第97話 追跡 5
仁科たちはセベックを駆り、一気に魔動車へ近づいていく。
その時だった。突然、魔動車の幌から二人の男が転げ落ちる。と、同時に魔動車は急ブレーキをかけスピードを落とした。
落下した男達の緑のフードをみて、ピークスが叫ぶ。
「あれだい! エバンスだ!」
「はい!」
ピークスに続き、仁科も抜刀する。そのまま落下して立ち上がろうとする二人に肉薄した瞬間。幌の中から桜木が叫ぶ。
「鷹斗君! 気をつけてっ!」
「え?」
立ち上がった一人が仁科とピークスの二人に両手を突き出した。
そして、二人に向け二筋の雷撃が飛ぶ。
――雷の魔法!
二人はその瞬間に州軍のケベック隊の事を思い出す。ピークスは持っていた剣を男に向け投げつけながら、セベックから飛び降りる。男の手のひらからほとばしる雷撃が剣にあたりバチバチと雷が周りに飛び散る。
一方の仁科は、必死に魔力で体を覆うのがやっとだった。雷撃は仁科に届き、ビリビリと全身が焼けるような痛みに襲われ、セベックから落ちていく。
「ぐぅああ!」
「タカト!」
セベックから飛び降り、雷撃を免れたピークスに、もう1人の男が剣を抜き斬りかかる。剣を手放したピークスは腰の剣の鞘を片手に必死にそれを受ける。止まった魔動車の荷台からは、また一人男が降りてきてピークスの方へ向かう。
雷撃を放った男は、ふと後ろを振り返り桜木を見る。桜木は二人の男に羽交い締めにされ身動きが取れない。そのままニヤリと笑いながら腰から短剣を抜く。
「駄目! やめてっ!」
「ほほう……。やはり。王子様か。これはこれは」
「ナハトっ! お願いっ! ついていくから!」
「うんうん、今までで一番いい顔だよ。姫君」
「……!」
ナハトは嬉しそうに倒れて悶絶している仁科に近づいていく。
――今の声。美希……か?
仁科は自分に全力で回復魔法をかけながら、男が近づいてくるのに気が付き、フラフラと必死に立ち上がる。男の向こう……幌の中には桜木の姿が見えた。
「美希!」
「だめ! 逃げてっ! その人は危険!」
「だ、大丈夫だ」
それを聞いて、ナハトは嬉しそうに笑う。
「大丈夫、だと? そういう強がりは好きだよ。王子様」
「お前……美希を放せ」
「俺の雷撃を食らって話せるとは……愛の力かい?」
「う、うるせい!」
ナハトは、自分の雷撃には確固たる自身を持っていた。天位でも倒せると。常に一発で勝負を決めたがるナハトは常に全力の雷撃を打ち込む。それが直撃したのに立ち上がる眼の前の男に少しプライドが傷ついていた。
軽口を叩きながらも確実に仕留めに動く。
――この男を……殺らないと……美希は、助けられない。
直感でそれを感じた仁科は心を決める。ぐっと剣を握り目の前の男をにらみつける。
――行く。
――来る……。
そう直感したナハトは手のひらに魔力を集める。さっきは二人の男に分散したから攻撃力が減っただけだ……。そう決める。まさに斬りかかるその機に、仁科に向けて全力の雷撃が放たれた。
全身で痛みを受けながら、仁科の中には、いつかのマイヌイの言葉が思い浮かぶ。
『多少の傷など治しながら戦え。攻撃を恐れない相手程怖いものは無い』
全力の回復魔法を自らにかけ、雷撃に向かっていく。
「うぉおおおおおお!」
ビリビリと体が激痛に包まれる。表皮が焼きただれながら炭化と再生を繰り返す。信じられないくらいの激痛も、気合でなんとかなる。いや。回復魔法に鎮痛効果を織り交ぜ、なんとか耐えていた。それでも激痛は激痛だ。
「美、希、を……返せ!」
「なっ!」
自慢の雷撃をまともに受けながらも、止まらずに突っ込んでくる仁科にナハトが一瞬怯む。
ガキッ!
