第93話 追跡 1
「お前さんのせいじゃないよい」
「だけど……」
「今、州兵と連邦軍が総出で調べてる。捕まえた奴も一人いる。すぐわかるだろい」
「はい……」
攫われたのは天戴だ。すぐに連邦軍も状況を集めに動き出す。話によるとあの緑のローブを着た男は、魔物を擁護するルーテナの中でも過激な行動で知られる「エバンス」という組織の構成員のようだった。
「ルーテナ? それって、魔物を守ろうとする人達ですよね?」
「うん、そうだねい」
「それじゃもしかして美希は、デュラム州で魔物を狩っているから狙われたのですか?」
「それは無いと思うがねい……」
仁科があまりにも気落ちしているのに、ピークスも必死にフォローしようとするのだが。仁科は何も出来ずに、何も分からず、すぐに動けなかった自分にも腹が立っていた。
「なんにしろ、飯は食っていけい」
「はい……」
連邦軍の食堂で、遅い昼飯を食べるが、なかなか箸が進まない。
ピークスもこれ以上何を言えば良いのかと、困惑していた。
その時ディグリー将軍が部下を引き連れて食堂に入ってくる。ディグリーは入り口で足を止め食堂を見渡す。すぐに仁科の姿を認めると、ツカツカと近づいて来た。
将軍に気がついた仁科は慌てて立ち上がる。
「将軍っ! 美希はっ?」
「まだ見つかっていない」
「……そうですか」
「どうやら二人を乗せた魔動車は東門から出ている」
「街の、外に?」
「うむ。……魔動車自体もまだまだ一般的じゃない。門を通れば一発で分る」
「そう、ですね……それでどこに?」
「東門からは、一つの街にしか道はない。特に魔動車は舗装された道しか進めないからな」
東門から出る道は途中までは分かれ道が無く真っ直ぐに進んでいる。その為奴らが行き先は推測しやすい。すぐに街道沿いの各街や村の駐在軍に連絡は飛ばしている。
「僕も連れて行って下さいっ!」
「いや、連合軍は軍を出さない」
「え? それって」
「今は州軍が動いている。すでに州軍が追跡に向かっている」
「州軍が……?」
ホジキン連邦は、元々小国が結びついて作られた国のため、小国時代の軍がそのまま州軍として残っている。そして州軍は警察としての役割を担い。連合軍は防衛軍としての役割が強い。ただ、ルーテナの問題は難しいところで、該当の事件があった場合、連合軍か州軍かでどちらかが動くか微妙な問題が出る。
それから、連合軍が気軽に軍を動かせない理由として、いわゆる両軍の間には、縄張りの意識があるのだ。
――どうしよう……美希……。
当然軍隊同士の微妙な関係の事など仁科にはわからない。
焦りと不安が溜まっていく。
――俺は……どうしたら……。
今日は宿舎で泊まるようにと言われ、ピークスが宿舎へ案内してくれる。食堂から出て、訓練所の横を歩いていると、奥の方に獣舎が見えた。ぼんやりとそれを眺めながら、仁科の中に決意が芽生える。
――行こう。
仁科は獣舎に向かって歩き始めた。
しばらく前を歩きながら、仁科に宿舎の説明などしていたピークスだったが、返事が無いのに気が付き、ふと後ろを振り向くと仁科が居ない。慌てて周りを見ると、獣舎に向かって歩いていく仁科の姿が目に入る。
「あーあ。まずいねい……」
慌てて仁科を追う。
仁科は獣舎にはいると、すぐに自分たちの乗ってきた獣車を探す。すでに獣車は騎獣から外されて隅の方に置いてあった。
壁を見ると、騎獣にくくりつける獣具等がかかっている。すでに騎獣に騎乗することも習っている仁科は、壁から一揃の獣具を外し自分たちのセベックに装着し始める。
後から獣舎に入ってきたピークスは必死な顔でセベックに獣具を取り付けようとする仁科に近づく。
「タカト……無理だそれは」
「この獣具……必ず返しますので」
「いや、そういう問題じゃなくてだねい」
「今、こうしてる間にも、美希はひどいことをされているかもしれない……」
「だけどなあ……」
「止めないで下さい」
「……」
しばらく黙って仁科を眺めていたピークスが、おもむろに壁に近づき、獣具を手に取る。
「ピークス……さん?」
「タカトは、まだここいらの事知らないだろい。案内は必要だろ?」
「いや、でもそんな迷惑は……」
「乗りかかった船だい。魔動車出せれば良かったんだが。あれは許可がきびしくてねい」
「ピークスさん……」
ピークスも黙ったまま空いていたセベックに獣具を装着し始める。
それを見ていた獣舎の職員が、何だと近づいてくる。
「ちょっと遠乗りの練習してくるよい」
「え? ピークスさん。許可は?」
「まあ、帰ってから取るわい。代わりに休暇申請も頼むない」
「マジっすか……」
「急いでレーション取ってきてくれ。二人分と二匹分だ」
「へ?」
「頼む……」
「は、はい」
ピークスの顔を見てその職員も押されるように首を縦に振る。そしてピークスに頼まれて野営用の食事を取りに走った。
「奴らは東門から出た。魔動車はどうせ次の街で止められる。連絡はしてあるからな。とりあえずそこまで行けば納得するだろい?」
「は、はい」
「じゃあ、行くぞい」
手間取る仁科と違って、手慣れたピークスはあっという間に獣具を付け終わり、仁科の手伝いをする。持ってきてしまったボストンバッグも手際よくセベックの背中に括り付ける。
「良いかい。セベックは持久力はあるが、連続で走り続けれるのは精々5時間だい。そのくらい走れば日も落ちる」
「はい」
「暗闇では野営するぞい。走り通せてもセベックが壊れる。そしたら元も子も無いからない」
「はい」
すぐに獣舎の職員が携帯用の食料を持ってきて手渡す。二人は各々自分たちのカバンにそれを入れる。
「とりあえず、ドストの街までは騎獣なら明日中には着くけ。ちゃんと付いてこいよい」
「ありがとうございます」
「礼など言うない。ただのバカンスだい」
こうして、仁科は桜木を追ってカプトの街を出発した。
※ピークスがこんなに頑張ると思わず変な口調をつけたら、いっぱい出てきて大変w
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