第18話 降光

神樹しんじゅ】が【嫉妬しっと】の力を行使していた。


 その身を赤く染め上げ、地面が鳴動している。

 赤い光は、周囲からも感じられた。

 見ると、樹海も赤く染まっている。


 今や世界全てを染め上げる勢いで、赤色が全てを浸蝕してゆく。


 空も、空気も、大地も、見る間に赤色へと染まってゆく。



 その様を、俺は茫然ぼうぜんと眺めていた。


 頭が状況を理解し始める。

 じわじわと実感が湧いてくる。

 この場に【巫女みこ】が居ないことの意味する所を。


 何故だ。

 何故こうも、俺は……。


 俺の元居た世界では、俺以外を救えなかった。

 次に、おやっさんの居る世界では、多くを救ってみせた。


 ……だが、それは俺一人で成し得たことではなかった。

 俺のあずかり知らぬ事情により、その場に現れた【執行者しっこうしゃ】の協力によってこそ成されたのだ。


色欲しきよく】の居た世界では、俺にできることはなかった。

 ただ、メイドさんに助けて貰っただけだ。


 そして今回は……。

 俺の浅慮せんりょが原因で、この事態を招いてしまったのだ。



 何故、俺は【神樹】を倒すことにあれ程固執してしまったのか。

 俺にできないならと、他の【大罪たいざい】まで引き連れて。

 俺は、俺の行動を自制できていないのか。


 挙句、人を死なせ。

 あわや、俺も死にかけて。


 一体、俺は何をやっているのか……。




 ふと気が付けば、間近に白狼はくろうが迫っていた。

 まだ食い足りないのか、口端からは涎が垂れている。


 まだ……。

 まだって、くそっ。


 白狼と目が合う。


 奴の目には飢えと喜悦きえつが見て取れた。


 俺の目には、何が映り込んでいるだろか……。



 白狼の口がゆっくりと開かれる。


 俺が逃げないと確信しているのか、緩慢かんまんな動きでこちらへと迫ってくる。


 咄嗟とっさに逃げなければと身構えるが、しかし、【リング】は俺の腕ごと奴の腹の中だと思い至る。


聖衣せいい】では防げず、逃げるための【リング】は手元に無い。


 口が間近に迫る。


救世きゅうせい】では【神樹】はもしかしたら消滅させられるかもしれないが、白狼は【聖衣】により生き残ってしまう。


 最早、至近。


【救世】を使うべきか、使わざるべきか、決められない。


 真上から、俺の全身が口内へと覆われてゆく。


 俺にできることは、生きること、生き続けること、死なないこと。


 口がゆっくりと閉じられてゆく。


【救世】では、俺は助からない。 


 外は最早、僅かも見えない。


 俺が生きるために必要なモノが、足りていない。


 口が完全に閉じられた。




 人が十人は入れる程、広い口腔こうくう内。

 程なく、噛み砕かれ、肉片になるだろう。

 消化されるのは、どれぐらいかかるだろうか。


 体の姿勢が前へと傾いてゆく。

 白狼が顔を真下から水平へと戻しているのだろう。


 牙や舌が動き出す。

 俺を咀嚼そしゃくするつもりか。




 俺は覚悟を決める。




 迫る牙と舌を前に、俺は……。




 喉奥へと全力で走り出した。




 目指すは胃。


 俺の行動が予想外だったのか、白狼が慌てて俺を噛み砕こうと口内を動かしてくる。

 舌の上を避け、牙との間を走り抜ける。


 僅差きんさで喉奥へと辿り着くが、白狼が顔を下へ向けたのか、俺を口内へと戻そうとする。

 それよりも早く、咽頭いんとうへ抱き着き、そのまま、喉奥へとダイブする。


 白狼が無理矢理にでも吐き出そうと嘔吐えずいたり、飛び跳ねることで俺を戻そうとしてくる。

 俺は近くの内壁にへばりつき、耐える。

 少しずつでも奥に、胃を目指して進む。


 しばらくすると、諦めたのか、無茶苦茶な動きはしなくなった。

