第29話 暗黒の大結界

魔on。


カゲチヨは、かすかに誰かの声を聞く。


「……ろ。」


だが、朧げな意識の中、それを正確に聞き取ることができない。


「ん、んー……、なんですー……、んー?……ボクは、まだ……。」


「……きろ。」


「んー……。」


そのまま、再び寝てしまいそうだった。

……だが、ものすごく寒い。


「……起きろっ!!」


急に飛び込んでくる大きな声と、激しい風の音。

思わず目を開けるカゲチヨ。


「……え?……ええ!?……なっ?え?……わぁ、すごいです……。」


カゲチヨは、空を飛んでいた。


どこまでも見通せる広い視界。

太陽は、山の向こう側へ沈みかけていた。

足元には雲が広がっており、その広い視界を邪魔するものは何もない。

空はどこまでもどこまでも続く。


だが、カゲチヨはおかしなことに気付く。

自分はなぜ、こんなところにいるのか。

なぜ空を飛んでいるのか。

……何も思い出せない。


「……これは夢?……ボクは、トリさんになったんです……?」


「……オイっ!やっと捕まえたぞ!!大丈夫かっ!?」


呼びかける声の主は、現実リアルの姿のノヴェトだった。

いつもの金髪が風になびいている。

カゲチヨは、ノヴェトの元にグッと引き寄せられ、ガッチリと抱き抱えられる。


「あれ……?ノヴェトさん?……ノヴェトさんもトリさんなんですね。」


「……鳥?何……、言ってんだ?」


「ノヴェトさん、あの空の向こうはどうなっているのでしょう?……さぁ、あそこまで一緒に飛んでいきましょう!」


「……え?あ、オイ!オマエ、頭打ったのか?飛んでいくっていうか……。俺たち今、落ちてる最中だぞ!?しっかりしろ!!身体戻っちまってるから、このまま落ちたら本当に死ぬぞ!?」


