第16話:神話とか神様とかは、苦手です




〈扉を開けましょう〉

 アートモがうながす。

「え?マジか」

〈思いっ切りババーンと行こうぜ!〉

 ガイアまで同意する。

 ババーン?

 この屋敷の玄関は、大きな扉が2枚の観音開きだ。

 両手でドアハンドルを持ち、止めるアザトースとボールスを無視して、思いっ切り扉を開いた。



<ヨシツグ~!>

<本当にヨシツグだ!>

 声はすれども姿は無し。眼の前には、白いモフモフ。

 そして上から降ってくる声。

 そして、ここでは内緒にしている俺の本名。ここでの俺は、ヨシヒコだからな。


 これは…………

 見上げる程の大きさに成長しちゃってるけど、間違い無い!

 シロとラッキーだ!


 こういうテンプレなら大歓迎だ!

 13年ぶりの再会。

 おっとりおしとやかなサモエドのシロ。

 ヤンチャでお馬鹿なハスキーのラッキー。

 嬉しい!やった!!わ~い!と、年甲斐もなく抱き着くと……くっさ!

 獣臭いのと、部屋干しの生乾きのような臭いがした。


浄化クリーン浄化クリーン浄化クリーーン!!」

 今までで1番気合いを入れて魔法を唱えた気がする。

 噴水が汚れていたのも、コイツらが犯人だろう。

 玄関の汚れも、家に入る前にブルブルして水切りしたんだろうなぁ。




 ポカーーーンとしている自称護衛二人に、シロとラッキーを紹介する。

「『サモエドのシロハティ』と『ハスキーのラッキースコル』だ」

 ん?何か自分の言葉に副音声が付いたな。

「ハティとスコルって、フェンリルの子供のあれか?」

 アザトースの声が震えているのは、気のせいでは無いよな。


<ヨシツグの匂いがしたから、この国に来たよ!>

<何かに呼ばれたので、この屋敷に来たのよね。てっきりヨシツグに呼ばれたと思って、色々さがし回っちゃったわ>

 高速で振っている尻尾が部屋の惨状を悪化させている気がするが、今日は許す!


 それよりも気になるのは……

「どこから中に入ったんだ?」

 玄関は開いて無かった。

 屋敷に破壊された跡は無い。

<壁から!>

〈神獣なので壁抜け出来ます〉

<どこでも通り抜けられるのよ>

〈幽霊と一緒だな!〉

 一編いっぺんに言われても聞き取れないって!


 えぇと、聞き直してまとめると、『神獣なので』『幽霊のように』『どこでも通り抜けられる』から『壁から入った』と。

 え?神獣なの?


〈フェンリルが神獣と言うか、神の子ですからね〉

〈それの子供だから、そりゃ凄い技持ってて当然だな!〉

 フェンリルって神の子なの!?

 個体名って事?

 ゲームとかじゃ、敵だったり召喚獣だったり、群れでいたりしたぞ。

 漫画とかでは、ブルーたったりシルバーだったり、色々種類がいたりしてたし。


〈お前の子供を全員「ヨシツグ」って呼ぶなら、ハティとスコルコイツ等もフェンリルだな〉

〈二匹は、フェンリルと女巨人の子です。フェンリル、スコル、ハティ、全て個体名になります〉

 獣姦……いや、何でもありません。


「そっか。もう名前がシロとラッキーじゃないって事か」

 だから俺の紹介の言葉に副音声が付いて、『ハティ』と『スコル』ってアザトースとボールスには聞こえたのか。

<え?僕ラッキーが良い!>

<私もシロの方が良いわね>

 うわ~ん!お前達!嬉しい事言ってくれるじゃん。

 抱きついとけ!


〈りょうかぁ~い〉

うけたまわりました〉

 ガイアとアートモがシロとラッキーの名前の自動翻訳を、に設定してくれたようだ。

 大きくなったけど、かなり大きくなったけど、シロはシロだし、ラッキーはラッキーだよな。



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