 もしかしたら、【神樹】が何かを仕掛けてきたのかもしれない。


 遂に胃と思われる場所に着いた。

 思っていたよりも残っているモノは少ない。

 かなりの量の木を食らっていた筈だが。

 胃壁の底が見えない程度にしか、木は残ってはいなかった。


 あまり状況はかんばしくない。

 だが、まだ可能性はある筈だ。


 俺は膝丈程の位置にある木を退け、底をさらってゆく。

 身を屈め、手探りする。


 すると、手に独特の感触が返って来た。

 それを掴み上げる。


【リング】だった。

 一緒にあった筈の腕は、既に消化されてしまったのだろうか。


【リング】を改めて左手首に着ける。


 目的の一つを果たし、だが、目的はもう一つある。

 引き続き、折り重なる木を退けてゆく。

 まだ、胃の中の半分程しか探せていない、後もう半分にあることを願いつつ探し続ける。






 焦燥しょうそう感が募り、嫌な予感に苛まれながらも探し続けた。


 そして、ようやく目的のモノを見つけ出した。

 見たところ、欠損は無い。

 確かに、可能性はあったのだ。

 何せ、痕跡こんせきが無かったのだから。


 俺は重い息を吐き出した。

 俺は、今度こそ、しっかりと抱きとめると、【転移てんい】を試す。


 が、しかし、【転移】は発動しない。

 体外、白狼は樹海の外に居るようだ。


 俺は【リング】の加重で、入って来た場所へと向けて全力で飛び出した。


 目標は咽頭。


 全力で体当たりをかます。


 すると、たまらず白狼が嘔吐いた。

 白狼の開かれた口から全速力で脱出を果たす。




 ようやく、外に出てこられた。

 止まることなく、現在進行形で、その場から遠ざかっている。



 何とか無事に、二人共、脱出することができた。



 そう二人、【巫女】も無事に胃の中から回収してきたのだ。

 俺が半身を食われた際、彼女の痕跡は、その場に残されていなかった。

 つまりは、丸ごと食べられていたのだ。


 その後にどうなったか迄は賭けでしかなかったが、諦めずにいて正解だった。

 もう少し遅かったら、消化され尽くしていたかもしれない。

 その証拠に、今や衣服はボロボロになっている。

 肌の表面には焼けただれた跡も散見される。


 だが、生きている。

 五体満足と言っていいだろう。




 相変わらず、外の景色は赤色に染まっていた。


 だが、変化していたモノもあった。


【神樹】だ。

 赤く変色しただけでなく、形状が変わっている。

 枝葉を伸ばしていたと思われる樹上部分は、葉を全て落とし、まるで角の様だ。

 あれ程の太さを誇っていたのに、今では細長くなり、宙にとぐろを巻いている。

 地面から伸びるその様は、東洋の龍を彷彿とさせる。

 さしずめ、赤龍せきりゅう、といったところか。


 いよいよもって、怪獣大決戦の様相を呈してきた。

 龍虎、ならぬ、龍狼相打つ。


 そんなことを思い浮かべながらも、樹海上空まで退避することができた。


 その樹海も様子が変わっていた。

 こちらも、葉を全て落とし、小さな赤龍へと変じている。


 辺りを埋め尽くすその様は、正直に言って気持ちが悪い。



 兎に角、【巫女】を村民に預けたいのだが、何処に避難したのかが分からない。

 依然として【巫女】の意識は戻ってはいない。

 まぁ、暴れられるよりかは、このままの方が運びやすいとは言えるのだが。


 仕方が無く、樹海の上を飛び回って探してみるが、村民は見当たらない。

 正直、妙齢みょうれいの女性を抱きかかえているのは、かなりの抵抗がある。

 理性を総動員して、意識しないようにしているが、色々と当たったりしてしまっている。

 誰か、迎えに来てください。

 早く。



