第83話 旅の道連れ


 重人がディザスターを壊滅させてしばらく経った頃。ドゥードゥルバレーの州軍の詰め所に重人が呼ばれた。


「ああ、シゲト先生お呼び立てしてしまい申し訳有りません」

「ヤーザックさんそんな事気になさらずに……」

「そうだぞ。お前はもっと胸を張っていればよろしい」

「ス、スペルセスさん、それは……」


 ヤーザックの部屋にはヤーザックとスペルセス、もう一人見たことのない兵士が居た。なんだろうと見ていると、その兵士が深々と頭を下げると1枚の手紙を差し出す。


「これは?」

「はっ。ホジキン連邦リーフマン大統領よりの親書でございます」

「だっ大統領!?」

「はい! シゲトクスノキ様への連邦締結150周年記念式典への招待であります!」

「式典……それは。どこで?」

「連邦の首都マニトバであります」

「マニトバ? オビルド州の?」

「はい」


 確かに連邦の記念式典であれば連邦所属の天位である俺も出るべきだとは思う。しかも連邦の成立150周年だ。かなり式典としても重要なものなのは分かる。

 俺はちょっと困ったようにスペルセスの方をみる。


「だめだぞ。それは断れん」

「……やっぱり。スペルセスさんも参加されるんですよね?」

「そりゃあまあ、連邦の賢者だからなあ。面倒なことだ」

「スペルセスさん!」


 スペルセスの言葉にヤーザックが困ったように諌める。それでも行かなければならないようだ。その場で手紙を開け中を確認する。伝令の兵士の言うように式典への出席を求める親書だった。それと式典の前に俺の正式な連邦軍の入団式を行うという事だった。

 どうやら、公式な護衛として君島も登録してあるようで、2人で出席するようにと書かれていた。


「君島も出席するようにとなっているみたいなんです」

「ユヅキは天位護衛騎士として登録してあるんだろ? 当然だな」

「やっぱりもう登録済みなんですね。仁科と桜木はどうしましょう」

「あの2人はまだ州軍だからなあ。ミキが七階梯で天位に成れば面白かったが、なかなかキビそうだしな。8階梯となると、1年は掛かりそうだわ」


 たしか、ディザスターのカートンは8階梯で天位に届いたという。それはかなり凄い話だと言うが、桜木はかなりそれに近いようだ。それに実情魔法士のランキングは低くなりがちらしい。

 ランキングに反映される能力は、階梯を上げた際の神からのギフトの能力のほかに、元々の素の力というのも反映されているという。その素の力に関しては魔力に関してはあまり個人差が無く、筋力などの肉体的な能力の差がかなり大きいらしい。

 そのためカートンの様なワーウィック人というのは体格も大きく、他の人種と比べても下駄をはいているくらいのベースになるらしい。

 大抵の上位ランクの人達は、単純に近接だけ、魔法だけというタイプは少なくなり、近接も魔法を組み合わせた攻撃を行う者が殆どに成る。


 そういった目で見れば、近接戦闘に関してなかなかやる気を見せない桜木の伸びがもう一つ少ないのがスペルセスとしては不満らしい。


 とりあえず、首都に行くことを了承するが……。


「仁科と桜木も一緒に行って良いのですか?」

「うーん。あの2人は招待されていないからなあ。扱いも今は州軍だから今回は留守番だろうな」

「そうですか……」

「州軍の人間が他の州に出向くのは少し面倒な手続きが多くてな。連邦締結前からの古い慣習が残っているんだ」

「なるほど……」



「え~!!! やだあ。行く! 私も行きたい!」

「おおい……俺だって行きたくて行くわけじゃないんだぞ、仕事だからしょうがないんだ」

「でも。私だって首都に行きたい! ずるい。先生と先輩ばっかり!」


 ビトーの宿に戻り伝えられた話を三人にすると、案の定桜木が一緒に行きたがる。確かに旅行といえば旅行だが、一応は仕事で行く形だ。この機会にちゃんと連邦軍への入団式のようなものも執り行う訳だし。俺と一緒に君島も連邦軍へ入団する為、君島だって今回の旅行は大事だ。


