第22話 鼓舞する猫巫女
魔onの中。
ノヴェト達はパーティプレイ中だ。
メンバーは──────
・猫娘ノヴェト『
・犬少年カゲチヨ『
・犬少女アキラ『
・兎娘ロザリー『侍』。
・猫娘リゼット『巫女』。
──────計五人。
そして、そこに猫幼女リンリン『
こうして六人のフルパーティで、戦闘を繰り返していた。
「うげぇ!!……あっ!うぼぁ!!……ごふっ!!」
猫幼女リンリンが、敵の攻撃を次々と大きな盾でガードする。
彼女は
盾役の仕事は、敵の攻撃を一身に引きつけること。
だが、すこぶる顔色が悪い。
「よし!アキラ、チャンスだ!いっけぇ!!」
「ヤァ!!死にさらせぇ!!」
アキラの両手剣が、モンスターを一閃。
……撃破。
「よーし、戦闘終わり!……いいねぇ!イイカンジ!」
「ハァハァ……。あ、あのぉ……、ノヴェトさん……?」
「おお、リンリンおつかれ!いいよ、いいよぉ!……やっぱ専業タンクがいると、パーティ安定するわぁ。すげー助かるぅ〜!乙ッス乙ッスぅ〜!」
両手でリンリンを指をさし、謎の腹立つポーズをするノヴェト。
妙にテンションが高く、軽薄そうな言い回しが妙に鼻につく。
「それなんッスけど……。あのぅ、いい加減、蘇生してもらえると嬉しいかなーって……。」
リンリンは、死人のような青ざめた顔をしている。
「それは、マジすまん……。蘇生できる人いないんよ……。でもまぁ、
「いや、たしかに経験値は入るんッスけど……。死んでると身体は動かしにくいから、サンドバック状態ですし……。しかも、毎回モンスターの血肉摂取しないと、回復できないんで……。おかげで、毎度こんな感じなんッスけど……?」
全身血塗れのリンリン。
なかなかエグい見た目だ。
実はこの血、ただのエフェクトで、時間経過で勝手に消えるものだ。
だが、戦闘終了時、毎回血を
ずっと
「うーん、カゲチヨの回復も、屍鬼状態だとダメージになるしなぁ。」
リンリンのクラスは『
大きな盾と戦鎚を扱うクラス。
高い物理ステータスでパーティメンバーを守る盾となる。
ただし、魔法は扱えない。
その代わり、ダメージを攻撃力に変えたり、体力を
かなり特殊な技能を備えている。
──────まさに専業タンク。
そして、ノヴェトの
死んだ仲間を屍鬼として使役する。
屍鬼になると、スピードと知能のステータスは大幅に低下する。
だが、それ以外のステータスは上昇する。
また、回復魔法でダメージを食らうが、モンスターの生の血肉で回復できる。
──────本来なら、一時凌ぎ用スキルなのだが……。
盾役として呼ばれた猫幼女リンリン。
彼女は、懸命に盾役を務めた。
だが、自由奔放なアキラに振り回され、割と早い段階で死亡。
だが、蘇生役がいない為に、死霊使いの屍鬼化を使うことになってしまう。
しかも、屍鬼にはデスペナルティがない。
そのため、以降リンリンはサンドバックとして有効利用される羽目に。
そんなグッタリのリンリンとは対照的に、ひたすらテンションの高い者もいた。
「にゃんにゃん!ネコミコにゃんにゃんが、
猫娘リゼットの攻撃力・速度アップの良効果が、パーティ全員に降り注ぐ。
猫娘リゼットのクラスは『巫女』──────
巫女は、オールラウンダーな
神降しで神霊をその身に宿し、祈祷によって回復や
どのような神霊を降ろすかによって、様々な効果が得られる。
──────味方の能力を底上げするバフ職だ。
ちなみに彼女は、祈祷のたびに歌って踊る。
システム上は無意味な行為だが、こういうRPもゲームとしての楽しみ方だろう。
「お、さんきゅー。」
兎娘ロザリーが応える。
彼女のクラスは『侍』──────
侍は
状況によっては、
複数の
現在、ロザリーは居合いスタイルを使っている。
──────攻撃力の高いタンク兼アタッカー。
「さぁ、もうちょいレベル上げて、次の街へ行くぜ!」
「はい!」
元気よく応えるカゲチヨ。
カゲチヨのテンションは高い。
やっと戦い方も様になってきて、ゲームが面白くなってきたところだった。
パーティプレイは、一人用のゲームとは違う面白さがある。
それを少しずつだが、カゲチヨは理解し始めていた。
役割分担をしているので、カゲチヨがやることといえば回復ぐらい。