 願いが通じたのかは分からないが、見覚えのある男性が、樹海の外に立っているのが見えた。

 すかさず、その男性の元へと降り立った。

 これまた都合のいいことに、護衛の男性、つまりは【巫女】の旦那さんだった。


 聞けば、戻りの遅い【巫女】を探し周っていたと言う。

【巫女】を旦那さんへと引き渡し、俺は宙へと戻る。

 やっと解放された。

 色々な意味で。




 赤龍と白狼は睨み合っていた。


 そういえば、白狼の体内に居た時から、動きが無いようだった。


 両者共に微動だにしない。

 先手を探り合っているのか、何か切っ掛けを待っているのか。

 異界とも言える程に、その景色を赤く染め上げる中、静寂が辺りを満たしている。


 あるいは、ここで物音を立てただけで、事態は動き出すのかもしれない。


 緊張感に包まれる中、俺はできるだけ注意を引かぬよう、慎重にその場を離れてゆく。

 流石に巻き込まれると、今度こそ死にかねない。


 後のことを考えるのであれば、共倒れに終わって欲しいところだ。

 白狼には【救世】もあるのだ。

 余り白狼が追いつめられると、使用しないとも限らない。



 何が切っ掛けとなったのか、両者の激突は突然、そして、同時に起こった。


 赤龍は己の体を棘で覆い、白狼へと巻き付き、一方の白狼は、赤龍の体へと噛みついた。


 結果は対照的となった。

 赤龍は無傷なのに対し、白狼が傷を負っていた。


 赤龍は巨大樹からその身を細く変じた代わりに、その密度を高めているのだろう。

 硬さを増した体に、白狼は文字どおり歯が立たなかったようだ。


 そして、赤龍は防御力だけでなく、攻撃力も増しているようだ。

 木の姿では、白狼の【聖衣】を突破できなかったのを、今は傷を負わせて見せたのだ。


 ここにきて、赤龍が優位に立ったわけだ。

 そして、白狼が【救世】を使用する可能性も上がってしまったわけでもある。



 赤龍はそのまま白狼を締め上げてゆく。

 白狼の身が、赤龍の棘により貫かれ、切り裂かれてゆく。


 白狼が吼える。


風食ふうしょく


 巨大杭を風化させた力を再び行使したのか、あの乾いた風が吹き荒れる。

 赤龍の表面が乾燥し、ひび割れてゆく。

 そして、破砕した。


 だが、赤龍は健在だった。

 どうやら、表皮のみを犠牲として、内部を守ったようだった。


 状況は変わらず、白狼は尚も締め上げられている。


飢餓きが


 白狼の目が血走り、口端から垂れる涎の量が増す。

 白狼が再び赤龍へと噛みついた。

 またも弾かれると思われたが、今度はその表面に歯を突き立てた。

 そのまま噛み千切ろうと力が加えられる。


 赤龍はその身を細くしているため、噛み千切られると、体が支えられなくなってしまう。

 すると、白狼が噛みついた箇所の下側から、赤龍の顔が生成されてゆく。

 元の顔どころか、白狼が噛みついた箇所よりも上が見る間に姿を縮めてゆく。

 赤龍は体の部位を自由に移動させることができるようだった。


 白狼が赤龍の体を噛み千切って見せるも、その時には既に、赤龍の体は再構成されていた。


 見た目が龍へと変じた【神樹】だが、一応、木としての性質が残っているのか、今でも大地に根を這わしている。

 赤龍を倒すには、根本ねもとを叩く必要がありそうだった。


 俺の思考が伝わったわけではなかろうが、白狼も同じ結論に至ったようだ。

 締め上げられる体を無理やり動かし、根本へと顔を近づけてゆく。

 赤龍の締め上げている体の隙間から、白狼の血が噴き出している。


 じわりじわりと、白狼の顔が根本へとにじり寄る。

 それをさせじと、赤龍も締め上げる力を強くしている。


 既に、白狼の体は、赤龍に締め上げられて元の大きさの半分程まで、圧縮されてしまっている。

【聖衣】の防御と治癒がなければ、既に死んでいることは想像にかたくない。

