」
「わ〜い、パパだいすき〜」
む…ポイントを稼ぎましたね。
そんなこんなでアスレチックに挑戦するミーティアだったのだが…
「…うそ?」
「…これは驚いたな」
私達の視線の先には、小さい体のハンデなどものともせず、ひょいひょいっ、と難関を次から次へとクリアしていくミーティアの姿が。
最初こそ、私達が補助に付いていたものの、あっという間に要領を掴んで止める間もなく驚異的なスピードで攻略し始めたのだ。
不安定な足場でも全く危なげない。
「普通の人間よりもスペックが高いと聞きましたが、わずか3歳くらいの姿でこれ程とは…」
「…そうだな。身のこなしだけなら大人と遜色ないどころか凌駕してそうだ」
本当に。
流石、『神の依代』と言われるだけはある。
「お〜い!ママ〜!パパ〜!」
「…ああ、あんな高いところに(オロオロ)」
「だ、大丈夫だ。足を滑らせて落ちても受け止める」
周囲の家族連れも驚異的な幼女の運動神経に興味津々で非常に目立っている。
ああ…ミーティアがこっち見てママ、パパとか言うから私達も注目を浴びてる…
またおかしな噂が流れなきゃいいけど…
さて、そうこうしているうちにあたりはすっかり夕日に染まり、そろそろ帰る頃合いとなった。
アスレチックを完全攻略したあとも、いくつかの遊具で遊んでミーティアは上機嫌だ。
しかし、もう帰ろうと言っても、もう少し遊びたいと駄々をこねる。
カイトさんと二人で何とかミーティアを宥めて、ようやく宿への帰路に付くことができた。
ミーティアの驚愕の正体判明に始まった一日はこうして終わりを告げる。
突然の出会いから不思議な縁で結ばれたもう一人の【私】。
例え最初の出会いで私の魂を傷つけた相手だとしても。
あの、哀しい世界の迷い子が、こうして幸せそうに笑顔を振りまいていることが、これ以上無いくらいに嬉しい。
その眩しい笑顔がたまらなく愛おしい。
あの子が望む母親役なんて、ちゃんと出来るのか分からないけど。
きっと幸せにしよう。
そう、心の中で誓うのだった。
ーー 第ニ幕 転生歌姫と古代遺跡 閉幕 ーー
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