単純に考えれば、回復しかできないゲームは面白くはない。
ただ、各役割がきっちり機能した時、説明できない爽快感があった。
アキラが敵を倒すと「よし!!」とガッツポーズをしてしまったり。
カゲチヨも、すっかりこのゲームにハマりつつあった。
「どうだ?カゲチヨ。楽しんでるか?」
「はい!面白いです!!」
「私も面白いわよ!!」
ニコニコのカゲチヨとアキラ。
彼らの犬の尻尾は、相変わらず、在らん限りに荒ぶっている。
よっぽど楽しいのだろう。
ノヴェトは、満足そうにそれを眺めていた。
*
「あのーノヴェトさん?」
「ん?」
リンリンがノヴェトに問いかける。
今は、戦闘間の小休止時間だ。
「次の目的地って、たしか『刻忘れの森の廃都』ッスよね?あそこって、大きいだけで大したものないんじゃ……?逆側の『砂の民の都』の方が、キャラバンもあるし、良い装備あるッスよね?」
「あー、装備は……、確かにそうだな。まぁでも今から装備新調すんのは、ちっと勿体無いかな。……もうアップデートあるだろ?まぁ、ちょっと賭けにはなるけどな。その辺の情報って、まだ確定じゃないし。」
「……ああ!それで!」
「そうそう。刻忘れの森は、大規模アップデートで新エリアと繋がるはずだからさ。廃都のあの無駄な空間にも、絶対なんか入るだろ。リーク通りなら、今の俺らのレベル帯でも、十分いけると思うぜ?」
「あのリーク、マジモンなんッスかね?低レベル帯も網羅するってことは、新エリアって結構広いッスよね、たぶん。」
「まぁ廃都周りは、もうちょいレベル上げれば、適正エリアだし。廃都を拠点にして、もうちょい稼いで……。そんでアップデートよ!新装備は、新エリアで調達しようぜ。」
「そういえば、ノヴェトさんはアップデートの時、いつものダークエルフ使わないんッスか?」
「うーん、たしかに強い装備は興味あるけどなぁ。でもまぁ、みんなでワイワイやんのも面白いだろ。だって、アップデートはお祭りだぜ?楽しまんとな!」
「そうッスね!」
ノヴェト達は、魔onの大規模アップデートに向け、期待を膨らませる。
ニートだらけの魔王領では、一大イベントである。
少し前から、至る所に広告が設置されていた。
大規模アップデートのテーマ曲も公開済み。
いやが上にも期待は膨らんでしまう。
「でも、魔onって不思議ッスよね。地形データって、ほぼ
猫娘リンリンの問いに、兎娘ロザリーが応える。
「ああ、
「へぇ、そうなんッスね。」
「けど今、魔王様が森になんか作ってますね。詳細は知りませんが……。」
ノヴェトはロザリーの話から、妄想を膨らます。
「え?
「現実との、連動イベントとかッスかね?」
「思いつくのは、それくらいだな。アップデートに合わせて何かやるんで、それを秘密にしてるってことかな。うわあ、なんだろ。すげー気になる。」
「でも、イベントで使うなら、今作ってるって遅くないッスか?」
「……たしかに。アップデート後にやるんじゃないかな。たとえば、連動テーマパークとか?うわぁ、わかんねぇ。ロザリーちゃんは何も知らんの?」
「実は今、森には結界が張られていまして……。何も知らないんです。」
「結界……?えらい念の入れようだな……。うーん、大丈夫かなー。まっちゃん、真面目で勤勉だし、普段は善良なんだけども。ただちょっと近視眼的なのよね。ブレーキ役がいないと、どこまでも突っ走っちゃうから。」
「それでしたら、コジロウ様とロレッタは参加してるみたいなので、大丈夫だと思いますが……。」
「コジロウか……。」
ノヴェトは、女神神殿の時のコジロウを思い出す。
「不安しかねぇな……。」
*
ノヴェトら一行は、予定通りに『刻忘れの森の廃都』へと到達。
廃都といっても、NPCの村人はおり、小さな集落としては機能している。
だが、NPCの数に対して、エリアはかなり広い。
以前は、それなりに大きな都だったことが窺える。
宿屋、道具屋など、一通り必要な施設は揃っていた。
石造りの遺跡をそのまま使用した村は、日中もひんやりとして居心地は良い。
苔だらけで、樹木も多い。
避暑地にはもってこいだろう。
だが廃都には、不自然にだだ広く、何もない広場があった。
いかにもアップデートで、何か追加されそうに思えた。
そして、アップデートに向け、この場所で陣取るプレイヤーは他にも大勢いた。
