第39話

 俺は、魔法攻撃を受けて地下に落ち、がれきに埋もれていた。


「気を、失っていたのか?」


 どのくらいたった?

 今どうなっている?

 皆助かったのか?


「ゲット、いますの!?」

「ここ、だ」

「がれきを退けるにゃあ!」


 アリシアががれきをどける。


「ああ、よかったですわ。無事ですのね」

「ああ、生きている。どのくらい時間が経ったんだ?」

「まだ10分も経っていませんわ」


「体中が痛い。杖を貸してくれ。回復魔法を使いたい。少しでもヒールの効果を上げたいんだ」


 エステルが横に首を振り、杖を構えた。


「私が回復しますわ。アリシアは先に戻るのですわ」

「分かったにゃあ!」


 アリシアが素早く走って行った。


「ハイヒール!」


 俺の傷が回復していく。


 だが、まだ足りない。


「ヒール!」


 カランカラン!


 杖を落として倒れようとするエステルを抱きかかえた。

 今日は一度MPを使い切っている。

 エステルは無理をして魔法を使ったんだ。


「すまない。負担をかけた」

「いえ、わたくしは今からそれ以上にひどい事を頼みますのよ」


「クグツを倒して欲しいのですわ」

「クグツは俺が倒す」


 俺とエステルは同時に言った。


「エステル、隠れて寝ていてくれ」

「わたくしにはこの程度の事しか出来ませんのね」

「十分だ」


「もし、無事にみんなが救われたら、お話がありますわ」

「今言ってくれ」

「いえ、言いませんわ。その方がゲットは勝てる気が、そんな気がしますのよ」


「分かった。すぐに倒してくる」


 まだ、エクスファイアは使えない。

 まだMPが足りない。

 それでも俺はクグツの元に向かった。




 クグツの元にたどり着く。


 するとアリシアが斬り倒されていた。

 そして、俺の目の前でクレアが斬られて倒れる。


「生きていたか。安心しろ、クレアもネコ族も殺してはいない。ネコ族もついでに私の奴隷にしてやる」


 俺は円盾とメイスを構えてクグツにシールドを押し付けるようにタックルをした。


「ひっひっひ!安心しろと言った。奴隷にしておもちゃにしてやる」


 クグツは余裕で双剣をクロスさせて少し後ろに下がりながら衝撃を和らげる。

 俺のタックルは簡単にいなされた。


 クグツの剣を円盾で受け止め、メイスで殴ろうとするがもう片方の剣で止められる。


 何度叩いても何度盾で防いでも双剣と俺の盾・メイスで打ち消し合うようにお互いの攻撃は当たらない。


 俺は気合を入れて双剣の受けをかいくぐろうとする。


「うおおおおおおおおおおお!」


「ひっひっひっひいいいい!!私の方が上手のようだ。しかも、血を流して力が出ないか?連戦で疲れたか?息が上がっている。ああ、そうか、エクスファイアを使いすぎてMPも無いんだったな!!」


「それはおまえも同じことだ!」

「私は全く攻撃を受けていない!血を流していないのだ!MPも尽きてはいない!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「きぇえええええええええええええええい!」


 金属音を打ち鳴らし何度も打ち合う。


 死を覚悟した。




 俺はゼスじいとの訓練を思い出していた。


 訓練中にゼスじいが俺を褒める。


「ゲットは盾で受け止めるのがうまいのお」

「そうかな?」

「そうじゃよ。確かに盾は受け止めるのが基本じゃ。じゃが他の使い方もあるんじゃ」


「他の使い方?」

「ふむ、メイスで殴り掛かって来るんじゃ。全力でじゃ!」


 俺は全力でメイスを振り下ろした。

 ゼスじいは盾を斜めに受けて俺の攻撃をいなした。

 そして俺がバランスを崩すと俺の顔に盾を押し付けて目隠しをするように視界を塞ぐ。

 そして、気づいた時には俺の腹にゼスじいのメイスがそっと当たる。

 反応出来なかった。


「どうじゃ?盾で攻撃をいなして盾で視界を塞いだんじゃ。盾にはこういう使い方もあるんじゃが、失敗したかもしれんのう」

「え?」


「ゲットは盾で受け止めるのに慣れすぎたんじゃ。咄嗟に手が動くほど慣れておる。基本は大事じゃが、盾LVが上がらなくなったらこういう技も入れていくんじゃ。そうすればもっとLVは上がる」