 だが、白狼は今なお、生きている。

暴食ぼうしょく】の飢餓感に苛まれながら、相手を食らう一心なのだろう。


 遂に、白狼の牙が赤龍の根本へと届く。


≪風食≫


蟒蛇うわばみ


【暴食】の力を発現させたのか、乾いた風が根本へと殺到する。

 更に、牙を立てた箇所へと、赤龍の体が吸い寄せられてゆく。


 赤龍が苦痛に喘ぎ、白狼の拘束を解く。

 その機を逃すまいと、白狼は根元深くに食らいつく。


 赤龍がその身をじり始めた。

 出来上がったのは、一本の螺旋状の長大な槍だ。

 赤い槍は回転しながら、白狼の体を下から襲う。


 一瞬の停滞もなく、一息に貫通する。

 今度は白狼が激痛で、根元から口を離す。


 だが、赤龍の攻撃はまだ終わらない。

 白狼を串刺しにしたまま、今度は、元の木のように周囲へと枝を広げてゆく。

 白狼の体内からは体外へと、体外からは体内へと。


 白狼の全身が見えぬ程、枝に埋め尽くされていた。

 今や、白狼は、赤龍自身といえるまゆに取り込まれてしまっていた。



 ここら辺が限界に思える。

 流石に、白狼の分が悪過ぎる。

 いよいよ【救世】を使いかねない。


 だが、このまま白狼が死に、【神樹】が生き残ったとしても、世界は滅んでしまう筈だ。

 何故なら、そもそもが、【嫉妬】の巨大樹により、世界が滅ぶと予見されたことが、俺がこの世界に来た原因だったからだ。


 つまり、どちらを助けても、世界は滅んでしまう。

 消滅か滅亡かの違いだ。




 しかし、何故、【神樹】はあれ程強くなったのか。

 白狼は【大罪たいざい】を有し【聖衣】を纏っている。

 しかも、元居た星の生命を魂ごと食らっていた筈だ。


 圧倒的に劣っていた筈の【神樹】が、如何いかな理由でここまで強くなったのか。


 その答えは周囲の光景にあった。


 小さな赤龍の群れと化した樹海が、その姿を消していた。

 代わりに見えるのは、辺り一帯に這わされた、巨大な根。

【神樹】もまた、樹海を食らうことで、力を増したのだ。

 小さな赤龍と化していたのは、【嫉妬】の影響を受けたが故の姿だったのだろう。


【神樹】が赤龍へと変じて、すぐに戦わなかったのは、根を辺りへと伸ばしていたが故だったのだ。




 疑問は解けても、状況は解決しない。

 俺に介入できる程の力も無い。


 もしかしたら、【巫女】の生存を知らせることで、【神樹】をいさめることが可能かもしれない。

 だが、それができたとしても、今度は白狼が脅威となるだけだろう。

 このまま、共に滅ぼす方法があればいいのだが。


 考えている間も、時間は過ぎてゆく。

 一体、あと如何程の時間が残されているのか。


 焦っても解決策は浮かばない。

 時間だけが浪費されてゆく。






 突然、赤い世界に、天上から光が差した。

 世界の色が裂かれる。


 一瞬、【救世】による白い光の柱を連想し、身を震わせる。

 だが、光は白狼から発しているわけでは無かった。


 すると、天上から光と共に何かが現れる。


 それも無数。

 黒い点のようなソレが、見る間におびただしい数となってゆく。


 一体、何が起こっているのか、分からない。


 俺の理解のことなど余所に、事態は進行してゆく。

 最早、どれ程の数となったかも分からない、天からの何かは、遂に地上へと降りてくる。

 その速度は、まさに光だった。


 光の流星が降り注ぐ。

 その先は赤龍と白狼だ。


 光が当たる度、その箇所は消滅してゆく。

 見る間に繭は削り取られ、白狼の姿が見えた。


 その白狼もまた、光により削られてゆく。

 まるで、絵を消しゴムで消してゆくが如く、光の通過した後には、何も残っていない。



 光の流星群が、光の滝のようになった頃、赤龍も白狼もその姿を保ってはいなかった。