「……え?」


カゲチヨの頭は、急にクリアになった。

この凄まじく寒い風は、前から吹いているわけではない。

下から吹いている。


そう、落下しているのだ。


「う、うわっ!?ボ、ボク、落ちてます!!?」


「今ごろ気付いたのか……。」


しかも、さっきまで魔onにいたはずが、なぜか現実の姿に戻ってしまっている。

ゲームの中であれば、死んでも復活できるだろう。

だが、現実の姿である以上、この落下の結末は……。


……確実な死だ。


「あわわわわわわわわ!!」


急にバタバタと慌て始めるカゲチヨ。


「あ、オイ、暴れんな!……今、みんな集めてるから、エセ子が結界で何とかしてくれるってよ!!」


カゲチヨは周囲を見渡す。


カゲチヨと同様に、落下している大勢の人たちが見えた。

彼らも、おそらくは冥界にいた魔onプレイヤーたちだろう。

なぜこんな状況になったかは分からない。

だが、カゲチヨにも危機的状況だということは、すぐに理解できた。


「にぎゃああああああ!!」


リゼットの姿も確認できた。案の定、エルフ族の姿に戻っている。

白目を剥きながら、デスボイスみたいなダミ声を発している。


そして、カゲチヨの後ろにはエセ子がいた。


「全員助けられるかは分かりませんが……。これから、なるべく広範囲の結界を張ります!そこから下に、あえて低耐久の簡易結界を連続で張り続け……。」


「ああ!もうなんでもいい!この際、やり方は任せる!派手にやってくれ!!」


「……分かりました。みなさん!衝撃に備えて下さい!……連続で!!」


エセ子は、両手を陽に向けてかざす。

重なった両手で、自身の身体の上に手影絵のような影を作る。


「出よ!!影ちゃんズ!!最大級の、全方位結界の時間なんです!!!」


エセ子の胸にある影から、幾重もの黒い触手が伸びていく。


その触手が伸びきった先で、コピーのエセ子が出現する。

そして、そのコピーたちが、また同じように影を作る。

そうして、全方位に数十人という数に分裂したエセ子たち。

彼女たちは、同時に叫ぶ。


「「影ちゃんズ・大結界術!!暗黒あんこく漆黒しっこく真っ黒まっくろ腹黒はらぐろ大明神だいみょうじん!!」」


エセ子たちは再び自身の身体に、今度は違う影を作り出す。

彼女たちの身体は、次々と黒い影の闇に包まれ、物凄い勢いで闇は膨張する。

そして、それらの闇同士がどんどん連なり、更に膨張していく。


その闇に、次々と飲まれていくプレイヤーたち。

カゲチヨたちもその闇に飲まれ、リゼットの絶叫も闇の中に掻き消えた。


だがその時、ほんの一瞬。

闇に飲まれる直前に、カゲチヨはあるものに気付く。

眼下に広がる雲の中に、何か、とてつもなく大きいものの存在を。


そしてそこで、輝く何かを目にした。





魔on。同時刻。初心者が集まる街。


女神兵団の精鋭たちは、ランチ営業をしていた居酒屋で遅めの昼食をとった。


その後、隊長と側役の2人だけ居残ってミーティングをしていた。

長々と居座っていたが、客はまばらで店員からは何も言われなかった。


隊長は意気消沈していた。

目を瞑り、ため息を吐くように言う。


「魔宮が壊せない……。確定なのか?では我々は一体、何のために……。」


「実際に破壊しようとしたわけではないので、確証はありませんが……。プレイヤーたちの話では、ゲームの建造物は破壊不能オブジェクトというものだそうで。……容易に壊せるものではない、と。」


「どおりで、我々の勧誘も右から左へ……、だったわけだな。彼らの目からは、我々はさぞ滑稽に映ったであろうな。破壊できないものを破壊しようなどと……。魔王の野望を阻止どころか、それ以前の話ではないか。ああ、女神様になんと申し開きをすれば……。」


「考えたくはないですね……。」


「それというのも、情報を持ってきたハンゾウが悪いのだ。そもそもアイツはどこにいるのだ?我々が今もこうして、情報収集に奔走しているというのに。」


「おそらくは、ゲーム世界側の魔宮近くにいたのだと思いますが……。実は、そこにいた他の女神兵団の精鋭たちの報告もありまして。」


「なに!?それを早く言わんか!!……で、どうなったと?」


「それが……、我々と同じように転送されてしまったと……。」


「なんと……。」


「それで彼らは、再び森の廃都へ向かうと言っておったそうです。時間を無駄にしたと、随分憤っておったとか。彼らは、以前から魔onに潜入しておりましたので、すでにレベルもそれなりに高いですし。向かう分には、問題はないかと。」


「そ、そうか。我々のレベルでは、まだ戦力にもならんしな。それにしても、不思議なものだな。本当にここはゲームの中なのか……?」


女神兵団精鋭の隊長は、窓から外の様子を眺めて言う。

側役の男も外を見る。


「食事もできますし、私にはどこからどこまでがゲームなのやら……。それに、現実とゲームが融合したという一大事に、彼らのこの落ち着きよう。慌てることもなく、ゲームをプレイし続けるというのは……。」


