第41話
【ダスト視点】
俺は王都から追い出された。
俺は傷をヒールで治療し、深呼吸をする。
傷の治療すらしないだと!
俺は勇者だぞ!
王は頭がおかしい!
王は狂っている!
王は所詮ゲット程度に騙される低能か。
「てめーら!門に入れろ!お前らは騙されてんだよお!ゲットがお前らを騙してんだよ!!」
防壁の上から兵士が弓を構える。
そして兵士の一人が叫ぶ。
「おら騙されねえだ!噓つきはダストだべ!ゲットはおら達の村を無料で助けてくれただよ!ゲットはボロボロの装備のまま無料でおら達を助けてくれただ!ゲットは英雄だべ!」
続いて兵士が叫ぶ。
「ダストはあのゼスじいさんですら村を追放した悪人だ!
ノースシティでこいつは悪事をたくさん働いている!
俺は始まりの村から来た村人にダストの悪行を聞いている!」
「違う!騙されてるのはおまえらだ!」
「私語はここまでだ!ダストが前に出たら打て!死んでも構わん!繰り返す!ダストが前に出たら打て!死んでも構わん!いや!殺せ!」
「俺は勇者だ!てめー!俺様がそんな脅しに乗ると思っているのか!」
「打て!殺せ!確実に仕留めろ!」
俺に矢の雨が浴びせられる。
「あああ!やめ!ああああ!ぐ、が!うおおおおおおお!」
「何という逃げ足の速さだ!あっという間にダストが離れていく!」
「あの矢の雨から逃げきっただと!」
「殺し損ねたのか!くそ!逃げる能力だけは一級品だな!」
「馬鹿な!ゲットにあれだけ痛めつけられたのに!あの回避能力は異常だ!」
俺は王都から離れ、息を整えた。
俺を殺そうとしただと!
俺は背中に刺さった矢を抜いていく。
俺じゃなきゃ死んでいる!
「いた!く、くそがああああああ!はあ、はあ!」
矢を抜くたびに激痛が走る。
ありえない!この俺様を殺そうとした?ありえないだろ!
俺様は勇者だぞ!
鎧を外すと悔しさがぶり返してくる。
鎧はゲットに何度も殴られてぼこぼこにへこみ、背中部分のプレートは矢で穴が開いている。
俺の血で服が汚れ、鎧には血がこびりついて固まっている。
くそ!
それにゲットが英雄?
頭がおかしいんじゃないか?
ゲットはただの肉壁で、攻撃を当てる事も避ける事も出来ない無能だ。
すばやさと攻撃力が無い無能。
実際俺は無数の攻撃を受け続け、耐え凌いだ!
あいつが活躍できるわけがねえだろうが!
その時突風が巻き起こった。
「こっぽー!苦労しているようだね」
「ガルウイン!馬鹿にしたような気色悪い声をやめろ!殺すぞ!」
「僕と話をする気はないみたいだね」
ガルウインが立ち去ろうとする。
「待あああてええよおおお!」
「こっぽーー!なんだい?話をする気はないんだよね?」
あの『こっぽー』が俺の神経を逆なでする。
むかつくが話を聞いてやろう。
俺はまともだからな。
だがガルウイン、俺じゃなきゃ完全にアウトだぜ。
俺のような紳士じゃなけりゃ石を投げつけられてる。
「手を組む話を、聞く気になったのかい?」
「聞いてやるよ!だが1つ答えろ!」
「何だい?」
「この国にあるざまあチケットを取っただろ?」
「取っていないよ。力をつけるまで修行と勉強の日々だったからね。君と違って基礎はしっかり学んで、ゲームより更に強くなっているんだ」
「嘘じゃねえだろうな?」
「疑う相手と手を組むことはできないよね」
ガルウインが風をまとって立ち去ろうとする。
「待あああてええよおおお!」
「こっぽー!なんだい!話を聞けないし信用できないんだよね?」
ガルウインがこっぽーと言いながら俺を笑う。
むかつく奴だ。
だが俺は紳士。
大人の対応をしてやるよ。
「組んでやってもいい。だが、気になることがある」
「何だい?」
「ゲームじゃお前らは負ける。この俺様になあ!」
「確かにその通りだね。ゲームだと帝国は負けるよ。原因は馬鹿な皇帝のせいだよ」
「いや、俺に完膚なきまでにぼこぼこにされたから負けたんだろうが」
「戦力の逐次投入だったからね。皇帝は無能なんだよ」
「はあ?何訳の分からねえことを言ってやがる!」
「こっぽー!意味が理解できないんだね。うーん。言い方を変えるよ。ゲームでは6将を1人ずつこの国に差し向けたよね?だから負けたんだ。でもこう考えたらどうだい?もし剛腕も、疾風も、骨も、竜化も、黒騎士も、残る5将すべてで一気にこの国に攻め入ったらどうだい?」
「そりゃ、俺がいりゃあ余裕だが、俺無しならこの国は終わるな」
「こっぽー!やっとわかったようだね。そして5将にプラスして勇者が加わってこの国を攻めたらどうだい?」
「俺様がいりゃあ、瞬殺だな」
「僕がやりたいのはそういう事だよ」
おいおいおいおい!
