第66話 スペルセス組


「で、……天戴は、光魔法だったな」

「美希ですよ。光ですよー」

「おおう、すまん。最近人の名前を覚えるのが苦手でな。ミキ。ミキ。ミキ……うんうん」

「ミキミキでも良いですよ」

「ミ、ミキミキ???」

「ははははは」


 重人がレグレスと階梯上げの為に奥地へ向かい、残された3人は、スペルセスとマイヌイの2人から指導を受けながらのトレーニングを始める。


 スペルセスは桜木の現在使える魔法での戦い方を見たいという。当然教える立場の人間としてはまずは生徒の実力を知ることから始めるのは当然だ。

 それから3人で一緒に行動することで、階梯上げについても効率が悪くなりそうだと、マイヌイが仁科を連れて少し離れた場所に向かう。




 桜木がスペルセスに言われるままに、新技の「虫眼鏡」を披露する。この世界にも拡大鏡というものは在るが、賢者と言われるスペルセスでもそれを光魔法のイメージとして使うのは見たことがなかった。


「なんと……」

「どうです? えへへへ」

「うーん……しかし、攻撃スピードに長じる光魔法の特性を考えると、拡大鏡を作り上げてからの攻撃は、……うーむ」

「えー。駄目ですか?」

「いや、攻撃力はありそうだからそれはそれで良いと思うが……」


 自信満々の桜木とは違い、その攻撃を見てスペルセスは悩む。それはそうだ。最速の光魔法を貯めの多い使い方をするというのが魔法学上、悪手と見られる。だが、スピードに特化した分、威力が弱めになると言われている属性傾向の欠点を補う利用方法に駄目とも言えない。


 まずは、その魔法を使いまくり、展開スピードを上げていくことをしてみることにする。



「ユヅキは、樹木だったね?」

「はい」

「攻撃に使うことはしているのか?」

「いいえ、特には……離れたところの樹木を遠隔で操作できないかと言われて練習をしているんですが……」

「それは、レグレスかね?」

「あ、はい」

「ふうむ……」


 しばし考え口を開く。


「樹木魔法の遠隔操作は理論的には不可能じゃない。だが段階としては少し早いな」

「早い?」

「うむ。もう少し魔法というものに慣れて、その造詣の深みにて掴み取る物だ。レグレスはおそらく直感的にそういった物を行うことが出来るのであろうが、段階を踏んだほうがよいだろう」

「……わかりました」


 実際、君島はレグレスのアドバイスで樹木の遠隔操作の練習をしていたが、その感覚すらいまだに掴めないでいた。魔法学校で魔法の基礎から身についているスペルセスのやり方の方が間違いなく正しいのであろう。


 スペルセスは、魔物が現れたら桜木に始末をするように言うと森の中に生える木々を見繕いだす。


「やはり、使いやすいのは蔦かの」


 そういうと、木に巻き付いていた蔦を引っ張り剥がすと、巻きヒゲの部分をちぎる。それを数本集めると君島の元に戻ってきた。

 そのままその巻きヒゲを器用に編み込んでいく。


「腕を出しなさい」

「こう、ですか?」


 言われるままに手を出すと、編んだ巻きヒゲを君島の腕に括り付けた。


「ミサンガだ!」


 興味深そうに見ていた桜木が声を上げる。確かに細い巻きヒゲを編んだそれは、ミサンガに見えなくもない。「ミサンガ?」そう聞き返すスペルセスに、君島が日本でそういう装飾品があったという話をする。


「なるほどな。まあ、現実問題それに近い意味合いで着けてるものはこの世界にも多いぞ」

「そうなんですか? でも生モノだと枯れちゃいますよね?」

「樹木魔法の適性のある者がこれを身に着けていれば装着者の樹木魔法を吸うからな、いつまでも枯れることなく状態を保つことが出来る」

「おお、じゃあ私も出来ますか?」

「ん? ミキも樹木魔法の適性はあるのか?」

「え? あ。ダメだったかも……」

「じゃあ、無理だろうな」


 付けられた蔦を君島が不思議そうに見つめる。確かに装飾品として自分に触れていれば樹木の魔法を通してこの青々とした状態のままで居ることは出来そうだ。しかし、それが何を意味するのかが分からなかった。何かの訓練なのか。


「わからんか?」

「はい……」

「生きている植物がそこにある。そこに魔力を通せば――」

「あ!」

「分かったようだな。そう、そこからツルを伸ばし、望むことを行う。その植物の特性を生かし、用途用途で様々なこのプラントリングを身に着けることでその植物の狙った効果を生み出すことが出来る」

「なるほど……」


 さすがに魔法学校を首席で卒業しただけはある。自分の得意とする属性以外の魔法への造詣も深かい。君島が腕のプラントリングに意識を向けると確かに繋がる感覚を得られる。さらに魔力を流し込むとニョキニョキとツルが伸びていく。


「おお~。先輩かっこいいですね」


 それを見て桜木も興味深そうに覗き込む。

 感覚が分かったのだろう、君島が前方に腕を伸ばすとシュッと伸びたツルが先にあった木に巻き付く。しばらくその感覚を確認すると満足したように桜木の方を見てニコッと笑う。


「ふふふ。良いでしょ♪」

「なんかオシャレですー」


 普段、樹木の魔法を使うように魔力を操作することですぐに伸びたツルも枯れるようにボロボロと崩れていく。そして、腕に結ばれたプラントリングは元のように腕輪の状態になっている。それを確認すると嬉しそうにスペルセスに向き直る。


「ありがとうございます、これ、とても便利ですね」

「ふむ、大丈夫そうだな……かつて仇毒と呼ばれた樹木魔法の使い手がおってな」

「仇毒?」

「そう、禍々しい呼び名をつけられたものだが、世の中のあらゆる毒草のプラントリングを体中に纏い、多くのランカー達をその毒で下した。そしてその当人も長年毒草を身に着け続けることで、いつしか体に溶け込んだ毒でその身を滅ぼしたという」

「そんな……」

「だからな、身にまとうプラントリングは良く選べ。そして樹木魔法がより己の身に馴染めば、あるいはいつしか遠隔での操作が可能となるだろう」

「はい」

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