第45話 最弱の破壊神

カゲチヨたちは冥界の『冥府の秘湯』にいた。


VIPエリアの中は広く、外と同じように多くの温泉があった。

そして最奥には、破壊神シュノリンの宮殿が建っている。

周囲を一望できる大きなベランダなど、贅沢で凝った作りの建造物であった。


カゲチヨらは、その宮殿で一休みすることになった。


「がははははははっ!!美味い!!美味いのう!!」


先ほどまで、ロザリーに抱き抱えられていた人族の幼女。


彼女は今、ひたすら料理を口の中に掻き込んでいる。

リゼットの料理が大層気に入ったようで、息つく暇もなくカッ食らう。


幼女は宮殿の最奥にある、ふかふかのソファーであぐらをかく。

大きなテーブルに出された様々な料理に、アキラたちも目移りしている。

……が、この幼女の振る舞いやその食べっぷりに、全員がドン引きしていた。


「……なんじゃ?お主ら、遠慮せんで良いぞ?ほら食え食え!ほれ、カゲチヨ。お主もガッと食わんか。ガッと大きくなれんぞ?」


「は、はぁ……。」


奥の厨房では、リゼットがひっきりなしに料理を作っている。


「はい〜!!出来たにゃぁ〜!!じゃんじゃん持っていくにゃあ!!食材はぜーーんぶ奢りなのにゃ!!もうじゃんじゃん作っちゃうのにゃあ!!」


スアリはそれを手伝って、しきりに料理を運び続けた。


いつもなら我先に食べるアキラまでもが、料理に手をつけていなかった。

それは戸惑っていたからだ。


アキラはロザリーに問いかける。


「……この子、ホントにあのシュノリンばあちゃんなの?」


「ええ……、おそらく……。」


「また……、若返ったってこと?」


「いえ、種族も変わってしまっているので、おそらくは魔onのアバターじゃないかと……。」


「ほれ、食え!食え!ワシだけ食っても美味くないわい!!」


「……は、はぁ。」


言われるがまま、食卓につくカゲチヨ・アキラ・ロザリー。


「リゼットと……、あーっと、スアリだっけか?お前らも、今作ってるのが終わったら、こっち来て一緒に食うんじゃぞ!!」


奥から声が聞こえる。


「わかったにゃー。」


「あ、はい。」


「いやしかし、美味いなぁ。アイツにこんな才能があったとは……。ロミ坊の飯も美味いんじゃが、リゼットのは金とって商売できるじゃろ、これ。……特にこれよ。あとこれか。こんなもの見たことがないわ!!」


幼女シュノリンが豪快にかぶりついてるそれは、リゼットの創作料理だ。

見た目もひどく、常人には危険度の高い代物。

だが、シュノリンには関係なかったようだ。


リゼットとスアリが、最後の料理を持って食卓についた。

それを見て、シュノリンは食べるように促した。


「さぁ、食え食え!」


「はい、では遠慮なく。」


「じゃあ、食べる……、わね。カゲチヨも……、ねぇどれが欲しい?」


「あ、えっと、じゃあそっちのを、お皿にのせて欲しいです。」


現在、魔法人形オートマトンによる反乱のせいで、食事も容易ではない。

今では、これだけ豪華な料理は、なかなかお目にかかれないだろう。


ロザリーは食事をしながら、シュノリンに恐る恐る聞いてみる。


「あの……、それでシュノリン様。えっと、どこからお聞きすれば……?ああ、そうですね、まずはそのお姿は……?」


「ああん?……それがのう。よく分からんのじゃ。あやつと……、なんと言ったか……。お、おお!思い出した。BBAじゃBBA!アイツと戦っておったのじゃが、どうにもしぶとくてのう……。」


「は、はぁ……。BBAさん、……ですか。」


「何度倒しても、すぐに復活しよる。だが、そこはさすがワシ。すぐにおかしいと気付いたのだ。これは何かカラクリがあるな……、と。だから、更に何十回と倒してやったわ。がはははは!!だがのう、それでもヤツは復活してきおった。」


「そ、それで……?」


「そこでワシはピンときたのじゃ。こやつ……、死なないな、と。だから、更に何百回と倒してやったのよ。どうじゃすごいじゃろ?この頭脳派なワシにしか、まぁ出来んことよのう?ぐはははは!!」


