第41話 天堕ち ~その時世界は~

 カートンの天堕ちは瞬く間に世界中に広まる。世界中の神殿では天位者の名前が掲示してある。早朝。掲示版を修正する神官達の動向はすぐに人々の知ることとなる。


 カートンは「ワーウィック」と呼ばれる屈強の戦士たちがやってくる世界からの転生者だった。その中でもひと際高い実力に仲間たちも階梯と共にもっと上に上がれる人材として期待されていた。

 本人は国家等に所属するつもりなど無く、そういう者たちは自分たちを「原生林の葉っぱ」、いわゆる「ジャングルリーフ」と呼ばれる、天位の3割が「ジャングルリーフ」と呼ばれる立場に居たが、その中でもカートンは8階梯で天位を取ったというのも注目される理由であった。まだ天井まで2つも階梯を残しての天位。将来性もピカイチだった。

 



~ヴァーヅル~



「姉御ッ! たっ大変ですっ!」

「姉御じゃねえよっ! 将軍って呼べって言ってるだろっ!」

「そ、そんな事より。先ほど神殿の方で、ランキングが……」

「ランキング? ……どうした?」

「その、カートンが……消えました」


 ランキングの変動は無いわけではない。その時々によりランキングの順位を争うような戦いも起こる。ただ、天位者の多くは何らかの組織に所属し、その看板的な戦士として存在している。そうそう順位を上げたいからと言ってそんな者に戦いを挑めるような環境ではない。

 カートンは一介の冒険者ではあったが、「ディザスター」という血盟に所属し、血盟の第二席として一般に知られていた。その悪名高い血盟を前にして戦いを挑めるものなどそうそういないだろう。


 天位の変更は、天位に近い者が階梯を上げることで順位を大幅に上げるという事があるといえばあるのだが、今回、カートンはランキングから姿を消した。カートンの前にそういった階梯を上げて能力が上がった者が入ることはあっても、その時は順位が1つ下がるだけで消えることは無い。


「……魔物にやられたか」

「いや、それが、どうやら何者かにやられた様で」

「なに? 置き換わりか? 誰だ? うちの者か?」

「いえ、誰も聞いたことが無い名前でした。クスノキ シゲト と……」

「知らんな……ん?」


 まったく心当たりのない名前に考え込むが、ふと思い出す。今回人を探しに来た転移者いることに。いや、しかしこの世界に来たばかりだ。ありえるのか?


「まさか……タカトとミキはどうした?」

「階梯を2つ上げ終えたんで今朝ドゥードゥルバレーに向かいました」

「くっ。タイミングが悪いな。だがもしかしたら朗報かもしれん、誰か向かわせて確認を取らせろ」

「がってん!」


 がってんじゃねえよ。そんな事を考えながらカミラは部下が部屋から出ていくのを見つめる。


 ――置き換わりだと? ……転移してきたばっかりだぞ?


「フレーベ! ちょっとまてっ!」

「な、なんすか?」


 ドアを閉めようとした部下が呼び止められ慌てて顔を出す。


「あたしが行く。準備をしな」

「え? 姉御が?」

「将軍って言えっていってるだろうが!」

「が、がってん!」


 この世界で生まれ育ったカミラでも、そんな話は聞いたことはなかった。万位程度のゴロツキが返り討ちされる事ならいざしらず、天位だ。置き換わりをしたということはしっかりとお互い実力を出しての結果だ。不意打ちや毒殺などで殺したとしても置き換わりが起こらないのがこの世界のランキングだ。きっちりと神が見ている。


