第92話✤閑話:あきらのくらふときょうしつ


 さてと。

 俺は中古の幌馬車を見て腕まくりをした。

 手には作業用のゴムグリップ付きの手袋をはめている。

 幌馬車は横幅2メートル、長さ5メートル、幌の高さ3メートルの中型のものだった。

 近隣の街を行き来する専用のものだったらしい。


鑑定アナライズ


 俺は鑑定を使い、どの個所にどの長さの木材が使われているのかを調べると、魔法鞄マジックバッグに入っている高級木材をタップした。

 すると木材を加工するか否かの項目が浮かび上がり、各パーツ必要数を指定して自動加工されたものを取り出した。

 その木材全部に【防汚】【防水】【防燃】【耐久性アップ】【硬化】を掛けると、幌馬車と木材を一旦魔法鞄マジックバッグに収納し、その中で【素材換装】を選択した。

 形はそのままでほぼ新品な素材と換装するスキルだ。

 魔法鞄マジックバッグから幌馬車を取り出すとあら不思議、ぴかぴかな新品が出てきたよ!というわけだ。


「高ランク魔獣【グリムプニル】が牽いても大丈夫な強度もあるし、【耐震】もかけたので次は内装だな」


 後方の荷台口から中に入ると、先ずは【空間拡張魔法】を内部全体に掛けていく。

 幌は前方後方も覆うタイプにしてあるので、中を覗かれることはないので安心して拡張が出来るというものだ。


 大体2LDKあればいいな、とルームメイクスキルで区画を作っていく。

 俺と枢は一部屋でいいので8畳、メルトは6畳、LDKまとめて12畳、あとは風呂トイレと……。


「こんなものかな」


 とりあえず間取りも出来たので次は内装。

 基本フローリングにしてあるが絨毯も寝具も必須だからね。

 事前に枢にはこういう時の為に絨毯類、スペアのベッド、寝具、家具、クッション等を購入してもらっている。

 それを各部屋に設置して、おわり。

 現地に着くまでの間なのでとりあえず最低限あればいい。


「次はーと……」


 幌馬車が終わったので、高ランク魔獣【グリムプニル】を召喚する。

 この魔獣【グリムプニル】、魔族国では神獣扱いなんだよな。

 一応種族的には幻想種になるんだけれど、スレイプニルとナイトメアリムーバーとの掛け合わせで滅多にいない。

 そもそもナイトメアリムーバーという凶馬が居ない。

 同族殺しのナイトメアで、気性が荒く、仲間の魂を取り込んで強くなるタイプなのだ。

 で、それとスレイプニルが交配したのが魔獣【グリムプニル】。

 全体的に青黒い体毛と青い炎に覆われている。

 ばんえい場を1.5倍くらいにしたような大きさで、空も水上も翔けることができる種族だ。


「轟天、かむ!」


 雑な召喚法だが俺の配下の召喚獣は名前を呼べば大体出てきてくれる。

 なので轟天も読んだら来てくれた。


『ひどいっすよニーサン!たまに呼んでやるから!てもう何年放置してんすか!』

「あー。8年くらい?」

「ですよ!その間、召喚獣部屋で他のと遊んでたからいいけれど!俺は!ニーサンと遊びたいんす!」


 ダシダシ!と前足を踏んで地面に穴をあけていく轟天。

 俺が勇者やってた時に捕まえ、召喚獣として契約したやつだ。


「さて、君の使命だが」

『何なりとお申し付けくださいませ、ユアハイネス』


 やってもらう事を示唆した瞬間、前足を追って平伏した轟天。それでいいのか?

 召喚獣にする前はものすごく高飛車だったのは力isパワーな世界で生きてきたからだろうな。


「急遽、ノイエファルカスとティティアの国境にある【ゲータルド・ダンジョン】に行かなきゃならなくてさ。【魔物暴走スタンピード】の予兆があるんだよ」

『え、それ大変なヤツ……』

「そうなんだ。だからそこまで轟天にひとっ走り付き合ってほしい。家族を乗せて走れるのはお前しか浮かばなくてな……」

『ヒャッホー!出番ですね?解りましたよニーサン!』


 お前しかいない、という言葉に気をよくした轟天は嬉しそうにぴょんこぴょんこ跳ねたんだが、そのたびに地面に穴がな……。

 あとで土魔法で整地しとくか。


「んじゃ枢とメルトを呼んでくるから、たのむな!」

「快適な旅を約束するっすよ!ニーサン!」


 ははは。お前ほんと可愛いな、轟天。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る