「やってみたい!」

「言うと思ったが、ふむ、やってみるかの」


 俺はゼスじいの攻撃を反射的に普通に受け止めてしまう。


「やっぱりじゃの、盾で受ける癖がついておる。悪くはないんじゃが、ここまで癖がついてしまうと癖を直すために時間がかかるんじゃ。じゃが、やり方だけは教えるでの」




 俺は現実に引き戻された。


 クグツの双剣が俺を狙う。

 俺は剣が盾に当たる瞬間に盾の角度を変える。


 クグツが剣の勢いを殺しきれず少しだけ態勢を崩した瞬間にメイスを横に振った。

 クグツは急いでもう片方の剣で攻撃を受け止めつつバックステップを踏み、俺から距離を取った。


『盾LVが42から43に上がりました』


「ひっひっひ、油断しすぎたか。次は真剣に行く!」


 俺とクグツはまた打ち合いに戻る。


『盾で視界を塞ぐんじゃ!』


 ゼスじいの声が聞こえた気がした。


『盾LVが43から44に上がりました』


 俺は盾をクグツの顔に押し当てるように前に出し、視界を塞いでメイスで腹を狙う。


 クグツは慌てて後ろに下がった。


『なぜ利き手で盾を持つか分かるかの?それは盾で防ぐことが攻撃の起点になるからじゃ!盾は防御の為だけにあらず!攻撃の起点にもなるんじゃ!』


『盾LVが44から45に上がりました』


『盾LVが45から46に上がりました』


「ふー!ふー!うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 クグツを追うようにメイスで殴り掛かる。

 徐々に、徐々にクグツを追い詰める。


『盾LVが46から47に上がりました』


『盾LVが47から48に上がりました』


「貴様!何をしたああ!なぜ急に強くなったあああ!」


 俺はクグツの肩にメイスを叩きこんだ。

 そして盾を双剣に押し付けるように突き出してクグツの腹にメイスを叩きこんだ。


 クグツが後ろに吹き飛び、壁にぶつかる。


「げほ、ひ、ひっひっひ、そうか、戦いながら強くなるか、これだけは使いたくなかったが仕方ない。紋章強化!」


 クグツの筋肉が隆起し、マッチョボディに変わる。


「ひっひっひ、この魔法は私の切り札だ。大幅に力が増す。貴様をあっという間に殺してやろう」

「大きな魔力だな。長い間使うことは出来ないんだろ?」


「それに何の問題がある!ギリギリ私を上回っていただけの貴様にこの強化は防ぎきれない!ぐおおおおおおおおおお!」


 クグツが剣を振り盾で防ぐが、防いだ瞬間に後ろに飛ばされた。


『身構えて当たる瞬間だけ力を入れるんじゃ!』


『盾LVが48から49に上がりました』


 気を抜いたら死ぬ。


 だが、それでも俺はゼスじいの言葉を思い出していた。


『盾とメイスをバラバラに考えちゃいかん。右手も左手も一体と考えるんじゃ』


「ひい、ひっひっひっひっひ!防ぐだけで精一杯か!」


 俺は壁に追い詰められて何度も双剣で攻撃される。

 盾やメイスで受け止める度に体が壁に叩きつけられた。


「ヒール!」

「無駄だ!気休めだああ!そんなに苦しんで死にたいかあああ!」


『ゲット、お前はやれば出来る人間じゃ』


『メイスLVが49から50に上がりました』


『新スキル、ファイアエンチャントを習得しました』


 俺は迷うことなく行動に移す。


「ファイアエンチャント!」


 ファイアエンチャントによって俺を赤いオーラがおおった。

 このスキルは攻撃力を一定時間強化する。

 それだけのスキルだ。


『ファイアエンチャントのLVが1から9に上がりました』


「弱い!弱すぎる!貧弱なスキルだ!」

「そうだな!今はそうだ!」


 俺の状況は変わらず、壁に押し付けられるようにしてギリギリで攻撃を防ぐ。


 ファイアエンチャントの魔力を制御する。

 ゼスじいに習った炎操作の基本を思い出す。


 目の前に迫る死とゼスじいの訓練が俺を引き上げていく。


『ファイアエンチャントのLVが9から14に上がりました』


『ファイアエンチャントのLVが14から17に上がりました』


『メイスLVが50から51に上昇しました』


 変化が訪れた。

 俺が一歩、また一歩と前に出て行く。


 俺が攻める事が多くなってくる。


 それは少しだけの変化だった。


 だが、変化は連続して起こっていく。


『メイスLVが51から52に上昇しました』


 少しずつ少しずつ強くなる。

 俺のメイスが1発だけクグツの太ももにヒットした。


 その瞬間に俺はメイスを何度も振り、何度も何度もクグツに攻撃を当てた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


『メイスLVが52から53に上昇しました』


 今度はクグツが壁に追い詰められ、何度も俺の攻撃を受けていく。


クグツの双剣が地面に落ち、音を鳴らし、そして地面に倒れた。


『レベルが51から53にアップしました』




 ゲット 人族 男

 レベル:  53

 HP:  530   SS

 MP:   371    B

 物理攻撃:318    C

 物理防御:530   SS

 魔法攻撃:530   SS

 魔法防御:212    E

 すばやさ:371    B

 固有スキル:炎強化

 スキル:『メイスLV53』『盾LV49』『ファイアLV52』『ハイファイアLV41』『エクスファイアLV41』『ヒールLV27』『リカバリーLV9』『トラップLV22』『宝感知LV19』『ストレージLV29』『ファイアエンチャントLV17』

 武器 炎のメイス:250 炎魔法+30%

 防具 守りの円盾:150 HP微回復 赤のローブ:90 ハイブリッドブーツ:60

 エステル:好感度61



 戦いが終わり、歓声が聞こえる。

 俺はそこで初めて、皆の声に気づいた。

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