「えっと、あのぅ……、それでお姿が変わった話は……?」


「ん?……、ああ、それはのう、なんか急に周りがこう……、シュワーっと光ってのう。ワシャワシャってなったら、こんなんなっておった。……ワシが思うに、腹が減り過ぎておったせいやもしれぬ。」


「こんなん……、とは幼女の姿、という意味で?」


「そうじゃ。しかも、あのBBAも消えておった。……とうとうBBAも、ワシの力に屈服しよったのよ。グハハハハハ!!しかし、手足が短くなった気がしてのう。木に登ってもすぐ落っこちるわ、崖から落ちるわで大変じゃったわい。」


困惑気味のロザリー。

それは他の者も同じだった。


「それで結局、今のは何の話だったのよ……。」


アキラは食事をしながら、呆れたようにつぶやく。

カゲチヨはハッと気がつく。


「ああ、もしかしてBBAさんって、女神様のことですかね。……結構前に採石場で戦ってましたが……。」


「なるほど……。それで、どうしてそんなことに……?」


ロザリーはシュノリンに質問するが、シュノリンは首をかしげる。


「それがのう、なんだったか覚えてないのじゃ。はて、なんだったかのう?」


「……あの人。脳みそ、おばあちゃんのままなんじゃないの……?」


「どうでしょう?昔からこんな感じだったような……。」


ロザリーとアキラは、疲弊したような表情をしている。


そんな彼女らを他所に、シュノリンは上機嫌で飯をカッ食らう。


「さぁ、飯食ったら、魔王城へ行くぞ!!まずは、ジル坊とジナ坊を助けてやらなくてはな!!お主らの話では、場所が分かるのはその二人だけなのだろう?まったく、レツ坊が不甲斐ないばかりに。本当にしょうがない腑抜けよのう。」


