対アルガス戦
アルガスは無能ではない。
優秀な騎士だ。
少しの攻撃で怒ったり、焦ったりはしない。
冷静にダメージを見極め、問題ないと判断した。
しかし、周囲の騎士たちからはどよめきが起こる。子どもがウィリアム騎士団の隊長に一撃当てたのだ。その事実は驚くべきことだ。
アルガスを非難する声が出始める。
決してレックスは凄まじいステータスを持っている訳ではない。
そんなレックスを仕留められないアルガスの不甲斐なさに団員たちの不満が募る。
レックスは冷静だ。
頭も冴え渡っている。
おじいさまに比べれば、誰もが弱く感じる。
この騎士も強い。
簡単に倒せる相手ではないが、簡単に負ける相手でもない。
チャンスさえ作れれば、勝てる可能性はある。それまで待つ。
消極的と言われてもかまわない。
じっくり、じっくり、削り取る。
周囲の騎士たちも先日のレックスの実力は見て知っている。そのレックスの急成長に驚きを隠せない。
次第にレックスへの声援となる。
完全アウェイのアルガス。
少しの力みが出る。
そして、それが必要以上に腕に力を込めてしまう。
アルガスの体力をすり減らす。
息があがる。
レックスには疲れが見えない。
そして、それがアルガスを更に焦らす。
少しずつ、少しずつ、アルガスの動きが鈍くなる。
徐々にレックスへと形勢が傾く。
それでもレックスは戦い方を変えない。
焦らず、じっくり対応していく。
アルガスが不用意に剣を振り抜く。
その隙を逃がさない。
レックスはアルガスのすねを打つ。
防具の上からでもダメージはある。
アルガスの足運びが精彩を欠く。
レックスが左右に揺さぶる。
盾の死角を使って急反転。
アルガスの反応が遅れる。
再びすねを打つ。
バランスを崩して片膝をつくアルガス。
レックスの攻撃は止まらない。
防戦一方になるアルガスも諦めない。
必死に剣を振るう。
しかし、むなしく空を切る。
・
・
・
その後もジリジリとアルガスが消耗し、レックスの攻撃が何度もヒット。
最後には動かなくなった。
さすがにレックスも肩で息をしている。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
「よくやった、レックス。
うちの騎士と互角以上に戦えたのだ。
自信を持っていい。」
「はー、はー、
おじいさまのおかげ、
です。はーはー。」
「レックスは卒業だ。
明日は休んで、
明後日からは学校に行くんだぞ。
今日は家に戻りなさい。」
「はー、はー、
承知、致しました、
はー。」
「騎士たちは特訓が必要だね。
レックスは強くなったけど、まだ12歳だからね。そんな子どもに負けていては騎士団とは呼べないな。
これから特訓だ。
行くよ。」
その後、ダンジョンに連れていかれた騎士たちはウィルの地獄のトレーニングが待っていた。
そして、2日後。
レックスは学校に通い始めた。
既に新学期は始まっている。
父が学園に話は通してくれているので問題は無いらしい。
寮の部屋から当校する。
転移があるから、ウィリアムの街からでもすぐに王都に行ける。
「レックス、久しぶりだな。
おじいさまに鍛えて頂いてたんだろ。
うらやましいな~。」
声をかけてきたのはクレイ。
レックスと同じドラクロア家の人間で、同級生だ。リディアを祖母に持つ。
クレイは学年で首席。
戦闘職で学園では負け無し。
気さくな良いヤツだけど、レックスにとっては比較対象にされることが多いので、少し苦手意識を持っている。
「クレイも頼んだらいいんじゃない。」
「頼もうとしたら全員に止められたよ。
なんでなんだろ?」
「正しい判断だと思うよ。
おじいさまは感覚がぶっ飛んでるからね。
死ななきゃ何をしてもいいと思ってる。
身体中の骨が何度も砕けたし、手足を切断された回数は数えきれないよ。」
「すげぇな!?
それで強くなったのか?」
「それは強くなったと思うよ。
ステータスには現れない強さを教えてもらった感じかな。」
「今日は模擬戦の授業があるからな。
成果を見せてくれよ。」
「対戦相手がクレイになるとは限らないよ。」
「そうだぜ、学校をサボるようなヤツは俺がその性根を叩き直してやるよ。」
僕らの会話に割り込んできたのはオーラン。
有力貴族の息子だ。
クラスメイト。
実技では万年2位。
実力者だが、ドラクロアの壁を越えられない。もちろん、その壁はクレイのことであり、レックスのことではない。
「俺はクレイを倒すために休みの間に特訓してきたからな。レックスなら瞬殺だ。」
クレイにもレックスにも学校に入ってから一度も模擬戦で勝ったことがない。
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