第47話「魔のアジト発見」

 深夜の庶民街。僕はちょっとずつ移動しながら建物に接近。一つ一つ中を探っていく。全く気が遠くなるような地道な作業であるが、人気者になるためには仕方ない。

 人目を避けつつ、闇に紛れて路地を徘徊。魔の気配を探った。

 こんなところ誰かに見られたら、また悪役認定されてしまいそうだ。我ながら怪しすぎる。

 でも、噂は本当みたいだね。夜は見事に人がいない。それだけ皆は警戒しているんだ。


 どうかな?

『おかしな魔力は感じないである』

 空振りが多いので少々作戦を変えた。敵は魔力が外に漏れないようにしている、とはシャンタルの説明だ。

『近くに寄れば感じられる』

 うん。

 路地を走り建物の裏側で、漏れないように行使している魔力を探る。素人目にも高い技術だと思う。

『ここである』

 やっとだ。今度は当たりかな?

 裏口の扉を通り抜ける。壁抜けできるんだけど、習慣とは恐ろしい。人気のない家に入り込むなんて、まるで空き巣だなあ。

 当然誰もいなかった。家具もほとんどない。結構大きな屋敷なのに。

 ここは、空き家なのか……。もったいない。

 空気が澱んでいない。まあまあ掃除もしてある。

 人の出入りがあるみたいだけど、誰も住んでいない?

『調べるである』

 うん。

 廊下にある扉を抜けると階段が下に向かっていた。

 地下があるじゃん。怪しいなあ。

『注意するである』

 石造りの階段を降りると扉に突き当たった。

『何かがいるであるな……』

 ホント~?

 夜は住民が避難している? いやいや、ここまで引っ張ってそんなオチはないでしょう。そろりとドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。

 通り抜けはやめて、扉の隙間から内部を覗く。照明の魔力もあるけど、暗視ゴーグルみたいな力も便利だ。

 倉庫――だよね? 中に入りピンク子猫も続いた。

 なんだよ。拷問道具もなければ鉄格子の監禁部屋が並んでいるわけでもない。奴隷少女を助け出す展開はまるハズレだ。ここってホントに異世界なの?

 全くの期待はずれだねっ!

『床を見るである』

 ん?

 ほこりの上に足跡が多数。それと何かを引きずったような跡がある。これぞまさに足がつくだね。

 見つけた。ここで当たりっぽいね。名探偵もウッカリだ。

 床の一部が木造で開くようになってるのか。ここから更に下に行ける。

 さて……。

 床の蓋を開けると梯子が見えた。このまま降りるのはどうかと思い、首を突っ込む。何事も慎重に。

 なんというか……。

『どうであるか?』

 地下というより洞窟みたいになってるね。結構広いよ。

『ダンジョンの一部、であるか……』

 ダンジョン?

『かつてこの地のダンジョンを制圧し、その上にあった街を整理してこの王都ハウゼンを作り上げたのである』

 へー。ファンタジー世界の設定っぽいね。

『この王都の地下には、いくつもの洞窟が存在している』

 地上に現れている開口の上に、木製の床で蓋をしたようになっている。縦穴は深さ二メートルくらいか……。

 横穴があるみたい。行ってみるよ。

『頼むである』

 跳び降りると、ピンク子猫が肩に乗った。

 広いな。

 一応周囲を確認してから、横穴へと進む。しかしすぐに行き止まりだった。

 落盤があったみたいだけど、風が流れているなあ。先があるよ。

 大きな石をちょっと動かせば、ぎりぎり通れそうだ。

 やってみる?

『すぐ戻るのである。魔の気配が動いている』

 えっ、どこに?

『上に戻るのだ』

 梯子まで引き返し、手を掛けて一気に上に跳ぶ。

 岩肌に人間の目だけが見えた。もう二つ、そして四つ。

 これは、一体……

『ここの壁全体が具現である』

 やっ、べっ!

 一気に飛び上がり、屋敷の床をブチ抜いた。一階の床に戻る。

 逃げる? 戦う? どうしようか?

『あのアバターは厄介である。逃げるである』

 穴からぶっとい触手が何本も湧き出してきた。そのまま廊下を走り表玄関の扉をぶち破って、僕は外に転げ出る。

 建物全体がブルブル震え、壊した玄関の先に密集した触手が見えた。

 参ったな。いきなり始まってしまった。心の準備がまだだよ。

 ぼちぼち敵が出てくるだけだと思ってたけど、建物全体が気味悪い魔獣の巣になっていたんだ。

 あれがボスキャラだよ~。

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