第72話 それぞれの思惑

※人が増えすぎて訳わからないとの事なので、少し整理になれば。


ブライアン。キース。ミック →階梯上げを理由にやってきた冒険者3人

アムル。ベンガー →ディクス村出身の父親の村を見てみたいとやってきた夫婦。

ガジェルム・ドーン →グレンバーレン王朝の魔法士 賢者にして97位の天位

スペルセス →ホジキン連邦の賢者

マイヌイ →ホジキン連邦の騎士 響槍姫 

レグレス →謎人間

ヤーザック →デュラム州軍、ドゥードゥルバレーの責任者



 ◇◇◇


君島たち3人が朝、連れ立って食堂に向かうと、そこには異様な光景が飛び込んでくる。食堂の奥に見えている城壁の上に、見たこともないようなバカでかい鳥が留まっていた。


「なっ。なんだあれ?」


 遠目にもその異様なサイズ感がわかる。3人が尻込みをしてると食堂から出てきた州兵が、あれは騎獣だと教えてくれる。どうやらアレに乗ってやってきた人が居るようだ。

 話を聞いてようやく警戒を解いた3人が食堂に行くと、初めて見かける男がヤーザックと食事をしていた。


 男は肩までありそうな長めの金髪に、くすんだ緑色のローブに身を包んでいた。食堂に入ってきた俺たちに気がつくと、隣に座るヤーザックに嬉しそうに何かを聞いている。尋ねられたヤーザックが観念した様に何かを答えると、男は立ち上がり3人に近づいてきた。


「おう。はじめまして。俺はガジェルム・ドーン。よろしくな」


 こういう時は大抵仁科が前に出る。本人としては自分が男だから。なんて事を思っているのだが、実は先輩が居るだけにこれで良いのかは本人も悩んでいたりする。


「はじめまして、僕は仁科鷹斗と言います」

「うんうん。知ってるよ、後ろの2人はサクラギとキミシマだろ?」

「え?」

「ははは。俺はウルク魔法士団に所属してる」

「えっと、ウルク?」

「ん? そうかまだ知らないか。グレンバーレン王朝の魔法士団だ。トモキから聞いてな」

「トモキ……えっ! 池田先輩???」

「そうそう、イケダ。トモキイケダだ」


 確かに池田は、3年の先輩たちとは別の国に行くことを決めた。それがグレンバーレン王朝だったのも仁科は覚えていた。池田の名前を聞いて、君島も身を乗り出す。


「池田君は? 元気にしているんですか?」

「ああ、元気にしているよ。毎日訓練でヘトヘトかもしれないけどね」

「そっか……ありがとうございます」

「うん」


 一緒に転移してきた仲間の動向を教わり、3人はすぐににガジェルムに馴染む。そのまま朝食も一緒に食べていると、スペルセスとマイヌイが食堂に入ってくる。それを見たガジェルムが気まずそうな顔になる。


「げっ」

「げってなんだ、げって」

「いや、何でもないです。先輩もお元気そうで」

「……ふん。こんなところまで何しに来た」

「いやあ、ちょっと新しい天位が気になったもので」

「王朝にはやらんぞ」

「いやいやいや、そんなんじゃないですって」


 この世界では、4年に一度、賢者会議という催しがケイロン魔法学院で行われていた。何か実務的な話をするというより同窓会的な意味合いも強いのだが、同じ賢者という事でスペルセスとガジェルムは面識がある。この世界でケイロン魔法学院は最高学府的な意味合いもあり、成績には魔法力などはあまり加味されない。それだけに、賢者は力より知を求められ、こういった会議も国を超えた平和的な付き合いが続いている。


 すると、スペルセスが何かを思いつきニヤリとする。


「そうだ、ガジェルム。良いところに来たな」

「……な、なんでしょうか」

「今日街に来ている冒険者たちがここより奥のディクス村へ行くらしいんだ」

「はあ」

「そこらへんには上級の魔物も多く出るらしくな。そろそろこの子たちにも上級との戦いをさせたいんだ」

「いやあ……それは……」

「冒険者たちも一癖二癖ありそうでな、もう一人優秀な護衛が居たらと思ってな」

「えー」


 国は違えど学院同窓のヒエラルキーは盤石だった。めんどくさいと思いつつも大先輩を前にガジェルムは断れない。そして、それを横目にヤーザックは溜飲が下がる思いでニヤニヤと見つめていた。