 終始、茫然とその光景を見続けていた。


 何が何やら分からない。

 俺の与り知らぬ所で、事態は収拾されていた。


 天から降り立ったのは何だったのか。

 好奇心に駆られ、俺は近づいてゆく。


 それは見覚えのある姿だった。

 白い体、背に生えた羽、そして頭部の代わりに鎮座する、正面を向いた天使の輪。


天使てんし】。


 俺が【救世】を使用した直後、天界に初めて行った際に見たきりだった。

 あの時は、巨神の所へと俺を案内したのが【天使】だった。


 あれ以来、見ることは無かったが、これ程の性能を誇っていたとは。

【世界の敵】と称される【大罪】保有者に対し、元【救世主きゅうせいしゅ】の【執行者しっこうしゃ】たちが対処に当たっていると聞いたが、【天使】もまたその任をになっているのだろうか。


 その姿を明確に捉えた辺りで、俺は接近するのを止めていた。

 俺は巨神の要請を断り、逃亡した身だ。

 もしかしたら、連れ戻されるかもしれない。

 ただ、最近は特に何の音沙汰も無く、【執行者】との接触も無いわけだが。


 ふと、頭上からの視線を感じた。

 仰ぎ見れば、天上からの光が広がりを見せ、赤色に染まった世界を、元の色へと戻しているところだった。

 そして、その光の中に、視線の主と思われる存在が居た。


 漆黒の鎧。

【執行者】だった。

 背に大太刀、腰に長刀を差している。


 鎧越しではあるが、どこか線の細さを感じさせる。

 女性だろうか。


 例によって、顔を覆う兜により、その表情は伺い知れない。

 だが、その兜の隙間から、こちらに視線を向けているのを感じる。

 訝しく思いつつも、何となく俺も見つめ返す。



 すると、背後から声が掛けられる。


「このような場所で貴殿にまみえることになろうとは」


 女性の声だ。


 視線の先の【執行者】の姿が……無い!?

 振り向いた先に【執行者】が居た。


此度こたびは敵の討滅が主命。故に貴殿の捕縛はうけたまわっておりません」

「貴殿が此処で何事をはかっていたかは知りませんが、いずれ必ずその身を主上の元へ連行します」


 こちらの返事を待たず、一方的に言い捨て、その姿が消える。

 同時に、【天使】たちの姿も、天へと昇り、消えてゆく。


 気が付けば、天の光は消え、世界には夜が訪れていた。




 地表には、被害を免れた村の姿がある。

【神樹】が聳えていた箇所には、巨大な穴が口を覗かせている。

 周囲の樹海も無くなり、【神樹】の根が開けた穴だけが残っていた。


 事態の終息に気が付いたのか、【森の民】が村へと戻って来た。

 皆の表情は一様に暗い。

 理由は無論、【神樹】の消失にるものだろう。


 無事意識を取り戻したらしい【巫女】は、【神樹】の消失を知り、その場に泣き崩れてしまった。

 いずれは、その【神樹】により滅ぼされていたであろう【森の民】は、そうとは知らずに、いや、そうとは知っても悲しみに暮れたのかもしれない。


 彼らはこれからどうするのだろうか。

 信仰の寄る辺を失い、自分たちを守っていた樹海も消えてしまった。


 外界に彼らを脅かす存在が居るのかは分からないが、彼らの不安は俺の想像よりも遥かに大きいのだろう。



 これが俺の選択の結果。

 俺が招いた、その結末か。


 だが、彼らにとっては、これからも人生は続いてゆくのだ。

 この世界で、生きてゆくのだ。


 俺にはできることも無ければ、掛ける言葉も無い。


 俺は終始、彼らには近づかず、その場を後にする。


 おやっさんの世界での目覚めから、この【嫉妬】の世界と【暴食】の世界とを行き来した、長い一日はこうして終わりを迎えた。





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