それならむかつくゲットも、ゼスも、王も一気に潰す事が出来るじゃねえか!
だが、クグツは他の将と一緒に来なかった……こいつの言っている事がおかしい。
「出来てねえじゃねえか。クグツはゲームと同じで打ち取られているじゃねえか」
「こっぽー!今の流れで理解できなかったかい?ぷくくくく!今から説明してあげるよ。今の状況と僕がやろうとしている事をね」
◇
「そういう事か、それならそうと言えよ!組んでやる」
皇帝を殺して、指揮権を奪う。
残る5将と俺様が大軍を指揮してこのマイルド王国に一気になだれ込む。
そうなりゃ早く移動する必要があるぜ。
人気の無い場所とはいえ、ガルウインがいることがバレたらまずい。
早く王都を離れて、早く皇帝を殺す。
そして一気に瞬殺して俺は爆速で駆けあがる!
「こっぽー!悪かったね。普通の人間なら言わなくても察しが付くと思うけどね。説明しないと分からないんだよね?それじゃあ一緒に北の帝国に向かおう」
俺はガルウインと共に帝国に向かった。
だが何故か街道を逸れて険しい道を歩む。
「ぎゃああああああああ!助け‼助けろよおお!」
「こっぽー!あっれー?勇者ならこの程度の魔物余裕じゃないかな?」
「ざけんな!エースゴブリンが15体以上いるんだぞ!」
「僕にはできるけど、勇者である君にはできないんだね?ぶー、くくく!これじゃあ恥ずかしすぎて仲間に紹介できないな」
「ざっけんな!てめえがやってみろよ!」
ガルウインは風の刃でエースゴブリンを斬りつつ、更に剣を抜いて一瞬で魔物を全滅させた。
「このくらい簡単だよ。あ、そうか、僕は簡単に出来るけど、勇者ダストには難しいんだね?僕は簡単にエースゴブリン18体を狩れるけど、勇者ダストには出来ないんだね?君は弱い雑魚勇者、それでいいんだよね?僕は瞬殺できたけど君は僕に助けて貰わないと生き残れない雑魚。そして何もできない勇者だよね?」
「やってやるよおおおおおおおお!俺はゲームの主人公だ!選ばれた存在なんだよお!」
俺は帝国に向かう途中で何度も魔物と闘った。
俺のレベルは恐るべき速さで上がり、爆速で駆け抜けていった。
連日爆速で昇りに昇る!
「爆速でレベルが上がりやがる」
「こっぽー!まだ帝国まで半分も進んでいないよ。ぷくくく、何回爆速って言うんだい?ネタじゃないよね?爆速で何度も死にかけて奇声を上げて逃げているよね?」
「はあ!爆速レベルアップだろうがよ!」
「こっぽー!こひゅうううう。ぷくくくくくく!」
ガルウインは笑い続けるが笑い方が気持ち悪い。
「むかつくんだよ!」
「ごめんごめん、でも急がないと次の将が動いてしまうよ」
「お前こそ、大丈夫なんだろうな?」
「問題無いよ、帝国に帰還すれば、皇帝を殺せる」
【ガルウイン視点】
やっぱり!あのゴミのような性格。
帝国にマークされた勇者の固有スキル!
丁度いい!
さすが勇者だ。
帝国で皇帝を殺し、その罪を被ってもらう。
その後は派手に暴れて更に罪をアピールしてもらえるのがベストだ。
ダストを見ると、エースゴブリンと闘って無様に地面を転がっている。
そう、それそれ、皇帝が死んだら、今度は帝国兵を相手に皇帝を殺した罪を宣伝するように逃げてもらう。
そしてその後に不要になったゴミをゴミ箱に入れる。
邪魔な皇帝も勇者もいなくなる。
勇者ダストは、ある意味僕の勇者だよ!
こっぽっぽー!
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