いつもなら大してプレイヤーのいない寂れた町だが、妙に混雑していた。
カゲチヨとアキラは、見たこともない数のプレイヤーに圧倒された。
人疲れしてしまったカゲチヨを一旦休ませた後、一行は森へと出かける。
そして、森で新たに戦闘を始めた。
猫巫女リゼットが元気に祈祷をする。
パーティメンバーに
「ネコは!ネコは!クリクリお目々でにゃんにゃんにゃん!!ちょびちょびおヒゲでにゃんにゃんにゃん!!そうだ、いっくぞー!にゃんのにゃん!フリフリ尻尾でにゃんにゃんにゃん!!お耳はヒクヒクにゃんにゃんにゃん!!そうだ、いつも元気でかけっこにゃん!!にゃん!にゃん!にゃーーーーっ!!にゃん!?」
実は、リゼットは戦闘中もずっとそんな調子だった。
歌って踊る。
祈祷によってステータスは強化されるが、男性陣の集中力はダダ下がりだった。
「一体なんの歌なんだよ。色んな意味で、全然集中できねぇ……。そんなにフリフリされたらもう……。」
猫巫女リゼットは、祈祷のたびに、このように妙な歌を歌いながら踊る。
頭を振り、体を上下させ、お尻をフリフリさせる。
巫女っぽい格好で露出は低いとはいえ、グラマラスな猫娘は色々揺れてしまう。
ノヴェトらは、もう色々気になってしょうがない。
しかも、祈祷以外でも落ち着きなく、何かしらずっと踊っている。
「なにかの替え歌らしいのですが……、原曲は私も知らないので……。」
兎娘ロザリーはいつものことなので、淡々と戦闘をこなす。
だが、ノヴェトとリンリンはもう、集中力グダグダでミスを連発していた。
そして、アキラ。そんなノヴェトらを一喝。
「アンタ達、真面目にやんなさいよ!……クッ!コイツ、強いんだけど!?」
だが、ミスが増えているのはアキラも同様だった。
無意識に、曲のリズムに同調してしまっているのだ。
そしてまた、アキラは歌と同じタイミングで攻撃を始めてしまった。
「にゃん!」
「ヤァ!」
「にゃん!」
「トゥ!」
「にゃーーーー!」
「タァーーーー!」
「にゃん!?」
「にゃ!?……ぐはっ!!」
またもや敵の前で立ち止まり、ダメージを喰らうアキラ。
レベル的には強い敵でもないのだが、今のアキラには強敵だった。
なぜなら、リズムを狂わす本当の敵がパーティにいるからだ。
「アキラ、回復です!!」
カゲチヨの回復魔法。
「ありがとう、カゲチヨ!おねーちゃん頑張る!!」
だが、不用意な回復で、敵の的になるカゲチヨ。
「はわわわわ!?こ、こっちに来ちゃいます!!」
「くっ!?……このぉ!!往生せいやぁ!!」
カゲチヨを庇うアキラ。
ダメージを食らいながらも、反撃する。
呆れ顔の兎娘ロザリー。
笑うノヴェト。
「もうグダグダですね……。」
「まぁ楽しいからいいんじゃない?」
だが、さすがにアキラも不調の原因に気付く。
「ア、アンタ!!いい加減、その歌もうやめなさいよ!」
「にゃ、にゃんにゃん!?にゃんとぉ!?……んーー、にゃーーにゃ、にゃーーーあああ!にゃにゃ……。なならにゃ、にゃー!!!」
猫娘リゼットの祈祷は、何事もなかったように新しいリズムへと変更された。
「なんでこの流れで、新曲が出てくんのよ……。そっちがその気なら、こっちだって!!……ワン、わわん!!わーーーん!!わ、わー!わ、わー!」
対抗して、アキラも歌って踊り出す。
しかもリズムもクソもない、ひどい歌だ。
「オ、オイ!!それはやめろ!!本当に戦いにくい!!」
さすがに、これにはノヴェトも危機感を感じ始める。
そして、ヤケクソのリンリンも、ダメージを食らいながらそれに同調する。
「ぐふっ!?……にゃんスーーーー、にゃんスーーーー!おべぇ!?……にゃんスーーーー!」
「あははははは!わんわん!わぉーーーーん!あはははは!!」
最初は戸惑っていたカゲチヨも、つられて楽しそうに歌い出す。
アキラのヘタクソな歌は、何かの替え歌だったようだ。
アキラの歌に、カゲチヨも同調して歌う。
「「わーーーん!わ、わーー!わ、わーー!」」
「無駄にハモってんじゃねぇ!あああ!もうどうにでもなれ!!……にゃ、にゃにゃにゃーーーー!!」
そして、ノヴェトも歌い始める。
攻撃フォームも、勝手にミュージカル調にアレンジし出す。
