第3話:第一の壁は文字だった
王宮の敷地の中にある、小さな家を貸してもらった。
この世界の事、今いるこの国の事、俺を召喚した国の事、周りの国の事も少々。
生きていくのに必要な知識を教えてくれた。
そして驚いた事に、俺は『全世界言語』が話せるらしい。
俺には全て日本語に聞こえているのだが、教師役のアルハトさんが色々な言語で話し掛けて実験してくれた。
偶に片言に聞こえるのは、アルハトさん……先生で良いか……自体がその言語が苦手だった事まで見抜いた俺。
「通訳として、充分に生きていけます」
太鼓判を押された。
今日は文字。
王宮の応接室を借り、授業をしてもらっている。
本を受け取り、問題無く読める事を確認した。
それにしても全部ひらがなで読み
「読めるけど、目がチカチカしますね。小学校一年生の教科書のようだ」
思わず愚痴ると、先生は首を傾げた。
そうだった。
日本語って独特だったな。
俺が英語圏の育ちだったら、何も問題無かったんだろうなぁ。
説明して欲しそうにワクワクした目で俺を見つめる先生の圧に、紙とペンを借りる。
「俺の居た世界の、俺の居た国は日本と言って、特殊な言語の国だったんですよ」
紙に『あかいほのお』と書く。
問題無く読めているようなので、この国の言葉になったようだ。
次に意識して『あかいほのお』とひらがなで書く。
続けて『赤い炎』『アカイホノオ』『akai honoo』おまけで『RED FIRE』と書いた。
「これは全て同じ意味の言葉です」
一応、『RED FIRE』は他国の言語だと付け足しておく。
「大人になると、この漢字とひらがなが混じった文章を読む事に慣れているので、全てがひらがなに見えるこの国の本は読み
『赤い炎』と『あかいほのお』を見せて説明した。
ローマ字と英語が別物だという事にも、驚いていた。
先生が新たに持って来た本を順番に見ていく。
やはりどれも同じようにひらがなの羅列にみえるが、実は全部違う言語だそうだ。
ん?一つだけ、ひらがなとカタカナが混じっている。
「ポーションをつくるには ヤクソウがひつようである
いかのヤクソウをそれぞれひとつずつすりつぶし ジュンスイとまぜる」
あ、名詞だけカタカナなのか!
ん?先生が目を見開いて俺を見ている。
「それは調薬の本らしいのですが、まだ殆ど読み解けてないのが実情です」
名詞とその他で文字の種類が違う、とは思わないか。
転生したわけでもないのに、俺ってば意外とチート?
「文字の練習も兼ねて、この本の翻訳しましょうか?あ!お金は貰いますけど」
この世界で生きていくのに、翻訳を仕事に出来ると言ったのは先生だ。
俺の書いた文字を先生に音読してもらえれば、間違った文字を書いていないと判るし一石二鳥!
「それは、こちらからお願いしたい位です。あ!薬師を同席させても良いですか?実在する材料名なのかすぐに判ります」
確かにそれは良いかもしれない。
今見ている部分だけても、殆どが謎名だ。
「薬師師長に都合の合う日を聞いてきます。ちょっと休憩していてください」
スキップしそうな勢いで先生は部屋を出て行った。
それでは遠慮なく、休憩していましょうかね。
この世界の食べ物が日本に近くて良かったよ。
美味しいクッキーと紅茶を手に、のんびりと先生を待つ事にした。
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