大笑いしながら飯を食うシュノリンは、ふとカゲチヨを見た。


「おお!そうじゃ思い出したぞぉ!!カゲチヨぉ!!貴様、ワシを屈服させたのう!!良い機会じゃ、魔王城を取り戻したら、早速貴様を魔王にしてしまおうかのう!!」


「あ、いえ……。遠慮しておきます……。」


カゲチヨは恐る恐るお断りをする。

だが、シュノリンは人の話を聞いていない。


「そうじゃのう……、新たな魔王の名は『ケツピカシリ魔王カゲチヨ』……、というのはどうじゃ?」


「もうお尻が、本体みたいじゃないのよ……。」


アキラは一応ツッコんでおいたが、シュノリンは聞いていなかった。





王都の広場。


荒ぶる鋼鉄巨人アスターと、ロミタン操る破壊神シヴァデュナート・ロボ。


両者の力は拮抗していた。

だが、巨神の戦いの余波は、周囲を破壊し続けた。

もはや広場だけでなく、辺り一帯は瓦礫の山。

それはもうまるで、ゴミの集積場や埋立地のような有様だった。


そこには4人の生存者がいた。

猫娘ノヴェトと、ハーフリング幼女リンリン。

そして、ダークエルフ女性レンザートと、魔族女性ロレッタだ。

彼女らは衝撃波を躱しつつ、少しずつ巨神たちから距離をとっていた。


「よし……、もうそろそろ攻撃も落ち着いてきたか……?」


「ノヴェトさん、どこへ行くッス?こんな逆方向に……。」


「どこって、逃げるに決まってんだろうが。あんなの、俺らじゃどうにもならんわ。それに、まっちゃんもいなかったんだ。ここに長居する意味は無ェ。」


会話している間も、衝撃波は襲ってくる。グズグズしている暇は無さそうだ。


「そうッスね。帰りましょうか。ロミタンさんには悪いッスが……。」


「あれ……、なんだろね?」


レンザートに肩を借りているロレッタ。

彼女が、少し先にある何かに気付く。

レンザートも、同時にそれを目視する。


「扉ですが……。中が……、なんでしょう?異空間になっている……?」


扉が少しだけ開いており、中が少しだけ見えた。

中は回廊のようだ。


だが問題は、その扉のある場所が、すでに崩壊しているということだ。

支えるべき壁は既になく、扉は倒れている。

瓦礫に引っかかって、少し斜めになっている状態。

明らかに扉の周りと、少しだけ見える中とは、整合性が取れない。


「俺が前に作ったワープ・ポータルか?……いや、違うな。他の誰かが作ったやつかもしれん。よし、とりあえずは、あれでここから退避するか。」


ノヴェトらは、扉の前まで近付いた。

そして、ノヴェトは半開きの扉を開ける。


だが、その時。

扉は急に勢いよく、外へと開け放たれた。


「むぐふっ!!?」


扉は、ノヴェトにめり込むように衝突。


「…………ああああっ!!」


そのまま上空まで吹き飛ばされた。


「どんっ!!!……ジャジャジャーン!!ワシが来たのじゃぁ!!」


扉から飛び出してきたのは幼女。


彼女は、開け放たれた扉からヒョイっと飛び降りる。

そして、キリッとカッコイイポーズで、可愛くキメる幼女。


「おがああっ!?」


大きな音を立てて、少し離れた場所に落下するノヴェト。

瓦礫の粉塵が舞う。


リンリン・レンザート・ロレッタは、見知らぬ幼女に身構える。


「……だ、誰ッス!?何者ッス!?」


戸惑う彼女らの目の前で、扉からは喋りながら数人が出てきた。


「ちょっと、さっさと先に行くんじゃないわよ!!」


「お待ち下さい、シュノリン様。まずは敵がいるかどうかを確認して……。」


それは、犬娘アキラとエルフ娘ロザリーであった。


「……って、おわ!?誰!?敵!?……って、あれ?リンリン?……と、レンザート……、だっけ?」


「……ロレッタ?なんでこんなところに?」


更に、犬少年カゲチヨと、ハーフリング娘スアリ、エルフ娘リゼットが現れる。


「あれ?リンリンさん?どうしたんです、こんなところで?」


「いや、どうしたって、こっちのセリフッス。なんでそこから出てくるッスか?たしかカゲチヨくんたちは、冥界に行ったはずッスよね?」


「そこからって……、あれ?ここどこなんです?魔王城じゃないのですか?ってうわぁ、瓦礫が……。あれ?もしかして、この崩れてるのって、魔王城です?魔王城無くなっちゃいました!?」


「あ、いや、ここ王都ッスけど……。」


カゲチヨは思わぬ場所に出て混乱したが、それはリンリンらも同様であった。


「いや、お前ら。……誰も、俺を心配してくれないのな……。」


ノヴェトは顎を押さえながら、ヨロヨロとした足取りで戻ってきた。


話を総合すると……。

カゲチヨらはロミタン製勝手口で、冥界から旧魔王城へワープしたのだ。

ところが、シュノリンに任せたところ、勝手口を間違っていたらしく。

結局、全く違うところへ着いてしまったのだ。


……よりによって、こんな最前線に。





「すごいのう!なんじゃあれは!?はぁ〜、ワシも戦いたいのじゃぁ!!」


幼女シュノリンは、巨神らを見上げていた。

もはやワクワクが押さえられないようで、その場でぴょんぴょんしている。

そして、急に走り出した。


だが、それをノヴェトがすぐさま捕まえる。


「危ねぇだろうが、ちびっ子!!なんなんだオマエは!?アホなのか!?」


「な、貴様ぁ!?このワシを誰だと思っておる!?離さんか下郎がぁ!!」


幼女は、ノヴェトをポカポカと殴りつける。


だが、まったく効いていない。

ノヴェトは、幼女の首根っこをつまみ上げ、子猫のように持ち上げる。

幼女は手足をブンブン振り回し、ジタバタしている。


「あの……、ノヴェトさん。」


「お?ロザリーちゃん?……今日はエルフの方じゃん。」


「……えっと、あのぅ。……その方は、お探しのシュノリン様ですよ。」


ノヴェトは幼女を見る。

思わず吹き出す。


「ふはっ!」


「なんじゃ貴様ぁ!?なんでワシを見て笑ったんじゃぁ!!」


「あと、ロミタン様の行方はまだ……。」


「ロミタンならいるよ。あそこでロボ操縦してるわ。」


ノヴェトは向こうで戦っている、シヴァデュナート・ロボを指し示す。


「そ、そういうことですか……。ということは、対抗できるのはもうあのロボしかいないということですね……。シュノリン様はどうやら、強制的にそのアバターへ入れられてしまったようで。今や、か弱き幼女でしかありません。」