「魔王領の人々の精神性というのは、理解し難いな。まぁとにかく。我々は、これからレベルを上げつつ、情報収集していくしかないか。」


そんな風に2人が会話していると、店の外から男が入ってくる。

それは、端正な顔立ちのエルフ族の男だった。

その男は、2人の元へ駆け寄ってくる。


彼は姿こそエルフであるが、女神兵団精鋭の1人だった。


「隊長!!レアドロップの情報を仕入れてきましたよ!!」


「な、貴様!!遊んでる暇はないのだぞ!!我々は一刻も早く魔宮へ急がなくては……、いや、でも壊せないのか……。」


「壊せなくとも、アップデートの場所ですし。レア装備があれば、きっと早く着けますよ!急がば回れです!!」


「そ、それもそうだな。よし、ではさっそくレア装備を狙うぞ!!」


彼らは彼らで、それなりにゲームを楽しんでしまっていた。


だが、その時、店の外が激しい閃光に包まれていく。





それから少し後の、現実リアルの魔王城ビル。


「魔王様ー?どちらにいらっしゃいますー?あ、っと、ジーナ。そっちもダメ?」


「うん、いないね。困ったなぁ。こんな大変な時に、どこに隠れたのやら。ジルダ、あっちは見た?」


「見た。あーもう、どうしよう……。」


魔族女性ジルダとジーナは、行方をくらました魔王を探していた。

城内をだいぶ探索したのだが、それらしい場所にはいなかった。


2人が途方に暮れていると、メイドの魔法人形オートマトンに呼び止められる。

彼女は魔王の居場所を知っているようだ。

そのまま、2人はメイドについていく。


そして、女魔王を発見。

そこは食糧庫となっている場所で、普段は人が入らない。


「……いた。魔王様?」


女魔王は、その奥でダンボールの影に隠れ潜んでいた。

だが、不意に声をかけられた女魔王は、つい返事をしてしまう。


「ひっ!?……拙者はいないでござるよー。」


「……子供じゃないんですから、出てきてください。」


「さぁ何を言ってるか分からないでござるなー。なにせ拙者はいないのでー。」


「そんなことより、大変なんです。魔王様。」


「いないいない。拙者はいない……。」


「……街が壊滅しております。」


「拙者はいな、…………は?」


「融合した地域の半分が、すでに消失して……。」


「え?……ゲームの話、……でござる?」


「どっちもです。現実とゲームを融合してしまいましたよね?」


「壊滅というのは、人の話でござるか……?そんなモンスターを実装した記憶は……。」


「いえ、建物の話です。建物が破壊され、街は消滅していっているのです。」


「いやだって……。建造物はすべて、破壊不能オブジェクトでござるよ?言うなれば、ひとつひとつが小規模の結界に守られているでござるよ。そんなの壊すなんて、魔王の拙者にだって無理でござるから……。」


「いえ、実際に被害が出ているので……。実際にご覧になられては……。ほら、そんなところ、早く出てください。」


奥から引きずり出される女魔王。


「……うう。なんだか、すごく嫌な予感がするでござる……。」





再び魔on。カゲチヨは目を覚ます。


「ん……、んー……。ボクは……、生きてる……、のです?」


気絶していたのだろうか。

若干頭がボーッとする。


そこに女性の声が聞こえてきた。


「気がつきましたか。……心配しましたよ。」


それはロミタンこと、エセ子であった。


「……あ、え?エセ子さん!?」


「あなたもですか。私は『エセ子』なんて名前ではないのです。ロミタン……、いえ、愛を込めて『ロミタンたん』と呼んで下さい。」


「あ、はい。ロミタンタンさん……。」


「あ、いえ。『さん』は要らないのです……。」


「あ、はい。ロミさん。」


「……いえ、『タン』の方でなく『さん』……、いえもうイイです……。」


そこは森の中。

妙に暖かいのは気になったが、カゲチヨには普通の森に見えた。


「起きられますか?」


「……はい、たぶん。」


そこで、カゲチヨは気付く。

……ロミタンに膝枕されていることに。


彼女はおそらく相当な年上のはずだが、見た目は幼女。

自分よりも年下にさえ見える。

そんな小さな彼女の、小さな膝の上で寝ていたのだ。

……さすがにカゲチヨも戸惑う。


ゆっくりと頭を上げるカゲチヨ。

ちょっと顔が紅い。


「……あの、ボクはどれくらい、……気を失っていたのでしょうか?ロミさんは、ずっと診ていてくれたのですか?」


「いえ、数分程度ですよ。……どうでしたか、私の膝枕の寝心地は?」


「へあ!?……あ、えっと……、その……。」


「正直に言ってくれていいのですよ?なんなら、もう少し寝ていても……。」


「硬かったです……。」


頭がボーっとしていたカゲチヨは、本当に正直に言ってしまった。


「硬……っ!?」


ロミタンにとって予想外の返答だったようで、妙な表情で固まってしまう。


「あ!!いえ!!……えっとー、ちょ、丁度良かったです!!ボ、ボクは固めが好きだなー……、って。」


「硬…………。」


何かを確かめるように呟くロミタン。

その様子に、カゲチヨは慌ててフォローする。

だが、あまりフォローになっていない。


「そう……。」


そこはかとなく哀愁の漂う表情で、ロミタンは明後日の方を見ている。


「……ああ、えっとー……。ああ、そうだ!!あれからどうなったのです!?みんなは!?ノヴェトさんやアキラは!?」


「え?……ああ。私の影ちゃんズが付いているはずなので、おそらくは大丈夫だと思いますが……。ここはどうも妙な気配がします。残念ながら、影ちゃんズと思考が共有できませんので……。」