それでもナハトは、なんとか仁科の斬撃を短剣で凌ぐ。
鍔迫り合いの中で、向かい合う仁科の焼き爛れた皮膚が見る見るうちに再生していくのに気がつく。ナハトは驚愕しつつも、至近距離で更に雷撃を放つ。
「ぐぅああ!」
流石に至近距離で目を焼かれ、仁科が後ろに下がる。ナハトが横を見れば、二人がかりで攻めていた一人の男との戦いでは、仲間の剣を奪われ少し押され始めていた。
一瞬の逡巡。
ナハトは、再び仁科に雷撃を打ちながら、魔動車に向かう。
「国境を抜ける! お前たちはその2人を抑えろ!」
外に出ていた運転手も急いで運転席へ戻る。ナハトは強引に荷台に飛び乗ると、思い切り桜木を蹴りつける。蹴られた桜木が荷台の奥まで吹っ飛ばされる。
「お前たちは、あの黒焦げの奴らを止めろ。光の神子を届けることを優先する」
「は、はい!」
ナハトの命令に、桜木を抑えていた2人は荷台から飛び降り仁科へ向かって走る。
魔動車が動き出し、その加速で後ろを見たナハトが一瞬体勢を崩す。そこへ桜木が飛びいた。
「ビトー! 降りて!」
「ふっふざけるな!」
桜木は縛られた両手で必死にナハトを抑える。倒されたナハトは桜木ともみ合いながら必死に立ち上がろうとする。
「お、お姉ちゃん!」
「早くっ!」
「だけど……」
「タカトにコイツラの目的っキャッ――」
バチン! と、ナハトがスタンガンのように桜木の首筋あたりに電撃を与える。必死にナハトを抑えようとしていた桜木がビクッっと体を震えさせたと思うと、力なく倒れ込んだ。
上に乗りかかる桜木をどかし、立ち上がろうとするナハトを見たビトーは、意を決して走り出した荷台から外へ飛び出した。
「ちっ。逃したか……。いや。だがコイツが居れば問題はない……」
仁科たちから徐々に遠ざかる魔動車の中で、ナハトは動かない桜木をそっと横にし、毛布をかける。しばらく桜木の様子を眺めていたが、ふと思い出したように運転席へ声をかける。
「このまま行け。すぐに国境だ。通行証はあるな?」
「は、はい! 大丈夫です」
「ふははは。俺の勝ちだ」
走り出し、遠ざかる魔動車に仁科は何も出来ずに居た。必死に回復をかけるも右目の治りが遅い。魔動車の荷台から降りてきた2人の男が斬りかかって来るが、防戦一方になる。
だが、雷撃が止まれば、回復のほうが優位になる。どうやら、この緑のローブを着ている男達はそこまで強いわけではない。なんとか位置取りを調整しながら必死に堪える。横ではピークスがすでに一人を倒し、残りの一人を押している。
「ピークスさん!」
「もう少し!」
そのやり取りに仁科と戦っていた2人の気が一瞬ピークスの方に向く。そのスキを仁科は見逃さない。
「ぅぉおおお!」
一人の男に深く刃が食い込む。もう1人も慌てるが、勢いづく仁科の攻撃を捌ききれず傷を追っていく。
男の目から見ても仁科は異常だった。アレだけの傷を負っていたはずなのに、戦いながらどんどんと癒えていく。潰れていた右目も色を取り戻しつつある。優位だった戦いも気がつけば劣勢に立たされていた。
やがて、全ての男達が2人の刃に切り伏せられる。
「はぁ、はぁ。美希……。セベックは……?」
戦闘に驚き遠くに離れたセベックを探そうとしたとき、魔動車の消えた方から足を引きずりながら近づいてくるビトーに気がつく。
「ビトー!」
「お兄ちゃん!」
すぐに仁科がビトーに近づくが、途中でフラッと仁科が膝をつく。
「お兄ちゃん?」
「タカト!」
慌てて2人が仁科に近づく。
「ご、ごめんなさい。なんだろう……めまいが……」
「……魔力切れだよい」
「だ、だけど……美希を追わないと」
「……わかった。セベックを連れてくる、ここでまってろい」
もともと、仁科はここまで来るのにセベックを回復させながら魔力を使いっぱなしだった。その上であの雷魔法の使い手に何度もの致命的な傷を負いながらも回復を続けてきた。もう仁科に魔力は殆ど残っていなかった。
ピークスがセベックを連れて戻ってきたときには、仁科は意識を失っていた。
※当初が彼らの会話を聞いてしまったビトーだけを誘拐させようとも考えて女子化させたのですよ。その場合男の子だと普通殺されて終わるかなと。
話を作っていくともう一つ成分が必要になり、やっぱり桜木だなと思い。
結局ビトーの女子化はあまり関係なかったオチになってしまいましたが。
これでいったん主人公サイドに戻します。
少し主人公サイドのストーリーが書き貯まったら再開しますお待ちください。
てか、ランキングも読者もだいぶ低調だけど気にならなくなってる自分が居るw
楽しんで続き書かせてもらいますぜ。
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