「……へぇ、シュノリンちゃん、こんなに小ちゃくなっちゃったんでちゅか〜。大変でちゅねぇ〜。」


「くぅあ〜っ!!貴様!?ワシを馬鹿にしおってからにぃ〜!?」


両手をブンブン振り回す幼女シュノリン。

だが、ノヴェトの顔に当たっても、大したダメージにはならない。


ニヤニヤしてるノヴェトの様子に、違和感を覚えたロザリー。


「あの、ノヴェト様。……冗談じゃないんですよ、これ。本当の話です。」


「ん?」


「本物のシュノリン様です。……つまり、戦力としてはもう期待できないんです。おそらく破壊光線も使えないですし、筋力も……。」


幼女シュノリンを、じっくり見つめるノヴェト。


「……。」


「なんじゃぁ!?貴様、ワシが可愛過ぎてビックリしとるのか?がはははは!その手を離せば、ワシの下僕にしてやっても良いぞ?ほれ、早よ手を離せ。」


みるみる表情が変わっていくノヴェト。


「……ええええええ!?嘘じゃん!?奥の手、もうないじゃんこれ!?」





絶望に打ちひしがれるノヴェトに、どこからともなく声が聞こえてきた。


「ほう……、シュノリン様ですか。ありがとうございます。探す手間が省けましたよ。」


「へ……?」


ノヴェトは、目の前のロザリーを見つめる。


「え、ああ、いえ。今喋ったのは、私じゃないですよ?」


「えっと……?」


ノヴェトらの混乱を他所に、その声は喋り続ける。


「ふははは、シュノリン様はこちらとしても脅威ですので、真っ先に封印させて頂きましたよ。ひ弱なアバターの中に。」


ノヴェトは、その喋っている相手の場所を特定できない。

周りにいるカゲチヨらも全員、キョロキョロしている。


「え、あ、いや、誰?今、喋ってんの誰?どういうこと?」


「そして!勇者ノヴェト様とカゲチヨ様を捕らえることができれば、もはや我らにとっての脅威はありません。」


「いや、だから、誰なんだよ!どっから喋ってんだ!!」


ノヴェトは狼狽えた。

だが、周りの者は全員、ある一人を見ていた。


「え……?なんで、みんな、俺を見てんの……?」


全員が見ていたのは、ノヴェトだった。

カゲチヨが口を開く。


「えっと……、よく分かりませんが、声はそっちから聞こえるので……。」


「そうッス、そっちの方から……。」


全員が指し示す方向。

それが集まる場所は、ノヴェト自身だった。


「……いや、意味が分か…………、ひっ!?」


ノヴェトは急に足首を拘束され、身体がビクンと反応する。


「ぐっ!?な、な!?手!?」


ノヴェトの足首を拘束していたのは、誰かの手。

その手は、地表を突き破ってタケノコのように生えている。

しかも、その力はあり得ないほどに強い。

ノヴェトの力では振り解くことなどできない。


謎の声は、ノヴェトのすぐ下から聞こえていたのだ。


「……捕まえましたよ?」


「うわああああああああああああああああ!!」


叫ぶノヴェト。

つまみ上げていた幼女シュノリンを落とした。


「痛っ!!急に離すでない!!……ってなんじゃあこの手は!!キモいのじゃああ!!この野郎!!この!!この!!」


シュノリンは、地表から生えている手にガンガン蹴りを入れた。

ノヴェトも屈んで、その手を殴る。

金属製の手甲や、ベルトの金具で抉るように殴る。


「うわ!!何この手!!キショっ!?」


アキラも、片手剣で刺して抉るようにグリグリと攻撃する。

それを見て、リゼットやリンリンらも、思い思いの道具で攻撃し始めた。


その手は、一斉に執拗な攻撃にさらされて戸惑う。


「ちょ!やめなさい!!動けない相手に卑怯ですよ!?」


「うわっ!?タケノコが喋ったわ!?キショっ!?」


「タケノコじゃないッス、誰かの手ッスよ!!でも手が喋るなんて、どっちにしろキショいッス!!」


結局、そのまま誰も攻撃を止めない。


