第57話✤作り置きを作ろう・1

 さて、2度目の朝市を堪能してゴッソリと食材を買い込んだ僕は、兼ねてより【珊瑚の卵亭】の支配人さんに頼まれていた事を実行した。

 つまり、厨房の見習いを手伝いに使う、ということ。

 支配人さんにお願いしたら2人ほど寄越してくれたので、早速、離の庭に面した部分に【台所要塞キッチンフォートレス】を召喚。

 とは言っても、5台のオーブン付き三口魔道コンロと作業台3つ、食品保管棚を2つ、調理器具を置いた台を1つ出して、動線も考えながら組んだだけなんだけどね。

 メルト曰く「要塞みたい」との事で、この名前を付けた。


「今日はお手伝い宜しくね。僕はカナメ。料理する人」

「俺はアキラ。食べる専門だけど、詰める作業はする」

「メルトです。調理アシスタントです」


 と、来てくれた少年と少女の2人にご挨拶をしたら、2人も同じようにご挨拶してくれた。


「クォーツです。調理場には半年いて、主に皮むきと簡単に切る作業は出来ます」

「ダイヤです。調理場は1年、食材を切って下処理まで出来ます」


 うんうん。名前からも分かるように2人は姉弟だった。

 ダイヤちゃんは12歳、クォーツ君は10歳。

 元々2人のお兄さんがここの給仕をしていて、その縁でお小遣い稼ぎとして朝から夕方の仕込みまでお手伝いしているらしい。

 それと、賄いとてがつけられてなく、痛まない残り物を貰って帰っているようだ。

 別に家族の誰かが病気で~という訳でもなく、ただ単に働けるなら働こう、という意識らしい。

 真面目な姉弟で料理長も気に入っていて、手が空いている時は指南もしていると言っていた。


「今日は勝手が違うから戸惑うだろうし、僕特有のやり方だから、使えそうなところは教えるし覚えてって」

「「はい!」」

「じゃあまずは⋯⋯」


 風呂に放り込んだ。

 一応、衛生面を教えるためにね?

 清潔化オールクリーンでも言いけれど、生活魔法は得意ではないと言うことなので。

 聖に2人を丸洗いしてもらい、その間に子供用エプロンとシャツをサクッと縫い上げたのを付けさせる。

 シャツとエプロンはお手伝いのお礼にプレゼントした。


「まずは手洗いをキチンとね。出来れば石鹸で肘まで洗うこと。あとは指の間、爪の間もね。爪は柔らかなブラシを使ってもいいよ」


 ここは高級宿でもあるから、衛生面や調理場の掃除はしっかりとしているだろうけれど、元日本人としては及第点でしかないからなー。


「洗いました!」

「確認お願いします!」


 と、手のひらを見せてくる2人。

 なんだこの生き物たちかわいいな??


「うん、しっかりと洗えているね。食べ物を扱うなら自分も清潔に、です」

「「はい!」」

「では2人にはまず、皮むきからやってもらうんだけど、量が量なのでこちらを貸します」


 と、僕が出したのは元いた世界ではお馴染みの、ピーラーとスライサー。

 あとは薄手の手袋を5組ほど。

 ピーラーはともかく、スライサーは指を切るからね!!

 切るから!!ほんと!!


「使い方はこう、とこう⋯⋯で⋯⋯」


 とりあえず人参を1本、ピーラーで剥いてからスライサーで切っていく。


「おお!」

「すごい⋯⋯!」

「ピーラーはともかく、スライサーは色んな切り方に出来るんだけど、手を切らないようにね」

「だから手袋をするんですね?」

「ダイヤちゃん、その通りです。他人の血液は不浄と思うこと」

「「はい!」」

「ではまず、この山をお願いね」


 ドン!ドン!ドン!ドン!

 と、僕は魔法鞄からじゃがいも、人参、玉ねぎ、キャベツ、レタス、きゅうり、ナス、ピーマン、トマト(等とよく似た野菜類)を取り出して作業台に乗せて行った。

 山と積まれた野菜類に2人は感嘆の声を上げた。


「すごい⋯⋯!」

「作業順とかありますか?」

「まずはじゃがいも、人参、玉ねぎの皮むきからお願いします。じゃがいもと人参は半分を乱切りで1口大、もう半分を3ミリくらいにスライス、残りはそのままで。玉ねぎは皮むきしたらくし切りとスライサス、みじん切りで。メルトもお願い」

「了解!」

「「わかりました!」」


 乱切りの1口大はこのくらいで、と実演して見せる。

 すると下処理まで出来るダイヤちゃんはすぐに覚え、ある程度の皮むきが終わったら切る作業に入っていった。

 ピーラーとスライサーと人手があるおかげか、1時間でかなりの量が積み上げられた。

 大きめのボウルにいっぱいになった所からメルトが収納してってくれているので、大助かりだ。

 その後も切り方を見せつつ作業に入ってもらい、一区切り着いたところで昼ごはんにした。


「2人のおかげで作業が楽になったから、昼はトマトを使った簡単ビーフストロガノフを作るよ!」

「ビーフストロガノフ?」

「えーと、ブラウンシチューの汁少なめな感じのかな?」

「楽しみです!作るところを見ていてもいいですか?」

「いいよー」


 さて、用意するのは朝市で仕入れたグラスカウの肉。

 草食系の牛の魔物で、飼育しやすい種なので食肉用に飼われているものだ。

 これを品種改良したのがミルクカウで、牛乳やバター、生クリームが作られている。

 ミルクカウも食肉として潰される事があるんだけど、肉質は落ちるけどホワイトシチューやクリーム系に合うので人気は高い。

 中では2年ほどミルクを出させてから食用に転用している所もあるんだとか。へー。


「買ってきたグラスカウの肉を薄めに切っていきます」


 ひと塊大体3キロくらいを、ブッチャーナイフで切っていく。

 このブッチャーナイフ、部位の切り分けはもちろん、厚さも任意で切ってくれるから有難いよね!

 作り置き兼用なので、大量なのだよ。

 ふふふ。

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