第98話 首都へ向けて 1

 ※忘れていそうな登場人物。

 ガス:獣車屋の男。リッケン人(中東系)キザたらしい。

 ルルド:獣車屋の技術者 ボーブス人(ホビット系) なんか技術過ごそう。




 カプトから3日。当初隊商のように連なっていた集団もだいぶ減ってきている。

 それにしても、この獣車の乗り心地は素晴らしいものだった。一応座布団は用意していたが、それも要らないくらいのレベルだ。見事なもんだ。


「さすがは、王朝のナザル技術研究所というところなんですかね?」


 まるで『NASAが開発した』みたいなネームバリューに技術の確かさを感じていた。しかしスペルセスは、呆れたように笑う。


「なわけあるか」

「へ? ち、違うんですか?」

「ああ、だがまあ、確かな技術はある。あの小さいのが作ったんだろう」

「へ? あの人が?」


 確かに言われてみれば、獣車のメンテは、ボーブス人の青年、ルルドが担当していた。だが、あんな普通の青年が。と思うが……。


「大したものだ。学院へ放り込みたくなるわい」

「そんなに?」

「学院を出てるやつでも、あそこまで綺麗に魔法陣を刻めるか……」

「おおう」

 

 賢者のお墨付きだ。実際サスペンションの魔法陣はかなりの物なのだろう。



 道を進んでいくと、先の方に煙が立っているのが見える。


「火事ですか?」

「いや、あれは……そうか。そういう時期か」

「ん?」


 やがて煙の元が見えてくる。何人もの州兵たちが草原の草を刈りそれを燃やしているようだ。俺はそれを見ながらなんだろうと考える。


「焼き畑……農業ですか?」

「ん? いや。ルハシオンという草を燃やしているんだ」

「なんです? それ」

「時期的にな、もう一ヶ月もするとルハシオンという植物が小さな実をつけるんだ――」


 ルハシオンという植物は、一年草の雑草のような植物らしいが、ここらへんの地域に特化した植物だという。そして、秋になると実のような袋を作り、それが弾ける。その時に周りに飛び散る胞子が強い催眠作用を持っており、以前は多くの旅人がそれで突然眠ってしまうという事故が起こったらしい。

 こんな平地で寝てしまえば、魔物からも狙われる。この時期になるとそういった寝てしまう人間などを狙い魔物も寄ってくる。

 その為、その胞子の袋を作る前に一帯のルハシオンを刈り、燃やすのが定例行事として行われているという。


「ガス。止めてもらっていいか?」

「ああ? どうしてだ。爺さん」

「爺さんじゃないといっておるだろう。まだ十年は早いわ」

「はいはい、で、止めたほうが良いのか? 煙で臭くてたまらんぞ」

「まあ、ちょっとだ」


 ガスが獣車を止めると、スペルセスが君島に降りるように言う。


「もしかして……。プラントリングですか?」

「お、分かるか?」

「はい、なんとなく。でも、良いかもしれませんね」

「ああ、少し扱いが難しいが、集団に対しての効果のある物は一つくらいは有ったほうがいいぞ」


 二人で降りるとまだ刈られていない草原の中に入っていく。俺も気になってついていくとスペルセスが丁寧にルハシオンがどれかを教える。君島はそれを編み込み、輪にして足に結びつけた。


「どうですか? 手にこれが付いているので、今度は脚にしてみました」

「お、おう。いいんじゃないかな」

「ふふふ。ちょっと紫がかった茎とか可愛いですね」

「緑ばっかりになるより、良いかもな」



 実は、今一緒にいるのは、他に乗り合いでホラーサーン州にあるブルグアまで行く大きめの乗り合い獣車と、他に規模の小さい行商人が二組だった。野営の時に挨拶をし合った時に、俺達が連邦軍の人間だと知り、どうやら戦力となるのが俺たちくらいと見られているのか、俺たちがプラントリングを作っている間も街道に獣車を止めて休んでいる。


 一応乗り合いの獣車にも冒険者っぽい人間は居るのだが、まだまだ駆け出しの冒険者だと言っているのもあるのだろう。


 3日も獣車の客車に座っていると流石に話すことも少なくなってくる。お互いにぼんやり外を眺めながらこの見知らぬ世界の風景に浸っていた。


 ……。


「何か……居ます」


 西日が少しきつくなり、マイヌイが西側のカーテンを下ろそうとした時だった。少し居心地が悪そうな顔で君島が呟く。

 それを聞いて、俺達はすぐに戦闘態勢に入る。


 実は、この中で君島の索敵が一番速い。というのもはじめは分からなかったのだが、林の中に敵が居るときだけ俺達より気がつくのが速いのだ。スペルセスの見立てだと、木魔法の使い手である君島だけが感じる。木々から伝わる何らかの情報があるのではという事だった。

 ディザスターのゴードン達が君島たちを森の中で追跡していた時、気配を消す魔法を使っていた為皆が気が付かない中、君島だけがずっと違和感を抱いていたらしい。



「ガスさん、獣車を止めて下さい。魔物がいるようです」

「何? ……何も感じねえぞ?」

「でも、間違いないです」

「……分かった」


 俺たちの騎獣車が止まると、他の獣車止まる。ガスが、後ろの獣車に「魔物がいる」という合図をする。

 俺が降りようとすると、そっと君島が手を伸ばし、自分に任せろと合図をしてきた。しかし……いや、過保護すぎるのだろうか。躊躇していると、苦笑いをしながらマイヌイが任せろと、君島と獣車から降りていく。


 流石にずっと一緒に訓練をしてくれるだけあって、お互いに信頼があるようだ、マイヌイが降りてくるのをみて君島がマイヌイの方に宜しくおねがいしますと、軽く頭を下げる。


 獣車から降りたマイヌイがスッと自分の鞄から槍を取り出す。例の音叉槍だ。それを見たガスが目を見開く


「って……まさかおめえ……響槍――」

「言うな」


 眼光鋭くマイヌイがガスの言葉を遮る。

 武器一つで身元が分かるって……。それも凄い。


 2人がそっと森の中に入っていくのを見ていたスペルセスが少し考え込む。


「シゲトは気が付かなんだな?」

「はい、でも今は言われるとうっすらと何かいるような感じはします」

「ふむ……ここらでそんな気配を隠せる魔物がいたかな……」

「え?」

「……やはりシゲトも行っておくか」

「大変そうです?」


 獣車から俺とスペルセスが降りたときだった。

 メキメキと木がへし折られるような音と爆発音が林の中から聞こえてくる。それとともに、君島とマイヌイの2人が林の中から街道に飛び出してくる。

 なんだと思った瞬間


 どばぁあん!


 木をなぎ倒しながら一匹の大きな魔物が飛び出した。





※充電と言いつつ二日休みでドーン。

 ちょっと今楽しい時期で筆が進んでよかったっす。

 ガスの登場シーンスターウオーズでハンソロが初めて出てくるところ意識したんだけど、誰も突っ込んでくれなかったw

 ミレニアムファルコン号の自慢をするときに「ケッセルランを12パーセク」とかいうのを「ケッセルウォークを12時間」とかにしたんだけどw

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