「そ、そうですか。……って、あれ?姿が戻ってる?」


カゲチヨは、再びゲーム世界の犬少年の姿に戻っていた。

じっくりと自身の身体を確認する。


その様子を見て、ロミタンはニッコリ笑う。


「特にお怪我も無いようで、良かったです。」


「そうですね。……あ!ああ、そうだ!!あれは……、なんだったのでしょうか。落ちていた時、下から何か……、光線のようなものが……。」


「おそらく破壊神様の……、でしょうね。私の結界にヒビを入れることができるのは、破壊神様の破壊光線くらいなものなので。おかげで、せっかくの大結界術も破壊されました。……と言いますか、そもそもあなたたちが冥界を荒らさなければ、こんなことにならなかったのに……。」


「す、すみません……。」


「あ、いえ。あなた個人が悪いわけではないですね。……すみません、あの状況を作り出した、張本人にこそ言うべき言葉でした。」


「いえ。ゆっくり温泉に入ってたのに、うるさかったら、おばあちゃんも怒りますよね……。」


カゲチヨはしょんぼりした表情をしている。

慌てるロミタン。


「ま、まぁ、とりあえずは無事で良かったですよね。……お互い。ただ、破壊神様がお怒りになったことで、生者は全員、冥界から弾き出されてしまったようです。冥界を包んでいた多重結界も、すべて破壊されてしまいました。」


「弾き……?それで空の上にいたのですか……?」


「おそらく、冥界の空間座標のせいでしょうね。……とまぁ、まずは他の人達を探しましょう。無事だと良いのですが。」


「はい!……それにしても、ここはどこなんでしょうか?」


「さぁ……?ただおそらく『刻忘れの森』のどこかではないかと……。上空から確認できた地形と、この辺りの樹木からの推測ですが。もしそうなら、この妙な気配も理解できます。」


「……妙な?」


「ええ。『時間を忘れる』という意味で『刻忘れの森』と、今では言われています。……が、以前は『解くことを忘れる』という意味の『解き忘れの森』と呼ばれていました。ここはかつて、結界と共に封じられた異界の口があったのです。」


「はぁ……。」


突然語り出したロミタン。

カゲチヨはよく分からない。


「元来、森や海というのは異界と繋がりやすい場所なんです。人が寄り付きませんから。難しいことは省きますが、更にここは、ちょっとした世界の特異点でもあるのです。そのためか、太古の結界が数多く残っています。冥界の出入り口も、元はこの辺に繋がっていたのですよ。」


「え?……商店街の方にもありましたけど、いっぱいあるんです……?」


「ああ、いや。元はこちらだけです。でも、ここは人里離れているので不便でしょう?ですから一度、冥界に張られている結界を全部ぶっ壊して、私が貼り直したんです。だって、商店街に行くのに、わざわざ森を経由してくなんて馬鹿馬鹿しいじゃないですか。」


「……そんなことをして、大丈夫なものなのでしょうか……?」


「大丈夫だと思いますよ?数年前に今の状態にしたのですが、特に問題はなかったですよ?あと、これは内緒ですが、出入り口はいっぱい作ったので、冥界から色んなところに行けるんですよ。なかなか便利ですよー?」