「タカトとミキと一緒にうちに取り込めたら……いや、それも危険か」


 もしかしたら厄介ごとの種が舞い込んできたのかもしれない。カミラは深くため息をつき、出かける準備をするために重い腰を上げた。



 ◇◇◇



 ~グレンバーレン王朝~


「トモキ、ここに居たのか」

「でっ殿下! どうなされました?」

「クスノキシゲトはお前と一緒に転移してきた者だな?」

「はい……そうですが……」

「どういう男だ?」

「どう……と申されても、向こうの世界で俺たちの学校の教師をしていた人です」

「ふむ、転移時に国に入った通知でもそう書いてあるな、魔力も身体能力も凡庸な者だったが……何か武術でもやっていたのか?」

「たしか……居合という物をやっていたと聞いていますが、実力の程は見たことがないので」

「ふむ……」


 目の前で考え込むベルムスを、池田は戸惑ったように見つめる。突然楠木先生の名前が出てきたのだが、何が起こったのか全く思い当たらなかった。

 それもそのはず、一緒に転移してきた剣道部の仲間の中で池田は真っ先に転移陣でこのグレンバーレン王朝に飛んできたため、その後に何が起こったのかも知らなかった。


「楠木先生に何か?」


 池田はその守護する精霊から、王朝の所属のバーレン騎士団でなく、王家の直属のディルムン騎士団へ編入されていた。それゆえに王族であるベルムスとも度々会話をする機会があった。考え込んでいたベルムスがチラッと池田を見る。


「天位を食った」

「天位を? 食ったともうしますと?」

「87位のカートンというやつが居たんだがな、今日、そこがシゲトクスノキになった」

「……は?」


 ディルムン騎士団はこの世界でも最高と呼ばれている人材が集まる騎士団だった。天位者もランキング2位である「那雲」の呼称を得るウーリッチを筆頭に23名という圧倒的な人数を揃え他国に対しても存在感を示していた。、それだけに天位の桁外れさをこの一週間ほどで痛いほど感じていた。


 ――先生に何が……?




 ◇◇◇



 ~リガーランド共和国~


「堂本……目が覚めたか」

「悪い、まただいぶ寝てたか」

「ああ、やっぱお前の階梯が上がった時の能力の上乗せはやべえんだろうな、俺たちじゃ数時間というところだが」

「ん……無事に順位も上がってるな。だが二つあがって1万をようやく切ったくらいか、まだまだ上げていかないと……ん? どうした? 辻」


 堂本が順位の話をすると、辻と佐藤が顔を見合わせて複雑な表情を浮かべる。


「ああ……実はな、天堕ちというのがあったんだ」

「天堕ち?」

「100位以内の、天位が戦いに敗れて順位が置き換わることを言うらしい」

「天位がか、それがどうした?」

「それが、その天位を倒したのがな……楠木らしいんだ」

「楠木?」

「そうだ。あいつが、天位に上がってる……」


 宿で堂本が寝ている間に、辻と佐藤は依頼の品の提出に冒険者ギルドへ行った。その時、ギルド内が妙にざわついていた。受付嬢にどうしたのかと聞くと、天位の一角が落とされたという話だった。

 さらにそれを落としたのは誰も聞いたことのないような名前だということで、冒険者たちもその話でもちきりだったという。


「それにしても全く理解できない。やつは能力的にはモブだったはずだぜ?」

「……持ち越しのスキルが生きたのかもしれないな」

「それにしたって……あいつ居合をやってるって話だったか」

「そう聞いてる」

「あんな、型だけの……」

「……本物だったということだろう……」


 はじめは、天位と言っても3人には上の順位のやつを殺した位のイメージだったが、周りの盛り上がりを見ていると段々と、その話がいかに異常な話だということが分かりだす。


 ――ランク外の全く聞いたことのないやつがいきなり天位を落とした。

 ――どうやら、転移してきたばかりのやつらしい。


 だが、堂本は少し嬉しそうに二人に笑いかける。


「楠木が生きているということは、君島も生きのびた可能性も大きい。そういう事だろ?」

「あ、ああ。そうだな」

「いい話じゃないか。オレたちの目指すところは87位なんていうチンケな順位じゃない。じっくり階梯をあげて行けば、そのくらいの順位は超えられるだろう」

「そ、そうだな。モブでさえ天位を倒せるんだ。俺たちがレベル上がれば……」

「そういう事だ。守護精霊の差は確実にある、急ぐ必要もないだろう」

「ああ、楠木でさえ行けるんだ。俺たちも頑張らないとな」





※いつもありがとうございます。

異世界ファンタジーの日間ランキングで初めてトップテンに入りました。

9位という際どい場所ですが、前作でも16位くらいが最高だったので超嬉しいです。

ストーリー進めようと順位設定などかなりアバウトにしてしまっているため、細かな順位等後々調整させてもらう事もあるかもしれませんが、生暖かい目で見てやってください。

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