第8話
いや、紺野先輩は悪くない。
むしろありがたい。
が、あまり紺野先輩と仲良くすると、後あと面倒だったりする。
(何故か、紺野先輩は1年生の女子に大人気なのだ)
でも
「ご協力、ありがとうございました」
と言って戻ろうとすると、紺野先輩に腕を掴まれて
「待て待て待て!何だよ。アンケートが終わったら終わり?用が済んだら捨てるのね……。酷いわ……私の心を弄んだのね……」
と泣き真似が始まった。
いやね、あなたと話をしていると、他の方々の目が痛いのですよ。
私が苦笑いを浮かべていると
「お前、何か言われてるのか?」
と、ぽつりと聞かれた。
「え!」
驚いた顔で紺野先輩の顔を見ると、紺野先輩は大きな溜息を吐いて
「女って、本当に面倒くせぇよな。俺はお前が面白いから仲良くしたいのに、何人かに聞かれたよ。『相原さんが好きなんですか?』って。くっだらない!」
と吐き捨てるように呟いた。
「俺は恋愛とかって興味無いし、話したいやつとは話すし、仲良くしたい奴とは仲良くする。それでお前に迷惑がかかるなら、そいつらを俺の前に連れて来い」
そう言われた。
「それで……本当に連れて来たら、どうするんですか?」
あっけに取られた後にそう聞くと、紺野先輩はニヤリと笑って
「あ?そんなの決まってるだろう?次にこいつに何か言ったら、ただじゃおかないって言ってやるよ」
そう言い放った。
あの〜、それって火に油を注ぐだけではないでしょうか?
頭を抱える私に
「俺とお前の間には何も無いんだから、お前は堂々としてれば良いんだよ」
にっこり笑ってそう言われるけど……。
「俺さ、男兄弟の末っ子なんだよな。お前は妹みたいに思ってるだけなんだけどな〜」
紺野先輩の言葉に、私は小さく微笑む。
「私も紺野先輩の事、面白いお兄さんだと思ってますよ」
と答えた。
「だったらそれで良いじゃねぇか」
そう言って、紺野先輩が私の背中を叩く。
確かに……私と先輩の間には何も無い。
何かが生まれる可能性は、ゼロと言っても良い程に絶対にないと言い切れる。
私だって、可愛がってくれる人をわざわざ避けるのも……とは思う。
「まぁ、なんかあったら言って来いよ」
紺野先輩はそう言うと、私の頭を撫でた。
「お友達もね」
って微笑んだ紺野先輩に、中村さんはぽぉ〜っとした顔で紺野先輩を見ていた。
「お友達……名前は?」
そう聞かれて
「あ!中村です!」
と答えると
「中村さんね。この後もアンケートあるんでしょう?頑張ってね」
そう言い残し、手を振って菅野先輩達と一緒に去って行った。
「カッコいい…」
去って行った紺野先輩を見ながら、中村さんが呟く。
「え?」
私が嫌な顔をして中村さんの顔を見ると
「え?だってかっこいいよね?俺の事でなんか言われたら連れて来いなんて……」
目をハートにさせて呟く中村さんに、私は引きつり笑顔を浮かべる。
「え?何で?普通、ときめかない?」
そう言われて、私はちょっと考えてみる。
考えて……
「無いな…」
って呟いた。
「え〜!」
っと驚いた顔をしてから、中村さんがふと
「そっか!相原さんには、剣道部の先輩が居るもんね」
そう言って微笑んだ。
「え!小島先輩?好きじゃないよ!憧れだよ憧れ!」
慌てる私に、中村さんはニヤニヤしながら
「はいはい。そういう事にしておきますね」
って答えた。
この時の私には、まだ「憧れ」と「好き」の違いが分からなかった。
好きでも憧れでも、ドキドキはする。
私は何処までが「憧れ」で、何処からが「好き」になるのかを考えていた。
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