第75話 ブライアンの企み
朝日の出とともに皆が起きると、早速ディクス村へ行く話になる。
「ここからはどのくらいの距離なんだ?」
ブライアンの問いにヤーザックが地図を広げて説明する。
この広めの空間は、道が塞がれてしまっているが、ここから東の方へ行く道があったらしい。舗装も全部の道が出来ているわけでもなく、固く踏み固められただけの道も多いようだ。
そしてディクス村までは、もう少しあるようだ。君島もなんとなくは覚えていたが、あの時は奇声を上げながら走っていくハイオーク等を後ろから追っていったりしていたため、実際の距離がどのくらいあるのかは自信がなかった。
ゆっくりと進んでいくと、遠くの方に村の壁が見えてくる。まだ距離はだいぶあるが、先を行くブライアンが手を上げ、皆を止める。
「しょうがないな。俺が中の様子を見てくる」
「良いのか?」
ブライアンの提案に。ヤーザックが申し訳無さそうに聞く。
「こう見えてランキングも100位代なんだぜ。任せておけ」
「100位代??? す、すごいな……分かった。だが無理するなよ」
「分かってるって」
おそらくこの集団の中の近接職では最もランキングが高い。本人も自信あり気なようなので、ヤーザックもここは任せることにする。他の皆も了承する。
「気をつけろよ」
「おう、任せろ」
キースがブライアンに声をかける。ブライアンは周りの人間に気付かれないように仲間の2人に軽くうなずく。
そのままブライアンが村に向かってそっと近づいていった。
……
……
残された者たちはジッとその後ろ姿を見つめる。
その後ろで、キースとミックが目配せをして、少しづつ後ろに下がろうとする。
「ブライアンさんってかっこいいですねー」
「え? なっ何???」
すっと隊列から離れようとした2人に、桜木が興奮気味で話しかける。突然のことに2人はしどろもどろに答える。
「ブライアンさんってエルフみたいですもんね。イケメンで、ランキングもすごいじゃないですかっ! モテモテじゃないですか?」
「お、おい美希っ!」
張り詰めた空気の中でのんきにしてる桜木に、仁科が慌てて注意をする。
「えー。だっていいじゃん。エルフに、お兄さんはハーフリング?」
「は、ハーフ??? いや。俺はホーブス人だ」
「おおう。やっぱり少しづつ名前が違うんですね」
こっそりこの場から離れようとした2人だったが、桜木のせいで動けずに居た。こっそり身を隠すという悪事をバレないように隠そうという心理も働き、それからも桜木の脳天気な質問に必死に答えようとしてしまう。
「ドラゴンって見たことありますかあ?」
「無い無い。ドラゴンなんかに出会って生きてるやつなんて居ないと思うぜ、なあ?」
「あ、ああ。人里にドラゴンなんてめったに来ないしな」
「へえ、ガジェルムさんのロック鳥みたいに、私もドラゴンに乗ってブアーって飛びたかったのになあ」
「ドラゴンに乗る? いやいやいや。無理無理」
おそらく今までの道中、ブライアン達は距離をとっていた感じがあり、話は出来なかったが、その魔物を仕留める手際など、桜木が見てて感動していたようだ。今回ブライアンが皆のために偵察を買って出た事で急に親近感が湧いたのだろう。話が止まらなくなる。
そんな終わりの無い雑談に段々と2人も危機感を感じだす。
「わ、悪いちょっと用をたしたいんだ」
「あ、俺もちょっと用をたしたいかも?」
「お、はいはい。お花摘みってやつですね。行ってらっしゃい」
ようやく理由をつけて集団から離れようとしたとき、遠くで地響きのような音が聞こえだした。
「な、なんだ???」
「お、おい……」
やがて、先頭を走ってくるブライアンの後ろに大量のハイオーク達が目の色を変えて走ってくるのが見えた。それを見て真っ先に反応をしたのがガジェルムだった。
「くっそ。見つかりやがって! かなり居るな。魔法職は遠くから勢いを殺すぞっ。爺さんも頼むっ!」
「爺さんって言ったか?」
「あ、スペルセス先輩……」
「まあ、良い。指揮を任すぞ」
「わ、分かりました。じゃあミキも加われっ! 近接は魔法を撃ったのを見たら突っ込め。キース! ミック! そんな後ろに居るんじゃねえ。おめえらはベテランだろ!」
「お、おう……」
さすが王朝の魔法士師団で人を率いるのになれている男だ。周りを見ながらテキパキと指示を与える。その勢いにミックとキースも従わざるを得ない。
「アムルさんも魔法だろ? 頼むぜ」
「わ、わかってるっ!」
とは言え雄叫びを上げながら走ってくるハイオークは圧が強い。歴戦のアムルでも怯む思いだ。
これは手を抜いたら大変だと思ったのだろう、スペルセスが自分のカバンから一本の小ぶりの杖を取り出し桜木に渡す。
「もう隠さなくていい。お前も魔法を使え。これを使うと威力が底上げされる」
「おおう。魔法のステッキですねっ! 爺さん!」
「爺さんじゃない!」
先程のガジェルムのやり取りを見ていたのだろう、桜木もスペルセスを爺さんと呼ぶ。だがスペルセスは爺さんと呼ぶなと文句を言いながらも何やら嬉しそうな顔だ。
「すまん! 見つかった!!!」
そうこう言っている間にハイオーク達が近づいてくる。ランキングが高いだけあり、走るスピードはハイオーク達よりも早い。先んじてブライアンが叫びながら、待ち受ける隊列の中に飛び込む。そしてそのままスピードを落とさずにグループを置き去りにしようとしたとき。隊列に申し訳無さそうな顔をして剣を構えるキースとミックの姿を見つける。
――な、なんで、いるんだっ!
何が起こっているのかわからないままブライアンは急制動をかけ、足を止める。流石にこのハイオーク達の中に仲間たちを置いてけぼりにするわけには行かない。
――くっそ。バレたのか?
そして、前に立つ魔法士達の後ろで突撃するタイミングを待つ仲間たちの横に立つ。
(すまん……出れなかった)
(くっそ。おめえら後で覚えてろっ)
「来るぞっ!」
ガジェルムの声で魔法士達が一斉に魔法の準備を始める。
「いっぱい虫眼鏡!!!」
必殺技をと、桜木が考えに考え抜いた魔法を発動させる。桜木の頭上には何個もの虫眼鏡が形成され始める。初めて渡された魔法の杖の効果も十分だ。本人が思っていたよりスムーズな形成が行われ、その効果に桜木は思わず顔がにやける。
横ではアムルが巨大な火の玉を、ガジェルムの上には雷球が出来上がる。貯めのモーションの無いスペルセスとヤーザックはぐぐっと各々の杖に魔力を集める。
「撃て!」
種々の魔法で轟音が鳴り響き、先頭に立つハイオークが吹き飛んでいく。あまりの威力にオーク達もその足を止める。立ち上がる土煙の中リーダーらしきハイオークの叫び声が上がり、他のハイオーク等の応えるような唸り声があたりに響く。
だが一度死んだ勢いを見逃すガジェルムでもない。ガジェルムの掛け声と供に、脚が鈍ったハイオーク達に近接職の面々が突っ込んでいく。
緊張の面持ちの君島と仁科もベテランの冒険者たちについて走り出した。
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