「痛ぇ!!誰だ!!俺の足もついでに攻撃してんのはっ!!……オイ、アキラ!!オマエの剣、ちょっと当たってんのよ!!」


「こ、コイツ!!しぶといわよ!!」


「えええええええい!!やめえええええええええい!!」


地面から大きな声が響く。

びっくりして、全員攻撃を止めた。


そして、その地表から生えた手のすぐそばに、今度は首が生えてきた。


「ぶはっ!!……貴方たち!!やめなさいって言ってんでしょ!?どうしてすぐやめないんです!?」


それは労働王アヴァロワーズだった。

地面からアヴァロワーズの右手と首だけが生えている。シュールな絵面だ。


「ひっ!?な、どっから出てくんだ!?」


怯えるノヴェトを他所に、アキラはテンションが上がる。


実は、アキラたちはまだ魔神族を見ていなかったのだ。

そのテラテラと光るものを見るのは、初めてだった。


「おわっ!?なに、この光るタケノコ!?顔が付いてるわ!?」


「……ひ、光るタケノコ!?それ、私のこと言ってます!?」


「……あ、でもピカピカ光ってるから、きっとレアよ!!レアタケノコなのよ!!喋るレアタケノコよ!!」


「いや、もうなんでもいい!!レアタケノコモンスターだ!!倒したらガッポガッポだぞ!!」


ノヴェトが叫ぶと、嬉々として攻撃を再開するアキラたち。

アヴァロワーズは右手だけでなく、今度は顔面にも攻撃を喰らい始める。


「あぶっ!?ちょ、やめ!止め!!き、ぐふっ!?聞け!聞いて!べほあっ!?お願い!!聞いて下……、ごふっ!!んんんんんんんん……、だあああああああああああああああああ!!!!!」


ノヴェトの足元が閃光に包まれ、爆風に飲まれた。

その場にいた者は、全員吹き飛ばされた。


ノヴェトも吹き飛ばされたが、ガッチリと片足を掴まれていた。

そのため、爆風の勢いが終わると、そのまま地表に叩きつけられた。


ゆっくりと地表から這い出してきたアヴァロワーズ。

どうやら、地中で大砲を撃ったようだ。

周囲の地表が粉々に砕けてしまっていた。


「……。」


無言のアヴァロワーズ。


片手でぶら下がるノヴェトを掴みつつ、残った手で身体のホコリを払う。

その間、何も喋らなかった。

その後も、彼女はひたすら淡々と、ホコリを払っている。


「……えっとぉ、アヴァロワーズさん?生きていらっしゃったのね。いやぁ、すごい!あのアスターの攻撃を食らっても生きているなんて!!すごいなぁ!」


ノヴェトは、ぶら下がりながらアヴァロワーズにニコリと話しかける。


「……と、見せかけて往生せえやああああああ!!ウラアアアア!!!」


ノヴェトはぶら下がったまま、アヴァロワーズの腹に渾身の打撃を加える。

……だが、それは全く効かない。


「……。」


冷たい表情で、じっとノヴェトを見つめるアヴァロワーズ。

無言の圧が強い。


「あは……、あははは……。」


ノヴェトは笑って誤魔化した。

だが……。


アヴァロワーズはノヴェトを地表に叩きつけた。


「ぐはあっ!?」


ノヴァとの身体が反動で戻ってくると、今度は別方向に叩きつける。

そして、それは連続して延々と行わ続ける。


「ごほぅっ!?……いや、悪かったっ……、べほぅっ!?……ちょ、……ぐふぅおっ!?……おがっ!?ちょ、ごめっがふっ!?……ああああああ、ぶへっ!!」


それはしばらく行われた。

そして、アヴァロワーズはノヴェトを吊るすように片足を持ち上げる。

さすがのノヴェトもグッタリとしている。

今のノヴェトは、まるで壊れた傘のようだった。


「こ、コイツなんなの……!?」


アキラは、すでに武器を構えている。

それはリンリンらも同様だった。


「『労働王アヴァロワーズ』ッス。新種族の魔神族で……、えっと要は……、ラスボスッス!!」

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