第34話

【クレア視点】


 私は3人の斥候と共に城の偵察に来ていた。

 今回は水門の攻略が作戦の肝になる。


 敵が水門を守っている事は分かっているが、出来るだけ情報を集めたい。

 私達は水門の周囲を回る。


「水門は、思ったより高い位置にある」


 斥候の言葉に答える。


「そうですね、この地は山岳地帯の境目です。北の山脈から豊富な水が流れてきますが、その水を管理する事で平地に大量の水を供給することが出来ます。

 この地はマイルド王国の需要な穀倉地帯でもありますからね」


 この地は水門の弱点を抱えつつ、それでも水を溜めておかなければいけない。

 水を吐き出せば水責めによる弱点は無くなるが、それをやってしまえば穀倉地帯の多くが水不足に陥る。


 そして、この城は北の帝国から領土を守る重要拠点でもある。 

 ここを落とされたまま放置すれば、帝国侵攻の足掛かりとして使われ、更にこの豊かな地を奪われる事を意味する。


「気配!誰か、近づいてくる!」

「勇者ダスト!それに後ろからは大量の魔物と帝国兵がいます!撤退します!」

「無理、もう、包囲されかけてる」


「く、それでも撤退します」


 ダストが物凄い勢いで近づいて来て、私達に敵を押し付けて逃げていく。

 あの速度は異常だ。

 ダストは何かスキルを持っているのかもしれない。


 ガルルルル!


 私はブラックウルフを両手剣で斬り倒した。

 でも、剣で攻撃するたびに逃げる足が止まる。


「みんなは逃げてください!」

「ダメ!クレアが捕まる!」


「ゲットに水門の情報を伝えてください!早く!」

「分かった。すぐに戻る」


 私はおとりになって何度も剣を振った。

 敵は私にターゲットを絞ったおかげで皆は逃げることが出来た。


 良かった。

 私以外の、みんなは助かる。


 何度も何度も剣を振って魔物を倒した。

 でも、帝国兵は魔物をけしかけるだけで何故か攻撃してこない。




 私は何度も剣を振った。

 手が痺れ、体が動かなくなってくる。

 それでも、私は剣を振り続けた。


 どのくらいの魔物を倒したか、もう覚えていない。

 

 後ろから、ブラックウルフに足を噛みつかれた。

 剣を振りかぶって魔物に突き刺す。


 ブラックウルフを倒すが、足がうまく動かない。

 私は、ここで死ぬのが分かった。


「死ぬなら騎士らしく、戦って死にます!」




【クグツ視点】


 私は兵士に紛れてクレアを観察する。

 実物のクレアはさらに美しい。

 実物を見て更に気に入った。


 あの戦いを見ればわかる。騎士の鏡のように自らが盾になり斥候を逃がした。そして今、騎士として死のうとしている。


 ひっひっひ、騎士として死ぬ事すら出来はしないのに、まともに死ねると思っている。

 クレアは私の奴隷になるのだ!


 クレアが疲れ、ブラックウルフに足を噛まれ、疲弊した瞬間に私は前に出る。


「ひっひっひ、私は帝国六将の一人、知略のクグツだ」

「六将、私もここまでのようです。ですがただでは死にません!」


「ひっひっひっひっひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 私が笑ったことでクレアの顔が引きつった。

 その顔、最高だ。

 

 クレアは楽に死ねると思っている!


 クレアはまだ騎士道を貫こうとしている!


 そういうクレアを奴隷にするのが楽しみで仕方がない。


 私は笑顔を浮かべながらクレアに近づいた。




【クレア視点】


 目が覚めると私は鎖で拘束されていた。

 私は戦い、敗北して、気絶した。


「ひっひっひ、目覚めたか」

「ここは?」


「城の中だ。良かったな。攻め落としたいと思っていた城に入ることが出来たのだ」


「私を拷問しても大した情報は出ません。さあ、私を殺してください」

「ひっひっひっひっひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!国が情報漏洩対策をしているのだろう?そんな事は分かっている。私がしたいのはそんな事ではない!クレア、丹田を見てみろ!」


「こ、これは!奴隷の紋章!」

「そうだ、私は紋章魔法が得意でなあ!魔力の源である丹田を支配されれば、お前は私に逆らえん!そして、私の人形になる!」


「わ、私の体を奪う気ですか!」

「言った通りだ。体を奪うなどという低俗な遊びをする気はない!もっと根源を楽しむ。クレア、お前の苦しむさまを楽しむのだ!!」


「も、紋章がなじむまで時間がかかります!。その前にこの城は落ちます!」

「んん?どうするというのだ?親切な勇者が隠し階段の場所も!水門の襲撃も知らせてくれたではないか!ひっひっひ!あの勇者は一人で城を落とせると本気で思っていたのか。ひっひっひい!間抜けすぎる。


 だが感謝せねばな。

 間抜け勇者の襲撃によって、この城の弱点と対策を練ることが出来たのだ。

 私は知略のクグツだ。


 敵がどう来るか分かってさえいれば対策は容易なのだ!!」


 確かにその通りだ。

 油断したクグツに軍の水門攻めと隠し階段の奇襲を仕掛ける事で一気にクグツを倒すはずだった。


 通常城攻めには3倍の兵力が必要なのに、帝国との兵数は同等、となれば城攻めをする私達が圧倒的に不利になる。


 でも、もう奇襲も水攻めも使えない。

 勇者の奇襲と水攻めの失敗によって完全に対策を取られているだろう。


 会議でそれ以外の大きな策は一切出なかった。

 出たのは細かい案だけ。


 私がクグツを睨みつけると、クグツは嬉しそうに笑い、そして言った。


「ひっひっひ、勇者は私を助けてくれた。間抜け勇者は私の救世主だよ。ひっひっひっひっひっひっひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」






















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