ゾンビとて、名前が欲しい
ショピングモールの混乱から何とか逃れたゾンビ2人は、とぼとぼ道を歩く。
(以下、日本語で記されますが、本当はゾンビの言葉で話されてます)
「ホント、危なかったなー。あの場面でみんなが謎の団結力を発揮して、一斉に機動部隊に向かったから助かったけど……」
「何とかなるもんですね。先輩」
「なってないよ。ほとんど撃ち殺されてたよ」
「でも、助かりましたから」
「君を助けるために、僕が何発被弾したと思ってんのよ。腕なんか、ちぎれかけてるからね」
「ウケますね。先輩」
「ウケねぇよ! 僕の体をなんだと思ってるんだよ」
「いや、でも。今回はギリって所でしたね」
「ギリギリ生き残れたね」
「いえ、ギリギリ勝てそうでした」
「曇りなき眼(まなこ)でちゃんと見定めろよ! 9割9分押し込まれてたわ」
「紙一重って感じでした」
「錯覚だよ。仮にそうであっても、その一重(ひとえ)は決して埋まらない一重だよ」
「そうですかー……ところで先輩」
「今度は何?」
「先輩って、名前なんですか?」
「ゾンビだけど」
「いや、ほら。そうじゃなくて、あるじゃないですか。人間の時の名前が」
「あーあー。そうか。君はゾンビになって間もないから知らないよね。ゾンビになると、名前無くなるよ。みんな、ゾンビだから」
「え? じゃぁ、俺は」
「だから、ゾンビ君でしょ」
「先輩は?」
「ゾンビだよ」
「いやー。それって……どうなんっすか? 猫に『ネコ』って名付けるようなもんですよね。俺が俺である証明がないっていうか、大多数の一部感が強いなー」
「ゾンビにアイデンティティを求めるんじゃないよ! 僕らはモブの一体なんだから」
「納得いかないっすわー。名前はいるでしょー! ゾンビとて、ですよ。ゾンビとて!」
「君は本当にいろんなことに、アンチテーゼを唱えるゾンビだ。まず、名前なんかあってどうすんの?」
「友達と呼び合う時とか?」
「ゾンビに何を求めてるんだよ!」
「えー。まぁ、人の時の名前は、もうこの際、無しでもいいですよ。でも、オリジナルな名前が欲しいですよー」
「君はホントに変わってるなー。んー……ゾンビからクリーチャーに変わると、固有の名前になることがあるかな」
「いや、俺、ゾンビで通してるんで!」
「君がゾンビにそこまで思い入れる理由が分からないよ! 将来の夢の欄にゾンビって書いてるのか?」
「でも、ゾンビ路線で」
「あとは……大きな成果を残したりすると、称号で呼ばれるゾンビはいるかな。将軍(ジェネラル)とか」
「名前ごときで、苦労しすぎでしょ!」
「そうだよ! 名前ごときの話で、こちとら必死に案を上げてんだよ! 君のためにな!」
「考えてみれば、友達に呼ばれるって言っても、今は先輩だけですしね。困んないですね」
「なんだ、この不毛な時間」
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