凄まじく無駄な決めモーションが追加され、普通に攻撃を食いまくる。
「なにこれ……。」
ドン引きの兎娘ロザリー。
もはやグッダグダの戦線。
収拾がつかない。
……そして、パーティは全滅した。
*
ところ変わって、女神神殿。
女神アシュノメーの元には、諜報活動から戻ったハンゾウがいた。
しかし、ハンゾウの報告を聞いた女神は、頭を抱えて怒りを露わにする。
「ハァ!?何を言ってるのよ!?……そんな話、聞いたことがないわ。前代未聞よ。アナタ、自分で何を言ってるのか、理解しているの?もう本当にどうしてこう、次から次へと問題が……。」
女神の苦悩は無理もなかった。
つい先日も、例のパンドラの箱の騒ぎがあった。
そして、また面倒な話が舞い込んできた。
「はい……。ですが、この耳で確かにそう聞きました。そして、この計画書。これは、魔王のオフィスから拝借したもの。あと、こちらが魔宮の写真と……。」
ハンゾウは、それらを女神へと渡した。
ちなみに、ハンゾウは例の神殿のいざこざ以降、ござる口調をやめていた。
彼の中で何があったのかは誰も知らない。
たぶん、誰も興味ないので省略。
女神は、それらに一通り目を通し、ため息をつく。
「……これ、ゲームの話じゃないの?そういう設定で……。だって、考えてもみなさいよ。もしも、こんなことが実現すれば、この世は終わりよ?あの魔王が……、あの日和見の偽善者が、そんな思い切ったことするかしら。」
「そうだと良いのですが……。その写真の通り、現実の世界には、既に魔宮が建造されているのも事実。女神様の見解は……、これは実現不可能だと……?そうであれば……。」
「試したことはないわ。でも、理論上は可能よ。次元の壁に干渉する力。それに一番近いものが、既にここにはあるでしょ?それが証拠よ。……でも、この時代で、そんなものが作れるとは到底思えないのよね。私にも無理だわ。」
「近いもの……?ま、まさか、勇者召喚!?そうか。いえ、しかし女神様にも無理というのは……。この神殿の機能は、女神様がお造りになったものでは?」
「違うわよ。私にあんな工作ができると思っているの!?勿論、原理は理解できるわよ?魔法の構造を解析していけば、自然と世界の構造にも辿り着くから。でもね、それを形にするのは容易なことではないわ。少なくとも、この神殿は今の時代で作れるような代物ではないのよ。完全なオーバーテクノロジーなのよ。」
「それを魔王が作っている……、ということでしょうか……?」
「この魔宮の構造は分からないから、断定はできないけど……。もしかしたら、あのクソ勇者の持ってきた知識が、時代を一足飛びに早めてしまったのかもしれないわね。ただおそらくは、限定的なものでしょうね。全世界へ影響を及ぼすには、おそらく足りない。でも、所詮憶測でしかないわ。もしかしたら……。」
「これが限定的であったとしても、実現するなら……?もし、この計画が完成してしまえば、世界の構造が変わってしまいます。早急に何か手を……。」
「魔王め……。あのトウヘンボク、無害そうな顔して、とんだ食わせ者だわ。とにかく、これは実現可能なものとして、動いた方がいいわね。全く、裏でこんなことを画策していたなんて。というか、アンタも潜入したなら、どうして破壊してこないのよ。」
「そ、それは……、結界があって……、ですね。管理人もいるんです。囮にした記者が捕らえられてしまいました。アレはたしか、死神の……。見つかれば私もただでは帰れません。まずは情報を持ち帰ることが……。」
「言い訳はいいのよ。どちらにしろ、この件、放置はできないわ。」
「計画書に書かれている時期を考えると……。刻忘れの森に建造されている魔宮は、おそらくもう完成しているものと考えた方がよいかと。おそらくXデーは、魔王onlineの大規模アップデート当日。そこで、魔王の本当の目的が……。」
「……って、もうあと数日じゃないのよ!いますぐ、魔王領を攻め落としでもしないと、全然間に合わないじゃない!?」
「それには、考えがございます。アップデート当日、混乱に乗じて……。」
女神はしばらく目を伏せ、考える。
だが、すぐ答えを出した。
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