 ディザスターの事件以降、俺を狙ったような冒険者は来ていない。ブライアン達やパペットマザー達が大袈裟に情報を流してくれている効果がちゃんと出ているのだろうと思う。だが、実際に自分が人の多い所に行くと、狙われないかと言う不安が無いわけじゃない。


「美希は少し大人になれよ」

「だって鷹斗君だって行きたいでしょ? なに我慢してるのよっ!」


 知らないうちに2人はだいぶ距離感が近づいている。と言ってもまだ恋人同士というより兄妹のような雰囲気が無いわけじゃないが。しっかり者の仁科と天然な桜木で割といい組み合わせじゃないかと見ている。


「もういい! ヤーザックさんに直談判してくるっ!」

「お、おい……やめとけって」

「ふん。許可出ても鷹斗君の分の許可はもらってこないからね!」

「おーい」

「美希ちゃん……」


 桜木は憤慨したままビトーの宿から出ていく。厨房で俺たちの食事の用意していたビトーも一体何を揉めているんだと、不思議そうな顔でみつめていた。


「ご、ごめん。ビトーちょっと出てくる」

「あ、うん。昼飯は?」

「それまでには戻るよッ!」


 俺は慌てて桜木の後を追う。


 結局、ヤーザックの前に俺たち4人が勢揃いして話をしていた。やはりというか、ヤーザックは困ったように必死に桜木を説得しようとする。スペルセスもすでに居なかった為、桜木の暴走を止めるすべはない。


「し、しかしですね。ミキさんはまだ州軍所属なので……」

「で、でも。こっちに来てから私ずっとドゥードゥルバレーから出てないのっ」

「はぁ。そ、そうですよね……では……ヴァーヅルまで一緒にというのは……?」

「えー。デュラム州から出ちゃだめなんですかあ?」

「一応ミキさんは州の軍人なので、州をまたぐには色々と……」

「で、でもっ! スペルト州は? あそこは都会だったし。ヴァーヅルじゃつまらない」

「うーん……」

「ほ、ほら。ディグリー将軍にも色々とお礼を言わないといけないの」

「でぃ、ディグリー将軍、ですか? お知り合いなので?」

「うんうん。カミラ将軍を紹介してくれたのがディグリー将軍なのっ! あー。先生と先輩を助けられたのに、ディグリー将軍にお礼を言えないなんて……無礼千万でしょ!」

「ううう……」


 ヤーザックがお腹を擦りながら必死に悩んでいる。あれは……きっと胃が痛い中間管理職の顔だな。なんて思いながら仁科に回復魔法をかけてあげるように言う。

 そうしながらも、俺も君島も桜木の気持ちが分かるし、あまりヤーザックのフォローをしてあげれていない。仁科だって、内心は旅行に出たいのだろう。だいぶ馴れ馴れしく、強引にヤーザックにお願いする桜木を放置している。

 俺は心のなかで深く頭を下げる。

 

 結局仁科と桜木は、スペルト州の州都に行くことの許可を貰えた。しかもビトーまで連れて行く許可を取る。かなりのごり押しだが、子供たちに外を見せてあげたいという俺の希望もあり、結果オーライだと思ってしまっている。

 ちなみに俺たちはそこで別れもう一つ先のオビルド州にある連邦の首都マニトバまで行く。そこで入団式から150周年の式典まで約一ヶ月近く滞在することになりそうだ。


「先生。新婚旅行ですね」

「え? いや。結婚はまだしていないからなあ……」

「じゃあ、婚前旅行ですね」

「え? いや、まあ……」

「ふふふ。楽しみですね」

「あ、まあ。うん」


 君島のテンションもなんか異様に盛り上がっていた。






※あれ? って思った方。はい。多分正解です。「カートン」の階梯。以前は7階梯にしておりましたが、色々と不具合がありそうで8階梯に修正してあります。書いているとそんな事もあります。

うん。さて。3章始まりましたね。なんとなく。

読者数が増えまくってビビって、簡単なプロットを考えました。脳内のイメージをメモしただけな感じですが。うん。ということでちゃんと進められると思います。

よろしくお願いいたします。

そして、公私ともに忙しく、ストックがあまり出来ておりません(涙)

ちょっと途中止まったりするかもしれませんが、生暖かい目で見守りください。

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