第三章 ルーテナ 前編
序
吹きすさぶ風に乗り、赤茶けた砂が舞い上がる。生物が居るのかも怪しい、そんな岩ばかりが目につく枯れた大地に2人の男が向かい合う。
独りは瀟洒な衣服に身を包み、長めの金髪を無造作に後ろで束ねていた。腕に刻まれた神民カードの紋には「13」の文字がこれみよがしに刻まれていた。
男の名はロシュフォール・ミディア。大天位には届かなかったが紛れもなく世界を代表する天才の1人だった。
その向かいに立つ男は漆黒の髪を短く刈り上げ。髪と同じような真っ黒な服に身を包んでいた。
男の名はディベル・ベデット。彼もまた天位であった。だが、そのランキングは62位。ロシュフォールにはわずかに及ばない。
「良いんだな?」
「ああ、雷槍のロシュフォールと戦えるんだ。これ以上の何を願う」
「……約束は守ってくれるのだろうな」
「任せておけ。お前が死んだらお前のフィアンセは俺が一生守り通してやる。それが条件だったな」
「そうだ。そして俺が勝ったらお前の持つアッキャダを俺が使う……」
ロシュフォールの言葉を聞くと、ディベルはカバンから一本の瓶を取り出す。それをロシュフォールに見せるとそれを再びしまう。そのままカバンを近くの枯れた木の枝に引っ掛けた。ロシュフォールはその動きをじっと見つめる。
「俺が死んだら好きに飲め……」
「そう、させてもらう」
「だが負けるつもりも無い。能力値が強さの全てじゃない」
「それも分かっている。可能であれば俺だって大天位に挑みたいさ」
「……ふ。お前と酒を飲まなくて正解だったな」
「ああ……情に流されるところだった」
ディベルが長剣をはらりと抜く。剣まで真っ黒だ。それを見てロシュフォールが槍を構える。精緻な装飾が刻まれたその槍はロシュフォールの名と共に世界に知られた名槍「ゲイ・ボルグ」だ。
ビリ……ビリ……。
槍に雷の魔法がまとい始める。プラズマの熱で徐々に槍先が赤くなり始める。雷槍と呼ばれたロシュフォールの絶技だ。
一方のディベルの周囲には風が渦巻き始める。赤茶けた砂が混じったつむじ風があたりに現れる。
「夜嵐……噂には聞いている」
「落胆はさせぬ」
2人の天位が同時に動く。
天位同士の戦いなど、中々見られるものではない。己の人生のすべてを強さを求めることに注いできた男たちは、永遠に止まれない。何の因果か天の采配か、こうして2人の獣の思いが交差する。
出会う場が違えば。出会う時が違えば。もしかしたら2人は人生の友として永遠の友情を誓えたかもしれなかった。否。既に2人の心は通じ合っていた。
だが無情は世の常なり。2人はこうして出会い、互いの事情を背負い刃を交える事となる。
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