「ま、頑張れよ」

「何を言ってる。ヤーザック。お前も来るんだぞ」

「は???」


 賢者でなくてもヤーザックも学園の後輩であった。スペルセスに抗うすべはなかった。




 ……


 ベンガーとアムルの夫婦は、実はディクス村とは全く縁はない。ジーべ王国で冒険者をして生計を立てていた。火の魔法を操るアムルと、豪腕怪力のベンガーのコンビは2人だけのパーティーだったが、白昼級の冒険者として地元では鳴らしていた。


 ドゥードゥルバレーまで来た理由は1つだった。旦那を天位にする。そのためにやってきた。


 アムルは夫ベンガーの実力には自信を持っていた。魔力関係が少し弱いためランキングでの能力判定は弱めだったが、身体能力は並外れていた。元々700位程の順位だったが、2年ほど前に冒険者同士の諍いで当時512位の他の冒険者を返り討ちにした。200位程度の置き換わりだったが、3桁代での200位アップはそれなりに大きい。

 当然、ギルドでの依頼料のベースも変わり、収入が増える。それなら天位になんてなったらどこまで儲かるのだろう。そういう考えに至るにはさほど抵抗はなかった。



 ……


 一方、ブライアンをはじめとする3人の冒険者達も腕に覚えの在る連中だった。元々は幼馴染の3人だ、冒険者登録も3人で行い、駆け出しのころから命を支えあった強い絆もある。

 3人は同じホジキン連邦のホラーサーン州の冒険者ギルドに所属している事もあり、カートンが階梯上げにドゥードゥルバレーに来ている情報も聞いていた。その為置き換わりが起こった話からすぐに3人は天位を取るために動き出す。


 ――ブライアンを天位に。


 9階梯で179位のブライアンは10階梯に上がっても天位の目は薄いと見られていた。それでも3人の中で抜きん出た実力を持っていた。あらゆる武器を使い分ける天性のセンスを持ち中でも得意とする双剣を持てば誰にも負けないという自負があった。特に相手は転移したてのド素人らしい。

 連邦所属になったとはいえ、天位がドゥードゥルバレーに籠もっているならやりようはある。そう考えた。


 仲間も手を貸してくれるという。他の護衛連中を抑えてもらう間に、天位を討つ。それは1つの賭けだった。



 ◇◇◇


 奥地へ行けば、先生にも会えるかもしれない。そう考えた君島はスペルセスの案をすぐに受け入れる。仁科と桜木も中級の魔物に苦労をしなくなってきたため行けるかもしれないと了承する。


 準備を終えた3人が街の門へ行くと、既に冒険者たちが集まっていた。しかし即席のパーティーという事もあり面識のない面々が方々に固まってお互いをチラチラと意識しあう状態だ。

 そんなお互いにギスギスした空気の中、スペルセスが声をかける。


「あー。君たちの階梯上げの邪魔はなるべくしないようにするから安心したまえ。とはいえ上級だ。危険があればいつでも手を貸そう」

「やっぱりあんた達も来るのか? 命の保証は出来ねえぞ?」


 連邦所属の天位を狙うブライアン達にしてみれば、連邦の賢者や騎士が居ることは邪魔以外に無い。とはいえ階梯上げという名目を捨てるわけにも行かない。渋々ながら受け入れざるを得ない状況になる。


「大丈夫だ、ちょうどガジェルムが来てくれたからな、子どもたちの護衛は足りてる」

「……」


 そう、更に厄介なのはガジェルムだった。賢者と天位の称号を持つ男の存在はより動きに制約をかける。本人はたまたまここに来たと言うが、おそらく王朝の人間として天位の実力を見に来たのだろう事は予想できた。


 ――あとは、パペットマザーをどう使うか……。


 ブライアンはベンガーとアムルの素性を感づいていた。操り人形のように旦那を動かしている様を揶揄し、「パペットマザー」と名付けられた冒険者。それがまさにアムルだった。おそらくアムルも自分の旦那を天位にするためにここに来ている。

 それをどう使うかが勝負の分かれ道だと考えていた。


 そしてもう一人、行商人の護衛に来ていた冒険者が参加していた。なんでも行商人の荷獣車の車輪が壊れたらしい、治るまで少し時間がかかるということで暇だから参加したと言ってきた。


 スペルト州の冒険者らしいが、見覚えもその名前も聞いたことも無い。特に強そうな感じもしないが、一人で護衛任務を受けられる位の実力はあるのだろう。警戒度としては未知数だ。


 ――くそったれ。


 思い通りに行かないブライアンは、苛立ちを抑えるのがやっとだった。


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