「は、はぁ……。」


「あと空間座標もいじりましたねー。異世界って結構ズレるんですけど、固定にしちゃいました。いやー、あれはなかなかの大仕事だったなぁ。」


楽しげに語るロミタン。


死者の世界の出入り口が、そんなにあちこちにあって良いものだろうか。

……と、カゲチヨは考えたが、とりあえずは聞き流した。





再び、現実リアルの魔王城ビル。


魔王は、とある部屋に入る。


その部屋の扉には、『世界管理・監視調整部』と書かれていた。

部屋には数人の魔法人形オートマトンたちがおり、モニターを見つめている。


その部屋の中央には、コジロウが険しい顔で立っていた。


「ああ……、魔王様。」


「……で、状況はどうなっているんでござる?」


女魔王は、コジロウの目の前にある、大きな水晶球を見つめる。

コジロウは水晶球の脇で、何やら指を動かす。


「魔王様、これをご覧ください。」


「……ん?どれ?」


女魔王は水晶球を覗き込むが、特に変化はない。

多少曇ったような気はするが……。


「え?……ああ、それです。」


コジロウが指を差した先には、魔法パソコンのモニターが。

そこに、なにか映像が映り込んでいる。


「……こっち?その水晶は?」


「今、モニターに映っているのは、数時間ほど前の、町の映像です。」


「……水晶……。」


女魔王は、なんだか寂しそうな顔をしている。

だが、コジロウはそのまま話を続ける。


「これが『刻忘れの森の廃都』と……、そしてこれが、最初にプレイヤーが訪れる町『風の民の都』。」


「うん、見たことあるでござるが……。これってたしか、ライブで観られる固定カメラのやつでござるよね?録画でござるか?」


「はい、そうです。……そして、これが今の映像です。」


そこには、全く違うものが映されていた。


「何もないでござるな。……ん?隅っこに見えるのは建物……?なんで半分?これ、どこの映像でござる?」


「『今』の映像です。……場所は同じで。」


「……。」


女魔王は理解できなかった。


「どういう意味でござる?」


「え!?……そのままの意味ですが……。」


コジロウの言葉に、女魔王は深く考え込む。


「街が消えちゃった、……ってこと?」


「はい……。」


「でもでも、破壊不能オブジェクトでござるよ?……なんで?バグかなにかでござるか?これはえらいことでござるよ?」


「いえ、どうやら破壊神が……、復活したそうで……。」


「破壊……、神……?」


「実は、先ほどロザリーから連絡がありまして……。ただ、通信障害ですぐに通話は切れてしまいまして、詳細は不明なのですが……、ひとこと。『破壊神様が復活された』と……。」


「ロザリーちゃんはたしか、カゲチヨくんと一緒に魔onをしてたでござるよね。シヴァデュナートのことでござるか……?」


「それについては何も。相当数の固定カメラが現在、使用不能な状態で……。ですが、使い魔ドロロンを飛ばしておりますので、すぐに何かしらの映像は届くのではないかと……。」


「おお!ドロロンって、ライブ映像を飛ばすハイテクなやつでござるな!……もう実用化されていたでござるか。」


「はい。」


ここで、何かの発信音が鳴った。


「……と話しているうちに、ドロロンが何やら探知したようです。映像を出しますので、ご覧ください。……どうぞ。」


「……ん?どれ?」


だが、モニターの映像は、町の様子から何ひとつ変わらない。


「え?……あ、これです。」


水晶を指し示すコジロウ。


「あ、これは水晶なんだ……。」


ちょっと嬉しそうな女魔王。

だが、水晶の映像は、球形に沿って丸みがかかっており、よく分からない。


「……み、見辛いでござるな……。」


「では、そちらのモニターに。」


「……その水晶、要らなくない?」


モニターの映像が切り替わる。


上空からの映像だった。

なにか巨大なものがゆっくりと動いているのが分かる。


「なんでござる……?」


「なんでしょう……?もう少し近付いてみましょうか。」


コジロウが何やら操作すると、映像はその物体に近付いていく。


「……ん?人……、でしょうか。巨大な……。」


「……なっ!?」


女魔王は絶句。

そのまま固まる。


「お年寄り……?老婆……、のようですね。いや……、いやいや、おかしい。おかしいですよこれ。映像なので大きさは分かりにくいですが……。この老婆、魔王城ビルよりデカくないです?何十メートルってレベルですよ……?」


その巨大な老婆はゆっくりと歩いている。

周りに樹木が生えているが、雑草のように足元に生えているのだ。

おかげで、サイズ感がおかしい。

巨大ロボの特撮映画のような状況だ。


「な、なんでしょう……。というか、誰ですか……、この方?もしやこれが破壊神……?でも、シヴァデュナート……、ではないですよね……?」


女魔王は、なんだかだらしない声を出し始める。


「ああ……、ああ……。」


「魔王様?」


「お、おば、おば……。」


「おば?」


「お、おばあちゃん!!?」


女魔王は、あらん限りの声で叫んだ。

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