第54話

 俺は防壁の上に立つ。

 日は真上に上り、明るく照らす。


 出来る限りの準備はしてきた。

 このマイルド王国の国力は高くない。


 人口だけで見ると、6将を率いるアイアンレッド帝国の10分の1しかない。

 それでも、俺達が助けて回った街や村から志願兵が集まり、ゼスじいの訓練を受けた。

 この世界の人間は、一部盗賊などの悪い事をする者もいるが基本素直で人間味がある。

 助けられた分は恩返ししようとする善良な者達だ。


「剛腕のブルベア率いる軍がやってきました!」


「ついに来たか」


 軍を指揮するゼスじいが号令を出す。


 俺の近くにいるアリシア・エステル・クレア・エムルが前を見つめた。


 剛腕のブルベアは走って防壁の近くで止まった。


「やっと会えたなりー!エステルタンんんんんんんんんん!僕が貰ってあげるなりよおおおおおおおお!!」


「ひい!」


 エステルが俺の後ろに隠れた。


「恥ずかしがらなくてもいいなりよおおおおおおお!」


 エムルが叫ぶ。


「ブルベア!すぐに帰って欲しいんだ!」

「エムル!負けて寝返ったなりね!!敗者の言う事は聞かないなりよ!!!」


「やっぱり駄目だったね」

「く!説得は無理か」


 駄目だとは思ったが、一応説得はした。

 引き下がるとは思っていないけどな。


 後ろから速足でブルベアの軍が歩いてくる。


「お前らああ!早くするなりよ!!!最終通告なりよ!エステルタンをもし殺したら僕が殺すなりよおおおお!」


「ブルベア様!待ってください!急に先行されては陣形が乱れてしまします!!」

「副長!!指揮は任せるなりいいい!僕はエステルタンを持ち帰るなりよおおおおお!」

「お!お待ちください!ブルベア様!」


 ブルベアが走って前に出る。

 敵軍の副長は慌てて攻撃の号令を出す。


 マイルド王国の兵数1731名


 対してアイアンレッド帝国の兵数は約6000


 ブルベアが走って迫ってきたことで戦いは始まった。


 ブルベアは砂煙を上げながら防壁に迫ってきた。

 ただ真っすぐ、エステルのいるこの場所を目指して走る。


「弓を打つんじゃ!」


 ブルベアに矢の雨が迫るが、ブルベアが拳を突き出すと、前方に突風が巻き起こり矢の吹き飛ばす。


 ブルベアは防壁の壁を蹴りながら10メートルもある壁を登って来る。

 ブルベアが壁を蹴る度に防壁が揺れ、ブルベアが蹴った壁がめり込む。


 ブルベアに矢が当たっても細かい傷がつくだけで効果的なダメージは与えられないようだ。

 

 俺はメイスで狙いを定める。


「ハイファイア!」


 ブルベアに直撃するが、勢いが止まらない!


 ブルベアはあっという間に防壁の上に着地した。


「やっと近くにエステルタンがいるなりよおおおおお!エステルタンの香りがするなりいいいい!!」


「うああああああ!」


 近くにいる兵士が槍を突き出して突撃するが、ブルベアが拳を突き出すと、衝撃波で兵士が吹き飛ばされた。

 ゼスじいは兵士を指揮して迫り来る軍と戦い余裕が無くなる。


 兵ではブルベアを倒せないしゼスじいは迫り来る帝国軍に対処する必要がある。


 俺達は、剛腕のブルベアと向き合う。

 俺がブルベアを睨みつけると、ブルベアがおれを見る。


「お前なんなりか?何で男のお前がエステルタンの近くにいるなりか!?邪魔なりよおおおお!エステルタンに近づいていいのは僕だけなりよおお!!」


「エステル!ここにいるとみんなが地面に落とされる可能性がある!」


 俺はエステルをお姫様抱っこして防壁の内部に降りた。


「エステルタンから離れるなりよおおおお!!」


 ブルベアは俺を追ってくる。


 エムルのスケルトンを殴り壊しながら追いかけてくる。

 エムルのいる防壁に帝国兵がはしごをかけてきた。

 エムルの余裕もなくなる。



 クレアとアリシアがサイドから挟み撃ちをするようにブルベアに斬りつけるが、ブルベアは2人を拳の衝撃波で牽制しつつエステルを抱えた俺を追った。


下に降りてエステルを下ろすと、ブルベアはエステルではなく俺を睨む。


「お前!調子に乗りすぎなり!!」


 俺にターゲットが移った。

 その方がいい。

 だが、まだ足りない。


「調子に乗っているってのは俺とエステルが結婚する話か?」


 ブルベアの額に青筋が浮かんだ。


「お前を殺してエステルタンを救い出すなりいいいいい!!!」

「それは俺とエステルの結婚の話か?それとも俺がエステルを抱いた件を言っているのか?」

「何って言った!?」


 ブルベアの口調が変わった。

 そうか、効果ありか。

 俺を狙え!ブルベア!

 エステルから目を背けろ!


 俺はさりげなくエステルと距離を取りつつ挑発を続けた。

 こいつの口調、間違いない、転生者だ。

 

 良かった、エステルとだけはそういう関係になっていてよかった。

 お前はずっと俺だけを見ろ!

 エステルの元には行かせない!


「俺がエステルと寝た件を言っているのか!?エステルはもう処女じゃない!俺が貰ったんだ!」

「おおおい!!ごらあああああああ!エステルタンに何してんだよおおおお!嘘つくなよおおおお!」


「エステル!俺と寝たよな!?」

「は、はい!ゲットに抱いてもらいましたわ!」


「……ふー!ふー!ぐろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 ブルベアが真っすぐ俺に走りつつ、拳を繰り出し、拳の衝撃波を俺に叩きつける。


 俺は円盾を構えて何とかステップを踏むが、ブルベアが近づくたびに避けにくくなり、円盾で攻撃を受ける。


 更にブルベアが距離を詰めてパンチを繰り出した。

 俺の盾が少しへこみ、地面がめり込み、空気が振動を放つ。


「ぐらあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ブルベアは両足を止めて、両手で何度も拳を繰り出した。


 何度も盾で防ぎメイスで攻撃しようとしても拳ではじかれる。

 ブルベアの立つ地面がめり込んでいく。


『盾のLVが73から74に上がりました』


『盾のLVが74から75に上がりました』


『メイスのLVが74から75に上がりました』


『盾のLVが75から76に上がりました』


『盾のLVが76から77に上がりました』


 ドンドンLVが上がっている。

 俺は、追い詰められている。


「ぐうう!くそ!」

「おぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ブルベアは盾の上から構わず攻撃を繰り出す。

 まるで俺を殴り、盾で押しつぶそうとするように拳を乱打していく。


 こいつ!

 ゲームより強くなっている!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る